【医薬品製剤入門】結合剤とは?代表的な種類・特徴、選択のポイント[医薬品添加物の解説③]

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医薬品添加物・結合剤の解説

前回の連載で解説した「崩壊剤」は、体内で錠剤が溶け出すようにする添加剤でしたが、一方で、服用する前はその形がすぐに崩れてしまっては困ります。

製造する際にも、運搬する際にも、衝撃などによって壊れることがないようにする必要があるわけです。
この目的で添加されるものを「結合剤」といいます。
今回は、その結合剤に関する基礎知識を解説します。

1. 結合剤とは?

医薬品原薬や賦形剤などの添加物は通常粉末ですので、そのままで服用することは難しいことから、顆粒や錠剤の形態にします。この粉末を造粒して顆粒にする、または、その顆粒を打錠して錠剤を得るには、粉末を互いに凝集させる(結合しやすくする)必要があります。
原薬や添加物を含む粉体混合物に、結合力を与えて成形するために用いられる添加剤が「結合剤」です。

結合剤は、錠剤の強度を増すために加えられるもので、製造工程や輸送時において破損することがないようにする目的で使われます。

 

2. 結合剤の作用機序

結合剤の添加方法には、結合剤溶液を添加する方法と、結合剤を粉末で添加してそこに溶媒を加える方法があります。

粉体粒子間に結合剤溶液が入り込むと、粉体粒子が液体を吸い込む力が働き、粉体粒子は液によって架橋されることになり、粉体粒子間に結合力が生じることになります。

ただし、液体が粉体粒子に親和性がないと結合力は生じなくなり、結果として、造粒できなくなるといったこともあります。

 

3. 主な結合剤の種類

結合剤は、セルロース系、ビニル系、デンプン系に分類することができます。

「セルロース系」としては、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)などがあります。
また、「ビニル系」としては、ポリビニルピロリドン(PVP)などが、「デンプン系」としては、トウモロコシデンプンなどが用いられています。

以下代表的な結合剤を取り上げてみます。
 

結晶セルロース

結晶セルロース

植物の細胞膜の主成分であるセルロースを酸で部分的に加水分解・精製したものです。
白色の粉末状で、水に溶けず、味はありません。微小なセルロース結晶が集合した粒子状になっています。
最大使用量は経口投与で 3.7gとなっています。
賦形剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、崩壊剤、流動化剤等としても使用されます。

結晶セルロースは、圧縮成形性に優れ、直接打錠による錠剤に多く用いられています。
保水があり、湿式造粒にも用いられます。
化学的安定性が高く、流動性や崩壊性が良好で、散剤やカプセル剤にも適しているとされています。

粒度、粒子形状、嵩密度などによるグレードがあり、必要に応じて選択されます。
直接打錠処方において、流動性不足の場合は、造粒乳糖や高流動性結晶セルロースを使用すると流動性が良好となる場合があります。
また、成形性不足の場合は、高成形性結晶セルロースを使用すると成形性が良好となる場合があるようです。
 

ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)

ヒドロキシプロピルセルロース

セルロースを水酸化ナトリウムで処理した後、プロピレンオキサイド等のエーテル化剤と反応して得られる非イオン性のセルロースエーテルです。
一般のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は 、モル置換度(MS)が3程度 で、水溶性およびアルコール可溶性です。
HPCは、白色~帯黄白色の粉末又は粒状で、ほとんど臭いがなく、塩類や酸、アルカリに不安定で、界面活性作用、熱可塑性もあります。
最大使用量は、経口投与 7.05g、その他の内用 88mg、筋肉内注射 25mg、一般外用剤 30mg/g などとなっています。

医薬品としては、用途 安定(化)剤、滑沢剤、可溶(化)剤、基剤、懸濁(化)剤、光沢化剤、コーティング剤、糖衣剤、乳化剤、粘着剤、粘着増強剤、粘稠剤、粘稠化剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤など多岐にわたり用いられています。

