磁性材料(レアアース/レアメタル)の使用量削減・節約方法に関する技術《コバルト/ジスプロシウムの例》

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レアメタル

磁性材料は、外部磁場の印加により強く磁化され、外部磁場を取り去っても自発磁化(残留磁化)が残る強磁性の性質を示します。
今回は、磁性材料を生産するために必要な原料の中で、コバルトおよびジスプロシウム使用量削減・節約に関する技術をご紹介します。

1.レアアースとレアメタルの希少性

表1の周期表に、レアアースの元素を桃色で、レアメタルの元素を桃色と黄色で示しました。

 

【表1 周期表】
周期表

 

レアアースは、科学用語でもあります。表1の周期表の3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2種類と、ランタノイド族のランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15種類の合計17種類の希土類金属です。

レアメタルは、地殻中の存在量が比較的少なく産出地域が偏っており採掘と精錬が困難な非鉄金属です。表1の周期表の黄色と桃色で示した、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)からビスマス(Bi)などの47種類の金属であり、日本政府が「安定供給の確保が政策的に重要である」として指定しています。
なお、レアアースの17種類は、レアメタル47種類に含まれます。

 

2.地殻中における磁性材料(原料)の存在度

磁性材料には、外部磁場を取り去ったあとの自発磁化(残留磁化)が大きい「硬磁性材料」(永久磁石材料)があります。

硬磁性材料の主な原料は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の遷移金属、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)などの希土類金属で、鉄以外はレアメタルです。

主な原料の地殻中の元素の存在度を表2に示します。

コバルト(Co)は希土類金属と較べると元素存在度は大きいですが、産出地域が偏っており、政治状況などの影響を受け易いため、使用量節約が課題となってきました。

また、ジスプロシウム(Dy)はネオジム磁石の中心組成の金属ではないですが、磁気特性確保のために必要であり、また希土類金属の中でも元素存在度が小さいので使用量節約が課題とされています。

 

【表2 大陸地域の地殻における元素存在度】

元素名 元素記号 クラーク数(*1)
(化学便覧:1966)
Fe 47,000
コバルト Co 40
ニッケル Ni 100
ネオジム Nd 22
サマリウム Sm 6
ジスプロシウム Dy 4

(*1)クラーク数:地表部付近から海水面下10マイルまでの元素の割合(ppm)

 

3.コバルト(Co)の使用量削減・節約

(1)コバルトとは

コバルトは、原子番号27の元素で、純粋なものは銀白色の金属です。
常温での結晶構造は六方最密充填構造で、420℃以上で面心立方構造に転移します。
キュリー点は1150℃耐熱特性に優れ鉄と比べて腐食にも強い特徴があります。

[※関連記事:《強磁性3元素》鉄(Fe),コバルト(Co), ニッケル(Ni)の特徴を比較して整理!磁性材料の基礎がわかる はこちら]

 

(2)鉄クロムコバルト磁石による、アルニコ磁石のコバルト使用量節約

鉄クロムコバルト磁石」は、(Fe-Cr-Co)を主原料とした鋳造磁石で、(Fe-Al-Ni-Co)を主原料としたアルニコ系磁石と同等な磁気性能を持つ磁石です。

コバルトの含有率は、アルニコ系磁石の13~35%に対し、Fe-Cr-Co磁石は12~15%に低減され、コバルトの使用量を節約しています。また比較的高価なニッケルを使用しません。

 

(3)サマリウム鉄窒素磁石による、サマコバ磁石のコバルト代替

サマリウム鉄窒素磁石」は、(Sm-Fe-N)を主原料とする希土類磁石で、(Sm-Co-Fe)を主原料とするサマコバ磁石のコバルト代替を実現し、コバルトの使用量を節約しています。

サマリウム鉄窒素磁石の保磁力はネオジム(Nd-Fe-B)磁石の5倍程度と高いものの、高温(約550℃)で窒素が分解します。そのため、焼結磁石への適用は難しいことから、現状ではボンド磁石として使用されています。

 

4.ジスプロシウム(Dy)の使用量削減・節約

サマコバ磁石の課題(コバルトの供給不安+コバルトの価格が高い+サマリウムの埋蔵量が少ない)に対応すべく、鉄とレアアースとしては比較的元素存在度が大きいネオジムを使用した「ネオジム磁石」(Nd-Fe-B)が開発されました。

