3分でわかる技術の超キホン 磁性材料「フェライト」とは?種類と特徴/磁気特性/製造方法等のまとめ解説

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フェライトの基礎知識

今回のコラムは磁性材料に関するお話です。

「磁性材料」とは強磁性の性質を示す材料です。
強磁性の性質は磁場を印加しない状態、磁場を取り去った状態でも磁化をもつことです。

磁場を取り去った状態の磁化が大きい、保持力が大きい材料を「硬磁性材料」、取り去った状態の磁化が小さい材料を「軟磁性材料」と呼びます。
今回は、硬磁性材料と軟磁性材料の両方がある「フェライト」を紹介します。

フェライトとは?

「フェライト」(Ferrite)は、酸化鉄(Fe2O3)を主成分とする磁性酸化物です。
粉末状の原材料を高温で焼き固めて製造しますので、セラミックスの仲間でもあります。

その特性は金属磁性材料と比較して

  • 耐食性、耐薬品性に優れている
  • 電気抵抗が大きい

などの長所がある一方

  • 硬いが陶器のように割れやすい
  • 低温領域での磁気特性の安定性が良くない

などの短所もあります。

材料入手が比較的容易で、コストパーフォーマンスが良好なため、磁性材料として広く利用されています。

 

フェライトの種類

様々なフェライトが製品化されていますが、結晶構造に着目した場合の代表例は以下の3種類です。

(1)スピネル型フェライト

「スピネル型フェライト」は、天然鉱物スピネル(MgAl2O4)と同型の結晶構造を有するフェライトで、立方晶系に属します。

化学式は MeO・Fe2O3 となります。
ここで、MeはZn、Ni、Cu、Mn、Mg、Co,Feなどの遷移金属です。
 

① スピネル型フェライトの結晶構造

スピネル型の結晶構造を図1に示します。

スピネル型の結晶構造

酸素イオン4個で囲まれた四面体中のA位置(図1(a))と、酸素イオン6個で囲まれた八面体中のB位置(図1(b))にFe3+またはMe2+の金属イオンが入ります。

スピネル構造の単位胞にはA位置が8箇所、B位置が16箇所あります。
Me2+の金属イオンがA位置に入る場合を「正スピネル」、B位置に入る場合を「逆スピネル」と呼び、磁気モーメントは逆向きになり、その差分によって磁化が発現します。
Cd, Zn、MnはA位置に入る正スピネル、Fe, Co, Ni などはB位置に入る逆スピネルです。
 

② スピネル型フェライトの特徴と用途

外部磁場が印加された時に磁化が発現し、外部磁場を取り除くと磁化が小さくなり元の状態に戻る、保持力が小さい軟磁性材料で、ソフトフェライトです。

立方晶系であるため、結晶方向による磁化の差異、磁気異方性が小さく、弱い外部磁場で磁化が反転します。

金属磁性材料に比べて電気抵抗がけた違いに大きいので、高い周波数で使っても渦電流損失が小さいため、磁心材料、電波吸収体、等に使用されています。

なお、上記Me2+がCo2+のCoOとFe2O3の混合体である「コバルトフェライト」はスピネル型ですが、例外的に大きな保持力を示す硬磁性材料(ハードフェライト)です。
コバルトイオンの電子雲が他のイオンに比較して細長いためと考えられています。

 

(2)マグネトプランバイト型フェライト

「マグネトプランバイト型フェライト」は、マグネトプラムバイト(磁鉛鉱)と同型の結晶構造を有するフェライトで、六方晶系に属します。

化学式は MO・6Fe2O3 となります。
MはPb、Ba、Srなどの金属です。
 

① マグネトプランバイト型フェライトの結晶構造

マグネトプランバイト型は、図2に示すようにBaやSrなどの金属元素を含む原子層Rブロック、とスピネル原子層Sブロックが、c軸方向に交互に積層した結晶構造をしています。

マグネトプランバイト型の結晶構造

 

② マグネトプランバイト型フェライトの特徴と用途

マグネトプランバイト型は六方晶系なのでC軸方向に磁気異方性が大きくなります。
そのため保持力が大きくなり、一度磁気を帯びると外部磁場がなくてもその磁気を維持する硬磁性材料(ハードフェライト)のフェライト磁石になります。

「バリウムフェライト」や「ストロンチウムフェライト」は、Ni,Co、希土類金属を含まないので比較的安価で、代表的なフェライト磁石として電子機器用各種デバイス、モーター・発電機等に使用されています。

 

(3)ガーネット型フェライト

「ガーネット型フェライト」は、天然のザクロ石(Mg3Al2Si3O12)と同型の結晶構造を有するフェライトで、「希土類鉄ガーネット」とも呼ばれ、立方晶系に属します。

化学式は 3R2O3・5Fe2O3 となります。
ここで、RはY、Sm、Gd などの希土類金属です。

 