両親媒性で、医薬品錠剤の結合剤やコーティング剤、角膜保護剤や潤滑剤としても用いられており、医薬品の結合剤としてHPCが90%以上のシェアを占めているとされています。

ちなみに、MSが0.2~0.4程度のものは低置換度のヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)となり、崩壊剤として用いられます。
 

ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)

ヒプロメロース

ヒプロメロースは、メチルセルロースにヒドロキシプロピル基を導入したセルロースエーテルであり、置換度タイプが異なるものが、いくつか医薬品に用いられています。
白色~帯黄白色の粉末又は粒で、エタノール(99.5)にほとんど溶けません。
その一方で、水を加えると膨潤し、澄明又は僅かに混濁した粘稠性のある液となります。
最大使用量は、経口投与 40mg、一般外用剤 15mg/gとなっています。

医薬品としては、基剤、コーティング剤、賦形剤、粘着剤、粘稠剤などにも用いられています。
 

ポリビニルピロリドン(PVP) 、ポビドン

ポリビニルピロリドン

N-ビニル-2-ピロリドンの重合した高分子化合物で、分子量が約40,000 の低分子量品と、分子量が約360,000 の高分子量品があります。
吸湿性の高い白~淡褐色の粉末で、においがないか又は微かににおいがあります。
多くの合成高分子化合物と異なり水によく溶解し、化学的安定性に優れ、疎水性物質とも親水性物質とも錯体を形成し、毒性もないとされています。
最大使用量は、経口投与 400mg、眼科用剤 30mg/g、経口投与 600mg、一般外用剤 50mg/g、経皮 70mg などとなっています。

医薬品としては、安定(化)剤、滑沢剤、矯味剤としても用いられます。

ちなみに、架橋の多いポリビニルピロリドンは、クロスポビドン(ポリビニルポリピロリドン、PVPP)で、水に溶けなくなり、スーパー崩壊剤になります。
 

低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)

LHPC

少量のヒドロキシプロポキシ基をグルコース環に導入したもので、白色~帯黄白色の粉末又は粒です。
非イオン性で、薬物との相互作用を起こしにくく、安定性があります。
最大使用量は経口投与で 1.4gとなっています。

ヒドロキシプロポキシ基(-OCH2CH(OH)CH3)を5~16%を含むものを「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」(L-HPC)と称し、低置換度にすることによってアルコールには不溶となり、水に不溶で膨潤する性質(吸水性膨潤性)となります。これらの物性を応用し、現在、広く医薬品の錠剤や顆粒剤の製造に用いられており、固形製剤の主に崩壊剤として使用されます。
L-HPCには、種々の置換度、粒子形状をもつタイプがあり、粒子の大きさや形を変えると結合性が変化しますので、用途に合わせて使い分けがされます。
崩壊剤、可溶(化)剤、コーティング剤、分散剤、賦形剤としても使用されます。
 

トウモロコシデンプン

トウモロコシを原料にとした純度の高いデンプン(コーンスターチ)です。

白色、無臭で、水またはエタノールにほとんど溶けず、化学的安定性が高く、崩壊性が比較的良好で、安価な点がメリットです。
最大使用量は経口投与で 19gです。配合量としては、通常5~30%です。
トウモロコシデンプンの粒径は6~25μmでよくそろっている特徴があります。

流動性、圧縮成形性が低いため、湿式造粒で使用されることが多いようです。
崩壊剤としても使用されることがありますが、その作用は緩和なものとされています。
崩壊剤、滑沢剤、分散剤、賦形剤、流動化剤、コーテイング剤などとしても使用されます。

 

4. 結合剤選択のポイント

結合剤は、剤形を保持したり、製造工程や輸送における破損を防止するために用いられます。
すなわち、医薬品製剤として充分な機械的強度が求められますので、剤形保持や破損防止に耐えうるように結合剤を選択する必要があります。
ただし、できるだけ少量の添加量で充分な強度であること、なるべく低い打錠圧で錠剤の強度が得られるようにすることが望まれます。

