【医薬品製剤入門】二層錠(多層錠)の基礎知識

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多層錠

二層錠」(多層錠)は、医療用医薬品だけでなく、OTCなど市販されている錠剤などでも時々見かける剤形です。
速効性成分と徐放成分を組み合わせて薬の効果を持続させたりすることができるなど、多くのメリットを持っている剤形といえます。

今回は、二層錠の基礎知識をまとめました。

1.二層錠とは?

日本薬局方では、二層錠(多層錠)に関する定義は見当たりませんが、一つの錠剤内に複数の層や区分がある製剤といえます。

二層錠には、次のようなタイプ(種類)があります。
 

(1)2以上の有効成分を含む場合

有効成分同士が配合変化を起こしたり、成分のいずれかが光に弱い等々の理由で2以上の有効成分を別々の層にしたものです。

(例)アスビリン配合錠
アスピリンと制酸緩衝剤(ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート及び炭酸マグネシウム)をそれぞれ別の層に配合した二層錠です。アスピリン末と酸化マグネシウムの間で配合変化を起こすことから別々の層にした製剤です。

 

(2)徐放目的

有効成分が一のみの場合でも、徐放を目的として二層錠にする場合があります。

(例1)パキシルCR錠
パキシルCR錠では素錠(内核)に有効成分を含む親水性マトリックス薬物層と有効成分を含まない浸食性バリア層の二層構造を形成し、薬物の放出速度を制御するとしています。
この場合の浸食性バリア層は、薬物層の表面積を減らし、パロキセチンの溶出を制御する役割があるとされています。

(例2)ツートラム錠
この錠剤は、速放部と徐放部を有する二層錠で、速放部からは速やかにトラマドール塩酸塩が放出されて、早期の鎮痛効果が現れるとともに、徐放部からは安定的に放出されることにより、国内で初めて1日2回投与型を実現したとされています。

 

(3)その他の二層錠

(例)アフタッチ口腔内貼付剤
トリアムシノロンアセトニドを主成分とした、白色付着層と淡黄赤色支持層からなる二層状の錠剤で、患部粘膜に有効成分を含む白色面を付着させて使用します。
口腔粘膜に対して局所徐放性、粘膜付着性、被覆保護性の特性を有するとされています。支持層には有効成分を含んでおらず、患部のみに有効成分を投与させるとともに、患部を保護する役目もあると思われます。

 

2.二層錠の特徴(メリット・デメリット)

二層錠は、下記のようなメリットがある製剤です。

  • 効果の調整が可能:二層錠は、異なる成分や異なる速度で成分を放出するため、治療効果を調整しやすくなります。例えば、速効性成分と徐放成分を組み合わせて、急性症状と持続的な効果を同時に得ることができます。
  • 服薬頻度の減少:徐放目的の場合、通常の錠剤よりも長時間にわたって効果を持続させることができることになり、一日の服用回数を減らすことができます。

 
ただし、下記のようなデメリットもあります。

  • 二層錠は通常、単純な錠剤よりも製造コストが高くなる傾向があります。
  • 二層錠の目的効果から、割って服用すると、治療の効果を損なう可能性もあります。

 

3.二層錠(多層錠)の製造方法

二層錠(多層錠)の製法としては、日本薬局方に下記の記載があります。

「[3] 製剤各条
1. 経口投与する製剤
1.1. 錠剤
(2) 本剤を製するには,通例,次の方法による.また,適切な方法により,腸溶錠又は徐放錠とすることができる.
(ⅶ) 多層錠は,適切な方法により,組成の異なる粉粒体を層状に積み重ねて圧縮成形して製する.」

一般的な二層錠の製法としては、以下のようにすることができます。

通常の錠剤を製造るための原料を調整、打錠用粉末混合物を各層ごとに用意し、打錠機を用いて、第一層を打錠圧縮し、その上に第二層用の粉末混合物を追加、打錠をすることにより二層錠を得ます。必要によって、さらにコーティングを施したりします。

 

