【医薬品製剤入門】錠剤の基礎知識を総整理![種類/特徴/製法/添加剤/試験法など]

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錠剤の解説(医薬品製剤の知識)

錠剤は、医薬品製剤のおよそ40%を占める(経口剤の中では約1/3)よく見られる剤形です。
調剤が容易、携帯性等々多くのメリットを持っている剤形といえます。

今回は、医薬品製剤のうち「錠剤」に関する基本知識をまとめました。

1.錠剤とは?

日本薬局方では、「錠剤は,経口投与する一定の形状の固形の製剤である」としています。
錠剤には、多くのメリットがあることから、最も好まれる製剤といえます。
 

錠剤の種類

錠剤には多くの種類がありますが、代表的なものをご紹介します。

  • 通常錠:錠剤そのままで、素錠、裸錠などともいわれています。
  • コーティング錠:苦みの隠蔽、光遮断による安定化、放出の制御を目的として、錠剤を糖衣したり、高分子物質で被膜したりした錠剤で、使用する高分子により腸溶性、徐放性などにすることができます。
  • 口腔内速崩壊錠:口の中で速やかに崩壊する錠剤で、水なしで服用できます。
  • 糖衣錠:素錠を白糖等で被覆した錠剤で、苦みのある薬剤に使われます。
  • チュアブル錠:口内で噛み砕いて服用する錠剤のことです。
  • 多層錠:性質の異なる層を積み重ねた錠剤です。成分を分けたり、放出を制御することなどに用いられる。有核錠も同様な使われ方がされます。
  • 舌下錠:舌下で溶解し、口腔粘膜から吸収させます。
  • その他:発泡錠、トローチ錠などがあります。

 

2.錠剤のメリット・デメリットは?

錠剤は、下記のような特長(メリット)がある製剤です。

  • 服用性に良い大きさ、形状に調整することが容易である
  • PTP包装などにより持ち運びに便利で扱いやすいなどの携帯性、利便性、保存性がある
  • 調剤が容易である
  • 正確な投与ができる
  • コーティング等により苦みを抑えたり、腸溶性、徐放性にすることができる 等々

ただし、下記のようなデメリットもあります。

  • 投与量の調整が困難である
  • 小児、高齢者など嚥下機能が弱いと服用しにくい、また、水が必要である
  • 即効性に劣る 等々

 

3.錠剤の製造方法

錠剤の製法としては、日本薬局方に下記の記載があります。
 

“(2) 本剤を製するには,通例,次の方法による.また,適切な方法により,腸溶錠又は徐放錠とすることができる.
(i) 有効成分に賦形剤,結合剤,崩壊剤などの添加剤を加えて混和して均質とし,水又は結合剤を含む溶液を用いて適切な方法で粒状とした後,滑沢剤などを加えて混和し,圧縮成形する.
(ⅱ) 有効成分に賦形剤,結合剤,崩壊剤などの添加剤を加えて混和して均質としたものを,直接圧縮成形して製するか,又はあらかじめ添加剤で製した顆粒に有効成分及び滑沢剤などを加えて混和して均質とした後,圧縮成形する.
(ⅲ) 有効成分に賦形剤,結合剤などの添加剤を加えて混和して均質とし,溶媒で湿潤させた練合物を一定の形状に成形した後,又は練合物を一定の型に流し込んで成形した後,適切な方法で乾燥する.”(以下略)

 
(ⅰ)~(ⅲ)により素錠が得られ、(ⅴ)以降で糖衣錠やフィルムコーティング錠等について記載されています。

錠剤(素錠)の製法は以下のように分けることができます。
 

(1)直打法

上記(ⅱ)前半部分に相当するもので、薬剤と添加剤の粉末を混合し、そのまま圧縮して錠剤を得る方法です。
工程数が少なくコスト的に有利ですが、硬度や均一性が得られにくい等の問題が生じることがあります。
 

(2)顆粒圧縮法

顆粒圧縮法には、「乾式顆粒圧縮法」と「湿式顆粒圧縮法」があります。

  • 乾式顆粒圧縮法:上記(ⅱ)後半部分に相当する方法で、薬剤と添加剤を乾式で造粒し、滑沢剤などを添加、打錠する方法で、熱や水分に不安定な薬剤に用いられます。水分が少ないため、硬度が得られにくいなどの欠点があります。
  • 湿式顆粒圧縮法:上記(i)の方法であって、薬剤と添加剤を湿式で造粒し、打錠する方法です。工程数は多くなりますが、硬度や均一性が得られやすく、溶出性が向上する等の利点があります。

 