ネオジム磁石のキュリー温度は300℃前後で、サマコバ磁石の700℃前後よりも低く、ネオジム磁石は耐熱特性の課題があります。
ネオジム焼結磁石は、マイクロメータオーダの結晶粒径の主相と、結晶粒界に沿って形成される副相からなります。保磁力は主相の結晶磁気異方性、サイズ、配向度および副相にも影響されます。

[※関連記事:3分でわかる技術の超キホン 主な希土類磁石と金属合金磁石 [サマコバ磁石,ネオジム磁石,アルニコ磁石] はこちら]

 

(1)ジスプロシウムとは

表1の周期表の希土類元素のうち、原子番号64のガドリウム(Gd)よりも原子量が小さい元素(La~Eu)を「軽希土類元素」、重い元素(Gd~Lu)を「重希土類元素」と呼びます。

原子番号60のネオジム(Nd)は軽希土類元素で、原子番号66のジスプロシウム(Dy)は重希土類元素です。

ジスプロシウムは、金属的な銀色の光沢を持つ金属です。
常温での結晶構造は六方最密充填構造で、約-185℃のキュリー温度以下で強磁性を示します。
磁歪が大きいという特徴があります。

 

(2)ジスプロシウムの効果

ジスプロシウムを添加したネオジム磁石は、高温になっても磁力が低下し難くなるという特徴があります。
ジスプロシウムはネオジムよりも大きな結晶磁気異方性(*2)を持つので、ジスプロシウムがネオジムと置換したDy2Fe14B化合物はNd2Fe14B化合物よりも異方性磁界が大きくなり、(Nd、Dy)2Fe14B化合物の結晶全体の保持力が大きくなると考えられています。

しかし、表2に示したようにジスプロシウム元素の存在度はネオジムよりも小さく、また、鉱物産出地域が偏在しているために安定確保が困難となり、ジスプロシウム原料の使用量節約が課題となりました。

(*2)結晶磁気異方性:電子の軌道が一軸方向に大きく伸びると、スピンが特定の結晶方向に強く配向するようになり、特定の方向で磁化されやすくなる特性。

 

(3)結晶サイズの微細化による節約

結晶粒径を微細化して、金属組織に占める結晶粒界の割合を大きくすることで、保磁力を増加させます。
結晶粒界は、格子欠陥や不純物などと同じように磁壁移動の妨げとなるピニングサイト(ピン留め部)になる確率が高いため、結晶粒界の割合が大きいと保持力が大きくなると考えられています。

製造方法としては、材料粉を微細化し、低酸素環境条件下で粉砕・成形するなどの方法があります。

 

(4)ジスプロシウムの配置による節約

通常の合金法では、(Nd-Fe-B)の合金を造る際にジスプロシウムを混ぜているため、ジスプロシウムは結晶全体にほぼ均一に分散します。
これに対し、結晶粒界近傍の副相のジスプロシウム濃度を高め、主相の濃度を低くして、ジスプロシウムを節約するという新たな方法も実現しています。
図1のネオジム磁石の結晶粒子において主相(白色部)に較べ結晶粒界(灰色部)近傍の副相(褐色部)のジスプロシウム濃度を高くします。

磁石の減磁過程において、磁化反転は結晶粒界近傍の異方性磁界の低い部分を起点として逆磁区が発生すると考えられています。そこで、異方性磁界の大きいジスプロシウム化合物(Dy2FeB)をより多く結晶粒界近傍の副相に配置させ、ジスプロシウムを有効に作用させます。

 

ネオジム磁石の結晶粒子
【図1 ネオジム磁石の結晶粒子】

 

この製造方法としては、下記のようなものがあります。

  • (Nd-Fe-B)粒子の周りにジスプロシウムリッチ粉末を付着させ、加熱することにより、ジスプロシウムを粒に沿って固体拡散によって分布させる方法。
  • (Nd-Fe-B)磁石を液状化が可能なジスプロシウムの化合物中に浸漬、または化合物を塗布し、ジスプロシウムを結晶粒界に拡散させる方法。
  • 高い蒸気圧をもつジスプロシウム金属含有蒸気を、高温減圧下で形成し(Nd-Fe-B)磁石の表面に蒸着させる方法。

 

5.磁性材料の使用量削減・節約技術の動向に注目

磁性材料は磁気性能と経済性の両立を目指して開発されて来ました。
レアメタル原料の使用量節約の経済効果は大きく、ネオジム磁石についてはジスプロシウムの節約に留まらず、ジスプロシウムを使用しない方法が開発されつつあります。

今後も既存の原料の使用量節約、さらに新たな磁性材料の原料の開発が期待されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)
 

 

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