4.二層錠(多層錠)の添加物

二層錠剤に用いられる添加剤は、通常の錠剤、速崩壊錠等々で用いられる添加剤が使われているようです。
例えば、下記のようなものが挙げられます。

  • アスピリン配合剤
    サッカリン、サッカリンナトリウム水和物、黄色5号、香料、トウモロコシデンプン、カルメロース、無水クエン酸、タルク、D-マンニトール、アラビアゴム末を含有する。
  • パキシルCR錠
    乳糖水和物、ヒプロメロース、グリセリン脂肪酸エステル、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、メタクリル酸コポリマーLD、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、タルク、クエン酸トリエチル

 

5.二層錠(多層錠)の製剤特性

二層錠は、通常の錠剤に求められる製剤特性を有する必要があるとともに、二層錠特有の問題を克服する必要があります。
例えば、下記のような問題をクリアしていることが求められます。

  • 層間分離の防止:層と層の間の結合力が弱いと服用前に層間での分離が起きることがありますので、これを防止する工夫が必要になります。
  • 層間クロスコンタミネーション:特に配合変化を防止するために二層錠としたものは、層間接触面でのコンタミネーションを防止する必要があります。

その他、錠剤の硬度の確保なども求められます。

なお、二層錠(多層錠)は錠剤に含まれる製剤ですので、日本薬局方では、医薬品として製造された二層錠が種々の試験法に適合することが定められています。

 

6.二層錠の医薬品

添付文書情報で、二層錠を調べてみると、以下のようになりました。

  • 種類 : 二層錠
  • 医薬品数(*) :5
  • 主な医薬品 : 「アスファネート配合錠」「バファリン配合錠」「パキシルCR錠」等

(*)医薬品数はジェネリック医薬品なども含みます。

錠剤以外の製剤としては、「アフタッチ口腔用貼付剤」などがあります。

 

7.二層錠(多層錠)に関する特許・文献の検索

(1)二層錠(多層錠)に関する特許検索

J-Platpatを用いての特許を調査してみました。(調査日:2023.9.11)
 

① キーワードによる検索

  • 二層錠/CL ⇒ 226件
  • 二層錠/CL+多層錠/CL ⇒ 428件

 

② FIによる検索
二層錠剤に対応する分類(FI)として、「・・・層状または薄片状の単一投与形体」を表す「A61K9/24」などが候補として考えられそうです。

A61K9/20・丸剤,ひし形剤または錠剤[2]
A61K9/22・・持続または徐放型のもの[2]
A61K9/24・・・層状または薄片状の単一投与形体[2]

  • A61K9/24/FI ⇒ 741件
  • A61K9/24/FI*[二層/CL] ⇒ 179件
  • A61K9/24/FI*[二層/CL+多層/CL] ⇒ 296件

 
③ Fタームによる検索
二層錠を含むFタームとしては、上記FIに対応する「4C076AA40」(・・・・層状,薄片状)などが候補になると思われます。

4C076AA 医薬品製剤
 AA36・丸剤;菱形剤;錠剤;トローチ剤;バッカル剤
 AA38・・持続,徐放型
 AA39・・・形状,構造に特徴
 AA40・・・・層状,薄片状

  • 4C076AA40/FT ⇒ 856件
  • 4C076AA40/FT*[二層/CL+多層/CL] ⇒ 363件

以上の調査から、「二層錠製剤」「多層錠」「多層状ニコチン含有医薬組成物」などの特許が見られました。
 

(2)二層錠(多層錠)に関する文献調査

J-STAGEを用いて文献調査を行ってみました。(調査日:2023.9.11)

  • 抄録検索: 二層錠 ⇒ 1件
  • 抄録検索: 二層錠 or 多層錠 ⇒ 2件
  • 全文検索: 二層錠 or 多層錠 ⇒ 33件

「内服用多層錠剤または多層丸剤の製造法」などの文献が見られました。

これらの文献の内容を確認したい方は、ぜひ各データベースを検索してみましょう。

 

ということで今回は、「二層錠(多層錠)」に関する基礎知識をご紹介しました。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)

 

医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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