【医薬品製剤入門】バッカル錠の基礎知識

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バッカル錠

バッカル錠」は、医薬品製剤のそれほど多いとはいえない剤形ですが、口腔内に比較的長い時間含み、唾液でゆっくりと崩壊して、口腔粘膜を通じて有効成分を吸収させることができる製剤です。この特徴を活かした医薬品として癌患者の鎮痛剤などに用いられています。

今回は、バッカル錠の基礎知識についてご紹介します。

1.バッカル錠とは?

バッカル錠について、日本薬局方では次のように記載されています。

「2.1.3. バッカル錠 Buccal Tablets
 (1) バッカル錠は,有効成分を臼歯と頬の間で徐々に溶解させ,口腔粘膜から吸収させる口腔用錠剤である.」

バッカル錠は、「口腔の臼歯と頬の間に」錠剤を置く特殊な服用形態の錠剤です。唾液で徐々に有効成分を溶解させ、口腔粘膜から吸収させることを想定しています。
舌下錠」が即効性の有効成分を用いることが多いのに対して、バッカル錠はゆっくり吸収させることによって長時間の効果を期待した剤形といえます。ですので、飲み込んだり噛み砕いたりすると、薬の作用は低下することがあります。

なお、バッカル錠は、第16改正日本薬局方で新たにに収載された剤形です。

 

2.他の口腔内用の錠剤との相違点

  • 舌下錠
    舌の下に含んで、溶け出す成分を口の中の粘膜から直接吸収させるようにした錠剤で、作用発現時間が非常に早いという特徴があります。バッカル錠は、舌下錠に比べて有効成分を口腔粘膜からゆっくり吸収させる場合に用いられる剤形となっています。
    (※関連コラム:「舌下錠の基礎知識」はこちら)
  • トローチ剤
    口中で薬が徐々に溶解するように硬く加工された大きな錠剤で、口腔内または咽頭などで炎症を鎮めたり殺菌をしたりします。
    (※関連コラム:「トローチの基礎知識」はこちら)
  • 口腔内速崩壊錠(OD錠)チュアブル錠
    OD錠は口中で水なしで速やかに溶ける錠剤で、チュアブル錠は噛み砕いて服用する剤形です。ともに飲み込むこと(嚥下)を前提としている剤形である点でバッカル錠と異なります。
    (※関連コラム:「チュアブル錠の基礎知識」はこちら)

 

3.バッカル剤の特徴(メリット・デメリット)

バッカル剤の特徴は、基本的には舌下錠に近いです。

メリットとしては下記の点が挙げられます。

  • 口腔粘膜から有効成分が速やかに吸収されますが、舌下錠に比べると効果が表れるまでに時間がかかることがあります。舌下錠よりもゆっくり吸収され、長時間の効果が期待できます。
  • 初回通過効果を受けることがないことから、高い効果が期待される。

 
ただし、下記のようなデメリットもあります。

  • 飲み込んだり噛み砕いたりすると口腔粘膜からの吸収が阻害されます。

 

4.バッカル剤の製造方法

日本薬局方ではバッカル錠は口腔用錠剤の一種として記載されており、その製法は下記の記載があります。

「(1) 口腔用錠剤は,口腔内に適用する一定の形状の固形の製剤である.
 本剤には,トローチ剤,舌下錠,バッカル錠,付着錠及びガム剤が含まれる.
 (2) 本剤を製するには,「1.1.錠剤」の製法に準じる.」

通常の錠剤の製法に準じて製造することができます。

 

5.バッカル剤の添加物

バッカル剤に用いられる添加剤としては、通常の錠剤に用いられるものと同様な添加物が使用されます。
ただし、適度な崩壊性が求められることから、崩壊性を早める添加物は不向きと考えられます。

例えば、イーフェンバッカル錠の添加物は、「D-マンニトール、炭酸水素ナトリウム、無水クエン酸、乾燥炭酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム」を含有しています。
なお、この錠剤は発泡性を有するバッカル錠となっています。
 

6.バッカル剤の製剤特性

バッカル剤は、下記のような製剤的な特性を有していることが求められると考えられます。

  • 臼歯と頬の間で徐々に溶解させる剤形であることから、適度にゆっくりに崩壊することが求められます。
  • 臼歯と頬の間に挟むように服用しますので、適度な大きさが必要と考えられます。イーフェンバッカル錠の場合は、6.4mm~8mmの大きさになっています。

