【自動車部品と制御を学ぶ】車両用電気モータと車両システム
今回のコラムでは、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)、あるいはFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle、燃料電池電気自動車)に用いられる電気モータと車両でのシステムについて説明します。
電気モータの種類
車両用電気モータの分類は切り口や通称が多く複雑ですが、コイル巻き線、電源、ブラシ構造、そして車載構造について、分類・整理したものを以下図(A)に示します。
「インホイールモータ」は、タイヤホイールの内部に駆動用モータを配置するもので、「ハブモータ」とも呼ばれます。
また、交流モータの中に「同期モータ」と呼ばれるものがあります。これはステータ(固定子)へ供給する交流電流の変化を、ロータ(回転子)の回転に同期してあたえるモータです。
以下図(B)に、同期モータの代表的な種類をまとめました。
分類は、”永久磁石を使うか、使わないか” で分かれ、永久磁石を使う場合には、”永久磁石をロータの表面に貼り付けるか、埋め込むか” で分かれます。
ハイブリッド車や電気自動車で主に使用されているのが「IPMモータ」です。
IPMモータ(3相交流同期モータ)の作動原理
IPMモータの中で、3相交流同期モータを取り上げ、その作動原理について説明をします。
以下図(C)に構造と作動原理を模式的に表しました。
ステータ(固定子)にはコイルが巻かれ、ロータ(回転子)には永久磁石が貼り付けられています。
コイルは三種類(U相コイル、V相コイル、W相コイル)で、図のようにそれぞれが位相差をもち、電流が流れます。
コイルに電流が流れるとコイル部は電磁石になりますが、その極性(N極かS極か)は、電流の流れる向きによって変わります。(電流の向きにより、磁束、磁力線の向きが変る)
ロータに埋め込まれた永久磁石のN極とS極の位置に応じて、すなわち回転位置に同期して、電磁石側の極性を変えることによって、ロータの永久磁石とステータの電磁石との間に発生する吸引力と反発力でロータを回します。
例えば図(C1)と図(C2)に、U相コイルに発生する電磁石の極性を示します。
電流の向きが異なるA点とB点で、電磁石の極性が変わる様子が理解できると思います。
三種類のコイルには位相の異なる交流電流が流れているため、A点では、U相コイル部とV相コイル部が吸引力で、W相コイル部が反発力でロータを回転させます。
車両用電気モータに用いる磁石の種類と特徴
永久磁石を用いるモータでは、用いられる磁石の特性が重要となりますが、現在車両用として主流となっているネオジム磁石(ネオジウム磁石)の特性について説明します。
以下図(D)は、代表的な三種類の代表的な磁石の特性を比較したものですが、これによりネオジム磁石の特性と課題が理解できます。
基準としているのは酸化鉄(Fe)を主成分とするフェライト磁石です。
アルニコ磁石は、鉄にアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などを加えた磁石です。
また、ネオジム磁石の主成分は、ネオジム(Nd)、鉄、ホウ素(B、ボロン)です。
機械強度に関しては、アルニコ磁石、ネオジム磁石とも車両用モータに用いるための強度を有しています。
モータ出力を向上するのに最も重要な特性である磁束密度に関してはネオジム磁石が最も優れていますが、アルニコ磁石に比べてキュリー温度(磁力が低下する温度)が低いため、対策が必要となります。
例えば、ジスプロシウム(Dy)などを添加してキューリー温度を上げたり、冷却機構や制御により温度上昇を防ぐ工夫をしなければなりません。
(キューリ温度:フェライト磁石 約460℃、アルニコ 約800℃、ネオジム 約310℃)
車両適用に必要な抵コスト/調達安定性に関しては、ネオジムは生産地が限られた希土類(レアアース)ですので、効率の高いモータ構造にして使用量をなるべく少なくしなければなりません。
キューリー温度を上げるために添加するジスプロシウムも同じく希土類ですので、ジスプロシウムの添加量も低減しなければなりません。
《関連ページ:各磁石(磁性材料)に関する解説ページはこちら》
電気モータを用いる駆動システム
次に、電気モータを用いる駆動システムの説明をします。
