《エアコン・冷蔵庫の省エネに革命?》磁気冷凍とは何か|水素の液化用途でも期待される注目技術

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磁気冷凍技術の解説

地球温暖化問題を解決するには再生可能エネルギーの拡大だけではなく、省エネの推進も必要です。
本稿では次世代型の省エネ技術として「磁気冷凍」を紹介します。

 

1.省エネの現状《課題は産業部門よりも家庭部門?》

かつての石油ショックを契機に我が国で省エネルギーの必要性が叫ばれるようになってから、ほぼ50年を経過しました。エネルギー消費はこの間どう変化したでしょうか?

図1は部門別のエネルギー消費について1973年と2018年を比較したものです。
産業部門では2018年には0.8倍まで低下しました。これには産業界での省エネ努力が反映しています。

一方、家庭部門や運輸部部門では大幅に増加しています。
これらの部門では省エネできた量を、生活水準の向上による消費量の増加が大きく上回ったと考えられます。

 

最終エネルギー消費の部門別伸び率
【図1 最終エネルギー消費の部門別伸び率 ※引用1)

 

エアコン・冷蔵庫の電力消費量は膨大

図2は家庭部門の家電製品に焦点をあて、2018年の電力消費割合を示したものです。夏季・冬季共にエアコンと冷蔵庫の割合が高く、両者合計でほぼ半分、エアコンだけでほぼ1/3を占めていることが分かります。従って、エアコンや冷蔵庫は特に省エネが求められる家電と言えます。

 

家庭内における家電製品の一日での電力消費割合
【図2 家庭内における家電製品の一日での電力消費割合(2018年) ※引用2)

 

実際にエアコンの省エネ性は、図3に示す通り、2018年に至るまで着実に向上してきています。

 

エアコンの期間消費電力量の推移
【図3 エアコンの期間消費電力量の推移 ※引用3)

 

エアコンの省エネ性向上には以下の要素が寄与していると評価されています3)

  • インバータによる運転制御
  • 冷却ファンの高効率化
  • 熱交換器の性能向上
  • コンプレッサーの改良

しかしこれらによる省エネ性向上も、図3で2010年以降の向上は小幅ですので、限界に近づいているようにも見られます。

 

2.磁気冷凍の仕組み・原理《蒸気圧縮冷凍との違い》

今後、エアコンや冷蔵庫で大幅な省エネを実現するためには、従来とは異なる新原理に基づく次世代型の冷蔵・冷凍法が求められています。その可能性を持つのが磁気冷凍法です4)

図4は磁気冷凍の原理を、既存の蒸気圧縮冷凍と比較したものです。
蒸気圧縮冷凍は冷媒をコンプレッサーを用いて圧縮した際の発熱と、冷媒を膨張させた際の吸熱を利用して冷凍します。
これに対して磁気冷凍では、磁性体に磁場を印加して電子スピンを揃えた際の発熱と、磁場を取り去って電子スピンをランダムにした際の吸熱を利用します。

蒸気圧縮において必要不可欠なコンプレッサーが磁気冷凍では不要なことが両者の最大の差です。
コンプレッサーはエアコンの消費電力の約80%を占めていますので5)、この差は非常に大きな意味を持ちます。磁場の印加と除去にもエネルギーを要しますが、コンプレッサー動力に比べると僅かなため、磁気冷凍は原理的に大幅な省エネルギーが可能です。

 

蒸気圧縮冷凍と磁気冷凍の原理の比較
【図4 蒸気圧縮冷凍と磁気冷凍の原理の比較4)

 

磁気冷凍は、磁場印加時の磁気エントロピーが低い状態と、磁場を取り除いた際の磁気エントロピーが高い状態をサイクル化しているとみることができます。従って、理論的には“磁気熱量効果”を利用した冷却法です。

産総研の磁性粉末冶金研究センターの藤田麻哉氏は、この磁気冷凍に好適なランタン・鉄・シリコン系磁性体を2000年頃に見出し、基本特許を取得しています6)。早期の実用化が期待されます。

 

3.拡大が期待される磁気冷凍の用途

磁気冷凍はエアコンや冷蔵庫用以外に、次世代燃料である水素の液化にも現在検討されています7)
水素の液化には約20K (-253℃) という極低温が必要ですので、エアコン用とは異なる磁性材料が選択されています。

今後その他の分野でも磁気冷凍技術の利用が進むと予想されます。
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

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