(3)半直接粉末圧縮法

添加剤の実を湿式で造粒し、薬剤とともに混合打錠する方法です。
水分に不安定な薬剤に用いられますが、均一性の問題が生じることがあります。

 

4.錠剤に用いる主な添加剤

錠剤に用いられる添加剤は下記のようなものが挙げられます。

(1)賦形剤

服用しやすい大きさの製剤を造ることを目的に使用されます。
錠剤に用いられる賦形剤としては、糖類、糖アルコール類、デンプン系、セルロース系、無機系があり、乳糖、トウロモコシデンプン、結晶セルロースが多く用いられています。
中でも、乳糖、特に造粒乳糖は、流動性が良好、圧縮成形性があることから直接打錠の錠剤に適しているとされています。
また、結晶セルロースは、圧縮成形性に優れ、直接打錠による錠剤に多く用いられています。

 

(2)結合剤

原薬や添加物を含む粉体混合物に、結合力を与え、成形するために用いられます。
錠剤に用いられる結合剤としては、HPC-L、PVP、L-HPC、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ポリビニルアルコール(PVA)、マクロゴールなどがあります。

 

(3)崩壊剤

胃内で錠剤の形状を崩し、有効成分が溶け出すようにするために加えられます。
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)、カルメロース(カルボキシメチルセルロース・CMC)、カルメロースカルシウム、トウモロコシデンプン、部分アルファー化デンプン、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム(Na-CMS)、クロスポビドン(ポリビニルポリピロリドン、PVPP)などが用いられます。

 

(4)滑沢剤

圧縮(打錠)する際に、圧縮装置に原料が付いたり、圧縮する力などによって錠剤の硬度が不足してしまい欠けてしまったりすることがないようにするために添加されるものです。ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム等が用いられます。

 

5.錠剤に必要な製剤特性

錠剤は、下記のような製剤的特性について考慮する必要があります。

(1)硬度

錠剤の製造工程中や流通過程においてなど服用されるまでの間に、錠剤が破損したりしないようにするためには、一定以上の硬度が必要となります。
ただし、硬度が上がりすぎると服用後体内で崩壊されにくくなりますので、適度な錠剤の硬度にする必要があります。
錠剤の硬度は、実際に割れるときの荷重を評価します。
錠剤硬度測定法が、第18改正日本薬局方の参考情報として掲載予定とされており、PMDAのHPに掲載されています。
 

(2)打錠障害の回避

打錠によって錠剤が帽子を取るように剥がれる現象を「キャッピング」といい、錠剤の側面に縦に傷がつくことを「バインデング」といいます。
また、打錠の際に杵面に粉末が付着してはがれる現象を「スティッキング」、錠剤の表面に凹凸が生じる「ピッキング」、錠剤が層状に剥がれる「ラミネーション」などがあります。
これらの打錠障害を回避するには、添加剤の選択、造粒方法や打錠機の運転方法などを種々検討する必要があります。
 

(3)崩壊性

錠剤が、消化管内で崩壊することにより、有効成分が吸収されますので、錠剤の崩壊性は薬物治療の効果に深くかかわってくることになります。
良好な崩壊性を得るためには崩壊剤を選択・検討します。
 

(4)溶出性

錠剤が消化管内で崩壊した後、有効成分が消化管から吸収されるためには、有効成分が消化管液に溶出することが必要になってきます。
 

(5)含量均一性

目的とする治療効果を得るためには、錠剤に含まれる有効成分が、一定範囲内に含有されている必要があります。

 

6.錠剤に関する製剤試験法

日本薬局方では、医薬品として製造された錠剤が下記試験法に適合することが定められています。

(1)製剤均一性試験法

個々の製剤間での有効成分量の均一性の程度を示すための試験法です。
有効成分の含量が、表示量の一定範囲内にあることを確認し、均一性を保証します。
製剤含量の均一性は、含量均一性試験又は質量偏差試験のいずれかの方法で試験されることになっています。
第17改正日本薬局方6.02に詳細な試験法が記載されています。
 

(2)溶出試験法

経口製剤について溶出試験規格に適合しているかどうかを判定するために、また、著しい生物学的非同等を防ぐことを目的としている試験です。
腸溶性製剤、即放性製剤、徐放性製剤などによって試験方法、判定法が定められています。
第17改正日本薬局方6.10に詳細な試験法が記載されています。
 

(3)崩壊試験法

錠剤が試験液中、定められた条件で規定時間内に崩壊するかどうか否かを確認する試験法です。
製造工程のバラツキが小さいことを確認するための品質管理が主目的としています。
第17改正日本薬局方6.09に詳細な試験法が記載されています。

 

