【必須微量元素】「銅」の基礎知識・要点まとめ解説
「銅」は、生体のホメオスタシスを保つために必要不可欠な微量元素の一つとされています。
体内での銅のバランスが崩れると、さまざまな症状を引き起こす原因となることがわかっています。
遷移元素としては体中に鉄、亜鉛に次いで多く含まれています。
銅が必須微量元素としてはじめて報告されたのは、鉄の次に古く、1928年にアメリカの研究グループが抗貧血因子としての生理作用が見出されたのが端緒であるとされています。
今回は、必須微量元素としての銅について取り上げてみたいと思います。
目次
1.生体内での銅の役割・主な生理機能
食事から吸収された銅は、肝臓で「アポセルロプラスミン」というタンパク質と結合して、セルロプラスミンとなり、全身に運ばれ、種々の酵素の活性中心に結合して、生体内で様々な働きをします。銅を補酵素として活性中心に保持するタンパク質(酵素)は、酸化還元反応に関係する生理的役割を持つものが多いとされています。
代表的な銅を含む酵素としては、下記のようなものがあります。
- スーパーオキシド消去酵素(Superoxide Dismutase,SOD1): 生体に有害な活性酸素種であるスーパーオキシドを不均化して過酸化水素と酸素に変える分子量32,000の酵素です。活性中心に銅と亜鉛を含む酵素で、Cu2+とCu+の酸化還元サイクルによってスーパーオキシドを不均化します。この酵素反応によって細胞内のO2-濃度は細胞内総産生量の10万分の1まで低下するとされています。
- リシルオキシダーゼ: コラーゲンの架橋に必要な酵素
- チロシナーゼ: メラニン色素の生合成に関与
- ドーパミンβヒドロキシラーゼ: 神経伝達物質の生合成に関与
- セルロプラスミン: 血漿中の鉄の酸化に関与
上記酵素以外にも銅が関係するタンパク質として重要な役割を持っているものがあります。
- メタロチオネイン(Metallothienein): メタロチオネインは、金属結合性のタンパク質で、過剰の亜鉛や銅は細胞内ではメタロチオネインに捕捉されます。他にもカドミウム、水銀などの重金属を捕捉します。重金属とメタロチオネインの結合は非常に強いため、結合している重金属は毒性を示さないことから、必須微量元素の恒常性維持あるいは重金属元素の解毒の役割を果たしていると考えられています。
その他にも、銅トランスポータータンパク質などが知られています。
2.銅の摂取基準量
銅は体重65kg の成人体内におよそ80mg程度が保持されており、毎日の食事からおよそ2mg摂取されています。一方で、ほぼ同量の銅を胆汁と共に腸管内に胚珠することにより体内のバランスを保っています。適切な銅の摂取量は、年齢、性別、体重、活動レベルなどによって異なります。
- 成人(18歳以上): 一般的に、成人の一日の銅の推奨摂取量は約0.9ミリグラム(mg)から1.3 mg程度とされています。体内での正常な代謝プロセスを維持するために必要な量です。耐容上限量は男女とも9㎎とされています。
- 子供: 子供の銅の必要摂取量は、年齢に応じて変化します。例えば、乳児の場合、おおよそ0.22 mg/日が必要で、幼児から青年期にかけて必要量は増加します。新生児では体内の銅含量が成人のおよそ5倍もの高濃度に保たれていることが知られています。
- 妊娠中や授乳中の女性: 通常よりも銅の摂取量が増加することがあります。妊娠中の女性の場合、1.0 mg/日から1.3 mg/日程度が推奨されることがあります。
3.銅を多く含む食品
銅は、魚介類、肉類、豆類に多く含まれています。
以下は、銅を多く含む一部の食品の例です。ヒトの銅の摂取はその98%を食品からまかなっているとされています。
- 魚介類: 貝類は銅を豊富に含んでいます。特に牡蠣は非常に高い銅濃度を持っており、銅を摂取する良い方法です。他の貝類も比較的多くの銅を含んでいます。また、イカやタコなどの軟体動物等の呼吸色素(血液)では、銅を含むヘモシアニンというタンパク質が、酸素を運搬しています。そのため、イカやタコには銅が多く含まれています。海産魚介類には10〜50ppmの銅が含まれています。
- レバー: 動物の内臓、特に牛や鶏の肝臓(レバー)は、銅を多く含んでいます。海産魚介類同様に、10〜50ppmの銅が含まれています。
- 豆類: アーモンド、カシューナッツ、ヒマワリの種子、松の実、ピスタチオなどのナッツ等も銅の良い源となります。豆類には3〜4ppm含まれています。
- 穀物: 穀物食品、特に全粒穀物(全粒小麦、オート麦、玄米など)は銅を含んでいます。
[小麦 300μg、玄米 390μg、サツマイモ 130μg] - チョコレート: カカオパウダーやダークチョコレートにも銅が含まれています。
4.銅の吸収・分布・代謝・排泄
(1)吸収
銅は、少量は胃から、大部分は小腸近位部から吸収されます。