① ガーネット型フェライト結晶構造

ガーネット型は、3価の希土類酸化物(R2O3)と Fe2O3 とからなるフェライトで、 代表的なものはYIG(Yttrium Iron Gamet、イットリウム鉄ガーネット)です。
結晶構造を図3に示します。

ガーネット型の結晶構造

最もイオン半径の大きい図示しない酸素イオンが体心立方構造をつくります。
金属イオン配置は24d、16a、24cの3箇所あり、イオン半径の小さい Fe3+イオンは24d位置と16a位置の2箇所、比較的大きいイオン半径のR3+イオンは24c位置に入ります。
単位胞中に Fe3+イオンは 40個あり、八面体中の16a位置に16個、四面体中の24d位置に24個入ります。
R3+イオンはイオン半径が大きいので Fe3+ と置換するには大きすぎ、O2- と置換するには小さ過ぎるので、スピネル型にはなかった十二面体中の24c位置に入ります。

 

② ガーネット型フェライト特徴と用途

ガーネット型フェライトはスピネル型フェライトと同じ軟磁性材料、ソフトフェライトです。

スピネル型フェライトよりも高い高周波領域(ギガヘルツ)での磁気損失が小さいため、マイクロ波用磁性材料等に使用されています。
また、YIGの単結晶は、磁界中で光の偏光面が回転する「ファラデー回転子」として、光学製品にも利用されています。

 

主なソフトフェライトハードフェライトの磁気特性

代表的な軟磁性材料(ソフトフェライト)の磁気特性を表1に、硬磁性材料(ハードフェライト)の磁気特性を表2に示しました。

ソフトフェライトのCuフェライトとハードフェライトのCoフェライトは、日本人が発明したフェライトです。

コバルトフェライトはスピネル型フェライトの中では例外的に保磁力が大きく、フェライト磁石(商品名:OP磁石)として製品化されました。

[表1.ソフトフェライト(軟磁性材料)の磁気特性]

結晶構造 名称 比透磁率 Hc[A/m] Ms[Wb/m2]
スピネル型 CuZnフェライト 500 40 0.2
スピネル型 NiZnフェライト 2000 60 0.4
スピネル型 MnZnフェライト 5000 8 0.5
ガーネット型 YIGフェライト 80 30 0.1

 

[表2.ハードフェライト(硬磁性材料)の磁気特性]

結晶構造 名称 Br[Wb/m2] Hc[A/m] (BH)max/2
スピネル型 Coフェライト 0.25 80000 10000
マグネトプランバイト型 Baフェライト 0.4 160000 13000
マグネトプランバイト型 Srフェライト 0.4 250000 17000

 

フェライトの製造方法(乾式法)

フェライトの製造方法には、「乾式法」「湿式法」「噴射法」などがありますが、今回は量産し易く、多く行なわれている「乾式法」の工程を紹介します。

(1)原料混合

高純度の酸化鉄(弁柄)、および所定金属の炭酸塩、他添加物の粉末を均一に混ぜます。

(2)仮焼成

混合の終った原料を適当な形に圧縮成形するか、粉末のままあるいは泥状として焼成(焼結)温度よりも低い温度で仮焼成します。
原材料の熱分解や成分の均質化を行い、適度の粒子サイズへ成長させ、フェライト化の反応を一部進め、焼成(焼結)のときの寸法歪を軽減させます。

(3)粉砕

仮焼成された原料は、大きなかたまりとなっているので1μm以下に粉砕します。
成形時に成形密度が高くなるような、焼成(焼結)のときに焼結反応が起こりやすい粒度分布になります。

(4)成形

目的の最終形状に加圧成型します。通常成型圧力は0.5~2(t/cm2)程度です。
※磁場中成形(ハードフェライト、異方性磁石の場合実施)は、金型周囲にコイルを巻き電流を流し磁場を発生させ、微粉末の結晶方向を磁場方向に整列させながら成形を行います。異方性が付与されます。

(5)焼成(焼結)

焼成(焼結)は、成形品を高温度に加熱してフェライ ト化の化学反応を完全に行なわせると同時に、焼結させて密度を増加させ機械的強度を高める工程です。
焼成(焼結)温度は、材料の融点以下の900~1,500℃程度です。
焼成(焼結)時には周囲の酸素の圧力、加熱温度、加熱速度および時間、冷却の速度などを制御します。
焼結後の製品の密度、結晶組織、結晶粒の大きさなどは、磁気特性と密接な関係をもっています。

(6)加工

製品寸法に仕上げるため研磨加工や切断加工が施されますが、フェライトは陶器や石に近い物性なので切削加工には向かず、研磨加工で仕上げます。
 

ということで今回は、代表的な磁性材料「フェライト」の基礎知識についてまとめてみました。
磁性材料に関する基本的な前提知識を確認したい方は、別コラム「磁性材料と磁気特性の必須基礎知識を解説!軟磁性材料と硬磁性材料の違いは?」も併せてご参照ください。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 Y・O)
 

 

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