7.錠剤の医薬品(種類別の数と主な医薬品)

添付文書情報で、錠剤の種類別に医薬を調べてみると、以下のようになりました。
(※2021年3月時点の情報です。)

錠剤種類 医薬品数(*) 主な医薬品
錠剤 5000以上 「アゼルニジピン錠」「イミダプリル塩酸塩錠」「イルベサルタン錠」「オルメサルタン錠」「カルベジロール錠」等多数
コーティング錠 2500以上 「アムロジピン錠」「イルベサルタン錠」「エレトリプタン錠」「カルベジロール錠」「シルニジピン錠」等々
口腔内崩壊錠  600以上 「アムロジピンOD錠」「アリピプラゾールOD錠」「エバスチンOD錠」「オランザピンOD錠」「オルメサルタンOD錠」など
糖衣錠 230以上 「アゼラスチン塩酸塩錠」「アロチノロール塩酸塩錠」「エペリゾン塩酸塩錠」「ミグリステン錠」など
チュアブル錠 100以上 「キプレスチュアブル錠」「シングレアチュアブル錠」「モンテルカストチュアブル錠」など
舌下錠 7 「ニトロペン舌下錠」「アブストラル舌下錠」など
トローチ錠 6 「アクロマイシントローチ」「エンペシドトローチ」など

(*)医薬品数はジェネリック医薬品なども含みます。

 

8.錠剤に関する特許・文献の調査

(※いずれも2021年3月17日における検索結果です)

(1)錠剤に関する特許検索

日本特許庁の「J-Platpat」を用いての特許を調査してみました。
 

① キーワード検索
  • 錠剤/CL*A61K/FI ⇒ 14815件

(※医薬品に関するメインの分類(FI)の「A61K」に限定しています。)
 

② IPC(国際特許分類)による検索

錠剤に対応する国際特許分類としては、「A61K9/20」(※特別な物理的形態によって特徴づけられた医薬品の製剤 ・丸剤,ひし形剤または錠剤[2])がありますので、これを用いて検索してみます。

  • A61K9/20/IP ⇒ 17119件

ただし、A61K9/20は、「・丸剤,ひし形剤または錠剤」とあり、錠剤の上位概念を含むものですので、実際の調査ではさらに限定する必要がでてくると思われます。
 

③ Fタームによる検索

錠剤を含むFタームとしては、「4C076AA36」(※4C076 医薬品製剤:形態 ・丸剤;菱形剤;錠剤;トローチ剤;バッカル剤)があります。

  • 4C076AA36/FT ⇒ 19030件

 
また、その下位概念として、次のようなFタームもあります。

  • 直打錠剤 : 4C076AA37/FT ⇒ 2695件
  • 持続、徐放型 : 4C076AA38/FT ⇒ 3127件
  • 糖衣錠 : 4C076AA43/FT ⇒ 762件
  • コーティング錠 : 4C076AA44/FT ⇒ 3763件
  • 腸溶錠 : 4C076AA45/FT ⇒ 1263件
  • 発泡錠 : 4C076AA48/FT ⇒ 357件

 

錠剤の製法としていろいろな造粒法が知られていますが、造粒法別件数は以下のようになりました。

  • 湿式造粒 : [4C076AA36/FT]*[湿式造粒/CL] ⇒ 535件
  • 流動層造粒: [4C076AA36/FT]*[流動層造粒/CL] ⇒ 207件
  • 乾式造粒 : [4C076AA36/FT]*[乾式造粒/CL] ⇒ 197件
  • 押出造粒 : [4C076AA36/FT]*[押し出し造粒/CL+押出造粒/CL] ⇒ 23件
  • 攪拌造粒 : [4C076AA36/FT]*[攪拌造粒/CL] ⇒ 40件
  • 噴霧造粒 : [4C076AA36/FT]*[噴霧造粒/CL] ⇒ 47件

 

(2)錠剤に関する文献調査

J-STAGEを用いて文献調査を行ってみました。(調査日:2021.3.17)

  • 全文検索: 錠剤 ⇒ 15989件
  • 抄録検索: 錠剤 ⇒ 450件
  • 全文検索: 錠剤 and 医薬 ⇒ 4952件
  • 抄録検索: 錠剤 and 医薬 ⇒ 41件

「油状医薬品の錠剤調製」「粉体の圧縮成形に関する研究: キャッピング発生に関する考察」「錠剤の溶出度試験共同研究班報告」などのタイトルの文献が見られました。

 
上記検索によって得られる特許情報や文献の内容についてご興味がある方は、ご自身でデータベースにアクセスして確認してみましょう。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 
 

 

医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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