食物中の銅が少ない時には効率よく吸収され、銅が多い時は吸収率が低下するため、銅の吸収量としてはそれほど差はないとされてます。低濃度であれば能動輸送、高濃度であれば受動輸送によるものと推定されています。血清中の銅はその約90%がセルロプラスミンと結合、残りはアルブミンやアミノ酸と結合すると考えられています。
銅は腸内の他のミネラルや食品成分との相互作用に影響を受けることがあり、銅の吸収は亜鉛、カドニウムならびにフィチンを含む食物化合物によって阻害されるとされてます。
(2)分布
セルロプラスミンによって運ばれた銅は、さまざまな組織や細胞に運ばれることになります。銅は成人の生体内に約80㎎が存在し、骨、骨格筋に約50%、肝臓中に約10%、その他血液、脳などにも存在しています。
(3)代謝
銅の代謝における主な臓器は肝臓であり、主な代謝経路は胆汁系となります。すなわち、各組織に分布していた銅は、肝臓により不要な銅が取り込まれ、胆汁中に分泌されます。
(4)排泄
銅は主に胆汁を介して排泄されています。すなわち、銅は胆汁として腸内に排出され、糞便とともに体外に排出されることになります。尿中にも排泄されますが、その割合は比較的少ないとされています。排泄される銅は吸収される銅と同程度の量で、体内での出納(ホメオスタシス)のバランスをとっています。
したがって、胆汁性肝硬変など排泄経路の胆管に閉塞をきたすような病変があると、腎からのCu排泄が増加して血清Cu値も高くなるとされています。
5.銅の正常値
成人で、約70~140マイクログラム/デシリットル (µg/dL)が正常値とされています。
6.銅の欠乏症と過剰症
(1)銅の欠乏
銅の欠乏は、セルロプラスミン、チトクロムC酸化酵素等の活性低下を誘発し、貧血、心臓や動脈異常、脳神経障害や色素異常を引き起こすとされています。
また、先天性の欠乏症としてメンケス病があります。メンケス病は、X染色体潜性遺伝による病気で、原則男児に発症し、発症率は男児出生100万人当たり8.03人(約12万人に1人)とされています。
腸管での銅輸送障害によって食事中から摂取された銅が体内に吸収されず、銅の欠乏となります。症状としては、毛、骨、眼、血管などの異常、痙攣、筋肉緊張力の低下、知能や身体発育の遅延などとされています。この病気に対しては、ヒスチジン銅の皮下注射などの非経口的に銅を投与する治療が行われます。
(2)銅の過剰摂取
銅が過剰になると、全身の臓器に銅が沈着して、肝機能障害、神経症状、精神症状、腎障害等全身の臓器障害を呈します。
先天性の病気としてウィルソン病があります。ウィルソン病は、常染色体劣性遺伝で遺伝する病気で、胆汁中への銅の排泄障害による銅過剰症です。銅の排泄が阻害され、銅の過剰による症状を呈します。銅タンパク質であるセルロプラスミンへの銅の取込みも阻害されるためセルロプラスミンの血清中濃度が低下します。
ウィルソン病は日本において出生3万~4万人に1人の割合で発症するとされています。銅キレート剤を服用することにより、銅排泄を促進、症状の進行を抑えする治療法がとられているようです。
7.銅を含む医薬品
- 高カロリー輸液用微量元素製剤:
微量元素成分として硫酸銅を含有 - テトラキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)銅(I)四フッ化ホウ酸:
放射性医薬品基準ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)注射液 調製用
心筋血流シンチグラフィによる心臓疾患の診断、初回循環時法による心機能の診断、副甲状腺シンチグラフィによる副甲状腺機能亢進症における局在診断
8.必須微量元素としての銅に関する特許・文献の調査
(1)銅に関する特許検索
j-Platpatを用いての特許を調査してみました。(調査日:2023.9.13)
特許請求の範囲を検索対象としたキーワード「銅」に、医薬系分野の分類(サブクラス)である「A61K:医療用製剤,歯科用製剤又は化粧用製剤」をかけた件数、「必須 微量 元素」(近接演算)をかけた件数は以下の通りでした。
- [銅/CL] ⇒ 201836件
- [銅/CL]*[A61K/FI] ⇒ 4958件
- [銅/CL]*[必須,5N,微量,5N,元素/AB] ⇒ 15件
これらの内容をざっとみたところ、「液状経腸栄養組成物」「海洋ミネラル成分からなる骨粗鬆症治療および/または予防剤」「生物生理活性用担体」等の特許が見られました。
(2)銅に関する文献調査
J-STAGEを用いて文献調査を行ってみました。(調査日:2023.9.13)
- 全文検索: 「銅* 必須微量元素」 ⇒ 20件
この中には、「特集 : 老化促進要因としての微量元素欠乏症」「生体内での銅の役割に対する最近の知見」「微量元素の栄養と健康」等の文献がヒットしました。
以上、今回は必須微量元素としての「銅」に関する基礎知識をご紹介しました。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
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