【フィルム異物対策のツボ】フィルム製造での静電気対策と除塵方法を専門家が解説

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異物対策は静電気対策と併せて行います
なぜかというと異物もフィルムも帯電しやすいので、静電気が異物の付着を促すからです。

異物対策を施していても、原反フィルムのエッジからの発塵や作業者の皮膚など、どうしても発生を防ぎにくい塵埃には、最後の手段として除塵装置で取り除きます。

1.なぜ帯電するのか?(フィルムの帯電列)

フィルムの表裏や工程ロールが接すると帯電します。
個々の物質には固有の仕事関数があり、その差が大きいほど電荷の移動が促されるからです。

異なる物質が接した時の帯電の序列は「帯電列」として広く知られています。
文献により序列が異なる場合もあるので、図1に一括整理しました(文献1~5)。

一般にフィルム帯電列はフッ化化合物で調整されます。
これはフッ素が全ての物質に対しマイナスの帯電列なので、プラス帯電を緩和しやすいからです。

 

帯電列と仕事関数
【図1 帯電列と仕事関数】

 

2.静電気を逃がすには?(表面抵抗)

一旦、接触帯電しても、表面抵抗が小さければ、直ぐに電荷は漏洩してくれます。
図2に一般の製品に求められる表面抵抗率の目安をまとめました(文献1)。

 

表面抵抗率の目安
【図2 表面抵抗率の目安】

 

3.素材による対策(フィルムの帯電調整)

フッ化化合物以外の帯電調整剤は、表面抵抗を下げる目的で導入されます。
代表的な帯電調整の素材を下記にまとめました(文献1)。

 

(1)イオン液体

分子サイズの大きいカチオンとアニオンを練り込んで、液中イオンのように電気伝導を促します。
極性が大きいポリカーボやアクリルに練り込むと効果的で、湿度依存性が低いことも長所です。

 

(2)PPO-PEO重合体とLiイオンの練り込み

ポリウレタン(PU)やPETなど極性の低い高分子フィルムに、PPO-PEO共重合体とLi塩を練り込みます。
Liイオンが、PPO-PEOのエーテル酸素との配位結合を移動して導電性が発現します。
フィルム中のPPO-PEO共重合体及びLiイオンが多いほど表面抵抗率を低減できます。

 

(3)界面活性剤のフィルム練り込み

界面活性剤をフィルム製膜時に練り込んで経時すると、界面活性剤がプリードアウトして、親水基が表面配向し、導電層を形成します。
親水基には空気中の水分が吸着しやすいので、高湿にすると表面抵抗が低下します。

 

(4)PEDOT-PSS

導電性高分子として有名な素材です。EG(エチレングリコール)を微量添加すると、電導度が2桁も向上し得ます。
極性溶媒であるEGがPEDOT-PSSの2次構造における静電相互作用を弱め、3次構造のコロイド粒子を形成し、PEDOT-PSSネットワークのPSSを表面に偏在させる効果が発現します。

なお、コロイドの水分散は難しく技術ノウハウを伴うことと、青着色してしまうので添加量を抑えることが留意点です。

 

(5)無機微粒子

無機ナノ粒子を塗工して導電性を付与します。
近年は環境対応で、Sb(アンチモン)ドープSnO2ではなくSbを排除したナノ粒子が使用されることが多くなってきています。
留意点としては、青着色とヘイズが増えるので使用量を適量にする必要があります。

 

4.除電の方法と有効な条件

一般的な除電方式の除電能力の目安を図3に示しました(文献6)。

自己放電方式では、10kV以上の高電圧を緩和できますが、数kVの低帯電圧では除電作用が発現しません。
イオン風や印加方式のコロナ放電で除電するためには、帯電圧に見合ったイオン量を供給する必要があります。
なお、電極をフィルムに近づけるほどイオンの発生量が増えて、マクロには効率的に除電できますが、近づけ過ぎると「逆帯電」といい元々帯電していない個所に荷電してしまうことがあるので、適正な電極の距離(一般には30mm以上)を保つのが好ましいです。

 

除電前後の帯電圧
【図3 除電前後の帯電圧】

 

5.塵埃の付着状態

異物は落下して付着したように簡単に除去できるものから、こびりついて簡単には剥がせないものまで様々です(図4)。異物のサイズと付着状況に応じて、接触・非接触Wet・Dryの除塵方式を採用します。

 

異物の付着状態
【図4 異物の付着状態】

 

6.除塵方法の分類

付着状況だけでなく、異物のサイズ次第で効果的な除塵方法は変わります(図5)。

 

除塵方法の分類
【図5 除塵方法の分類】

 

7.フィルムの除塵方法

フィルムの除塵方法として代表的なものをご紹介します。

 

(1)粘着ローラー

ラバーローラーが付着異物を剝離し、さらにラバーローラーから粘着テープに転写して異物を除去します。
粘着テープから異物が再転写しないよう、粘着テープは適宜更新する必要があります(文献7~9)。

 

粘着ローラー
【図6 粘着ローラー】

 

(2)エアナイフ

高圧エアを吹付けて異物を剝離します。剥離された異物はバキュームして回収します。
なお、空気抵抗の影響で、フィルム表面から数10μmで吹付けたエアが減衰しまい、微小異物は除去しにくい傾向にあります。これは、風が弱まり剥離力が極端に低下しているので、異物が舞い上がってくれないためです(文献10)。

 

エアナイフ方式
【図7 エアナイフ方式】

 

(3)超音波除塵

超音波の剥離力がフィルム表面まで伝播されて異物を舞わせる効果が発現するので、10μm以下も塵埃も除去することが可能です(文献10)。

 

超音波除塵の効果
【図8 超音波除塵の効果】

 

以上紹介した除塵方法はあくまでも最後の手段であり、それ以前にクリーンルームによる異物対策や静電気対策を施して、異物自体が持ち込まれないようにするのが望ましいです。
 
 

(※この記事は AndanTEC代表 浜本伸夫 講師からのご寄稿です。)
 


≪引用文献、参考文献≫

  • 1)浜本伸夫、「理論と現場の融合でRTRプロセスの改善を目指す(フィルムの帯電対策」、コンバーテック (2022年5月号)、pp36-41
  • 2)仲野純章、「静電気概念の再整理」、技術解説(奈良県立奈良高等学校・京都大学サイエンス連携探索センター)、p23-31
  • 3)真貝、「8 電気製品の物理 IC カードに寿命なし、宮水学園マスター講座(日常は物理で満ちている)」、p103-122 (2015)
  • 4)森谷東平、「Triboelectric Series 帯電列」(2016.2.8)
  • 5)平井学、木村裕和、「絶縁体同士の摩擦帯電及び接触帯電に関する実験的検討」静電気学会誌,vol.42(No.1)p2-8(2018)
  • 6)浜本伸夫、「理論と現場の融合でRTRプロセスの改善を目指す(クリーンルームとフィルムの除電)」、コンバーテック(2022年4月号)pp38-43
  • 7)浜本伸夫、「コンバーティングテクノロジー総合展2022 Special Report」、コンバーテック、(2022年3月号)pp103-108
  • 8)レヨーン工業社 提供データ
  • 9)レヨーン工業社 ホームページ 「【拭取りクリーナー】RUTR Series」
    https://www.rayon.co.jp/products/005.php
  • 10)ヒューグルエレクトロニクス社 提供資料

 

【併せて読みたい連載コラム】スロット塗工のツボ(スロットダイコーティングに関する実務解説記事)

 

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