結合剤に関して一般的に言われていることとして、

  • 結合剤の添加量を増やすと、造粒された顆粒の強度は増大し、粒子径も大きくなる
  • 粉末添加後に溶媒を添加する方法では、結合性がやや低下するものの、崩壊性が良くなる傾向がある。その際の溶媒の添加速度と造粒粒径は比例して大きくなる一方で、強度は下がる。
  • 直接打錠法では、使用する結合剤の粒子径が小さくなると錠剤の強度が増す
  • 疎水性の薬物の場合、粒子径が小さくなると結合剤溶液量を多く必要とする傾向があり、逆に、親水性薬物は、粒子径が小さいと少ない液量で造粒できる場合がある。

などが挙げられますが、結合剤は種類も多く、それぞれに置換度、重合度など種々のグレードがありますので、医薬品製剤個々の目的に合ったものを選択しなければなりません。

 

5.結合剤に関する特許・文献を検索してみると?

(※いずれも2020年7月時点での検索結果です)

(1)結合剤に関する特許検索

j-Platpatを用いて結合剤の特許を調査してみました。(調査日:20200728 )

キーワード検索: [結合剤/CL] ⇒ 38989件
[結合剤/CL]*[A61K/FI] ⇒ 5345件

結合剤にはFターム4C076FF05があります。
Fターム検索: [4C076FF05/FT] ⇒ 2715件

この2715件を年代別グラフにしてみると・・

2715件を年代別グラフ

また分野別にみてみると、やはり医薬分野が圧倒的に多いです。

分野(FI) 件数
A61 2715
C07 327
A23 204
C08 130
B01 91
C12 91

 

《各添加剤別の件数》

  • 結晶セルロース
[4C076FF05/FT]*[結晶セルロース/CL] ⇒ 353件

  • HPC
[4C076FF05/FT]*[ヒドロキシプロピルセルロース/CL+HPC/CL] ⇒ 596件

  • HPMC
[4C076FF05/FT]*[ヒプロメロース/CL+ヒドロキシプロピルメチルセルロース/CL+HPMC/CL] ⇒ 627件

  • PVP
[4C076FF05/FT]*[ポリビニルピロリドン/CL+ポビドン/CL+PVP/CL] ⇒ 754件

  • L-HPC
[4C076FF05/FT]*[低置換度ヒドロキシプロピルセルロース/CL+L-HPC/CL] ⇒ 142件

  • トウモロコシデンプン
[4C076FF05/FT]*[トウモロコシデンプン/CL] ⇒ 93件

やはり医薬品製剤に関する特許が圧倒的に多くヒットしました。
実際の調査では、さらなる絞り込みが必要と思われます。

 

(2)結合剤に関する文献検索

無料の文献データベース「J-STAGE」を用いて文献調査を行ってみました。

  • 全文検索: 結合剤 →4768件
  • 全文検索: 結合剤 * 医薬 →427件
  • 全文検索: 結合剤 * 結晶セルロース →73件
  • 全文検索: 結合剤 * ヒドロキシプロピルセルロース →→66件
  • 全文検索: 結合剤 * ヒプロメロース →6件
  • 全文検索: 結合剤 * ポリビニルピロリドン →37件
  • 全文検索: 結合剤 * 低置換度ヒドロキシプロピルセルロース →14件
  • 全文検索: 結合剤 * トウモロコシデンプン →28件

検索結果のリストを見てみると、「医薬品における造粒について」「造粒に及ぼす各種セルロース誘導体の結合剤としての効果」「湿式顆粒の研究」など、タイトルの中にに「造粒」という用語がある文献が多くヒットしていました。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・T)
 

医薬品関連の特許調査なら日本アイアール

 

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