 

7.バッカル剤の製剤試験法

日本薬局方では、医薬品として製造されたバッカル剤が下記試験法に適合することが定められています。

「(3) 本剤は,別に規定するもののほか,製剤均一性試験法〈6.02〉に適合する.
 (4) 本剤は,適切な溶出性又は崩壊性を有する.」

試験法としては以下のような試験になります。

 

(1)製剤均一性試験法

製剤均一性試験法は、個々の製剤間での有効成分量の均一性の程度を示すための試験法です。
有効成分の含量が、表示量の一定範囲内にあることを確認し、均一性を保証します。
製剤含量の均一性は、含量均一性試験又は質量偏差試験のいずれかの方法で試験されることになっています。
第18改正日本薬局方6.02に詳細な試験法が記載されています。
 

(2)溶出試験法

溶出試験法は、経口製剤について溶出試験規格に適合しているかどうかを判定するために、また、著しい生物学的非同等を防ぐことを目的としている試験です。
腸溶性製剤、即放性製剤、徐放性製剤などによって試験方法、判定法が定められています。
第18改正日本薬局方6.10に詳細な試験法が記載されています。
 

(3)崩壊試験法

崩壊試験法は、バッカル剤が試験液中、定められた条件で規定時間内に崩壊するかどうか否かを確認する試験法です。
製造工程のバラツキが小さいことを確認するための品質管理が主目的としています。
第18改正日本薬局方6.09に詳細な試験法が記載されています。

 

8.バッカル剤の医薬品

添付文書情報で、バッカル錠を調べてみました。

  • 種類 : バッカル錠
  • 医薬品数(*) :2
  • 主な医薬品 : 「イーフェンバッカル錠」「メフィーゴパック・ミソプロストールバッカル錠」

(*)医薬品数はジェネリック医薬品なども含みます。

 

9.バッカル剤に関する特許・文献調査

(1)バッカル剤に関する特許検索

J-Platpatを用いての特許を調査してみました。(調査日:2023.9.4)
 

① キーワードによる検索
  • バッカル錠/TX ⇒ 2668件
  • バッカル錠/CL ⇒ 70件
  • バッカル錠/TX*A61K/FI ⇒ 2613件
  • バッカル錠/CL*A61K/FI ⇒ 69件

 

② FIによる検索

バッカル錠に対応するFIは、見当たりませんが、下記FIが近そうです。

A61K 9/00 特別な物理的形態によって特徴づけられた医薬品の製剤
9/20 ・丸剤,ひし形剤または錠剤[2]
9/22 ・・持続または徐放型のもの[2]

  • A61K9/22/FI ⇒ 2758件
  • A61K9/22/FI*バッカル錠/TX ⇒ 45件
  • A61K9/20/FI*バッカル錠/TX ⇒ 349件

実際の調査ではさらに限定する必要がでてくると思われます。

 

② Fタームによる検索

バッカル剤を含むFタームとしては、下記があります。

4C076AA36: ・丸剤;菱形剤;錠剤;トローチ剤;バッカル剤
AA49: ・・トローチ剤;バッカル錠

  • 4C076AA49/FT ⇒ 884件

以上の調査から、「口腔顔面ヘルペス治療用の粘膜付着性バッカル錠」「徐放性バッカル剤の製法」「舌下またはバッカル投与により送出されるシルデナフィルの制御放出」などの特許が見られました。
 

(2)バッカル剤に関する文献調査

J-STAGEを用いて文献調査を行ってみました。(調査日:2023.9.4)

  • 全文検索: バッカル錠 ⇒ 103件
  • 抄録検索: バッカル錠 ⇒ 4件
  • 全文検索: バッカル錠 and 医薬 ⇒ 43件

以上の調査から、「フェンタニル舌下錠とバッカル錠における製剤見本を用いた比較検討・・」「フェンタニルバッカル錠の食前投与により体動時疼痛を軽減した1症例・・」「フェンタニルクエン酸塩口腔粘膜吸収製剤(イーフェンバッカル錠)の使用および薬学的ケアの実態調査・・」などの文献が検出されました。

これらの文献の内容を確認したい方は、ぜひ各データベースを検索してみましょう。

 

ということで今回は、「バッカル錠」に関する基礎知識をご紹介しました。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)

 

医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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