エンジンとモータの使い方の組み合わせは数多くありますが、その差が分かり易いように、以下図(E)に整理・比較しました。
図(E)では、モータをMとして表してありますが、モータは駆動モータとしてだけでなく、発電機(ジェネレータ、generator)としての機能で用いることができます。
図のように駆動モータが駆動と発電の両方を行う場合と、発電専用のモータ(ジェネレータ)を別に独立して用いる場合があります。
単純に言えば、「パラレルHEV」はエンジンが主要駆動力でモータが補助駆動力、「シリーズHEV」はモータを主要駆動力とする考えです。
「シリーズ・パラレルスプリットHEV」は、連結・切断機構により、エンジン単独駆動モードとモータ単独駆動モードを可能とします。
高電圧(100~400Vレベル)バッテリを用いるHEVは「ストロングHEV」と呼ばれますが、これに対して、図(E4)に示すように48Vバッテリを用いるHEVを「マイルドHEV」と呼びます。
パラレルHEVに対してモータによる駆動は更に補助的となりますが、オリジナルの車両の改造が少なくて済み、一方、車両の減速や惰性走行時のエネルギをモータを発電機にして使用する回生機能が使えるため、燃費の向上が可能になります。
シリーズHEVで、バッテリの充電量が低下した時にエンジンで発電を行い、モータ走行による可能航続距離をのばす機能を「レンジエクステンダー」と呼びます。
図(E5)の燃料電池自動車(FCEV)では、燃料電池が発電を行います。燃料電池セル(fuel cell)において、水の電気分解(H2O+e-→H2+O2)の逆反応(H2+O2→H2O+e-)で電気を生成しバッテリへ蓄電します。
インホイールモーターは、図(E7)や(E8)に示すように、全輪に用いる場合と、通常のモータと組み合わせて使う場合があります。
図には表していませんが、駆動システムの構成としては、これらに変速機構、インバータ、コントローラなどが加わります。
電流変換(インバータ・コンバータ)
ハイブリッド車や電気自動車では、100V~400Vの交流電源を用います。
一方、補機類やコントローラなど12Vで作動するものへの対応をしたり、モータの原理で説明したように交流の周波数を変更する制御を行わなければなりません。
これらの電流の変換のためにインバータやコンバータと呼ばれる電流変換装置を用います。
その種類を図(F)にまとめました。
自動車におけるモータの制御
ハイブリッド車では、まずエンジン駆動力とモータ駆動力の配分を制御しなければなりません。
発進や加速など高トルクが必要な時にはモータの活躍割合を増やします。
また、排ガスの後処理の負担を低減するため、有害排ガス成分の発生が多いモードでもモータ運転の割合を多くします。
一方、SOC(State Of Charge)と呼ばれるバッテリ充電状況が低下した時や、モータ温度が過上昇する可能性がある時には、モータによる駆動割合を減らしエンジン駆動を増やしたり、エンジンによる発電機
運転を増加させます。
色々なセンサにより運転状況と車両走行状態を検出し、ハイブリッド車でのモータへの配分目標トルク、または、電気自動車の目標トルクが決まった後はモータのトルクを目標値に制御します。
モータ回転とモータ駆動電圧に対する発生トルクの関係は図(G)のようになります。
モータの原理を説明した図(C)における交流電流の大きさは、制御駆動電圧で決まります。
また、モータ回転すなわちロータの回転数の制御のためには、モータの目標回転に同期するように交流周波数を制御しなければなりません。
同期させるためには、ロータの回転位置検出が必要となります。
インホイールモータを用いる場合には駆動トルクの制御自由度が高くなり、車輪毎の必要トルクや車輪スリップ状況に応じて、車輪毎に駆動トルクを制御することもできます。
(通常のモータの場合には、左右輪のトルク配分機構が必要です)
一方、制動力(ブレーキ力)に関しては、モータをもつ車両では通常の油圧ブレーキに対して、モータあるいはジェネレータを発電駆動する負荷(抵抗力)を制動力として用いることができます。
(これを「回生ブレーキ」と呼びます。回生ブレーキに関する解説はこちらをご参照ください。)
究極の車両駆動システムとは、どのような路面状況でも安全で運転者の意のままに車両が走行できるように、各輪独立で駆動力と制動力が協調して制御できるようなシステムです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)