濡れ性とは?親水性・撥水性の仕組みと接触角の基本をわかりやすく解説

本コラムシリーズの「界面活性剤とは?」の回では、異なる相の境界で働く界面活性剤の基礎知識について説明しました。今回は、界面科学における重要な前提知識「濡れ性」(ぬれ性)を取り上げます。
濡れ性は、テフロン加工、防曇鏡、半導体洗浄、塗装や接着など、さまざまな場面で関係します。水が固体表面に広がるか、水滴状になるかは、基本的には、液体・固体・気体が接する三相接触線近傍の界面自由エネルギーの釣り合いから説明できます。
1.「界面」と「表面」
「界面」とは、気体/液体、気体/固体、液体/液体、液体/固体、固体/固体など、異なる物質の境界となる面のことです。そのうち、気体と隣接する固体や液体の界面のことを「表面」と呼びます。
例えば、気体/液体の界面、気体/固体の界面は、それぞれ「液体の表面」「固体の表面」と言います。
コップに注がれた水の表面は、厳密に言えば、空気と水との界面です。
2.濡れ性と表面自由エネルギー
(1)表面自由エネルギーと表面張力
固体の内部にある分子や原子は周囲を他の分子や原子に囲まれていますが、表面では周囲との相互作用が不均衡になります。そのため、表面を新たにつくるにはエネルギーが必要です。
固体表面について、単位面積あたりの過剰な自由エネルギーを「表面自由エネルギー」と呼びます。
液体表面でも、表面積を増やすには仕事が必要です。この仕事を単位面積あたりで表した量は液体の表面張力に対応します。液体では、平衡条件のもとで、表面張力は単位面積あたりの表面自由エネルギーと数値的に等しく、N/m(J/m²と同じ次元)で表せます。
一方、固体では、表面自由エネルギーと表面応力は一般に異なる量です。そのため、固体の濡れを説明するときは「固体の表面自由エネルギー」と表現します。
一般に、液体と固体の相互作用が強いほど液体は広がりやすくなります。ただし、濡れやすさは固体の表面自由エネルギーだけで決まるわけではなく、液体の表面張力、両者の化学的性質、表面の粗さや汚れなどにも左右されます。
(2)表面自由エネルギーの成分
表面自由エネルギーを分子間相互作用の種類に応じて成分に分けると、濡れや接着を考える手掛かりになります。
分散力成分(γᵈ)は、主にロンドン分散力などに由来します。
極性成分(γᵖ)は、双極子相互作用や水素結合など、分散力以外の相互作用をまとめて表す成分として用いられます。
成分の分け方は解析モデルによって異なり、水素結合成分を極性成分の一部として扱う場合もあります。
式1は成分分けの一例です。
γ = γᵈ + γᵖ ・・・・・・式1
- γᵈ:分散力成分。瞬間双極子と誘起双極子の相互作用(ロンドン分散力)に由来し、一般にすべての物質間に働きます。
- γᵖ:極性成分。双極子相互作用や水素結合などを、採用する解析モデルに応じてまとめた成分です。
フッ素樹脂などでは分散力成分が主に寄与する場合があり、水や極性基をもつ材料では極性成分の寄与も重要になります。成分の値は材料や表面処理、測定方法によって変わるため、代表的な傾向として捉えます。
(3)Fowkesの考え方と界面自由エネルギー
Fowkesは、異なる物質間に働く分子間相互作用を成分ごとに考え、特に分散力成分に着目した界面エネルギーの評価法を示しました。
分散力だけを考慮する近似では、固体1と液体2の界面自由エネルギーを次のように表せます。
γ₁₂ = γ₁ + γ₂ − 2(γ₁ᵈ γ₂ᵈ)¹ᐟ² ・・・・・・式2
- γ₁、γ₂:各相の全表面自由エネルギー(液体では表面張力)
- γ₁ᵈ、γ₂ᵈ:それぞれの分散力成分
この式は分散力による相互作用を扱う近似であり、極性相互作用も考慮する場合は拡張したモデルを用います。
たとえばOwens–Wendt法では、分散力成分と極性成分の両方を用いて界面自由エネルギーを評価します。
γ₁₂ = γ₁ + γ₂ − 2[(γ₁ᵈγ₂ᵈ)¹ᐟ² + (γ₁ᵖγ₂ᵖ)¹ᐟ²] ・・・・・・式3
接触角と、表面自由エネルギーが既知の複数の試験液を用いることで、固体表面の成分を推定できます。得られる値は採用したモデルや試験液、測定条件に依存します。
(4)実務での応用
表面自由エネルギーの成分分けは、洗浄液や塗料、接着剤を選ぶ際の手掛かりになります。
たとえば、油性汚れの除去では洗浄液と油の親和性、イオン性汚れの除去では水への溶解性やpHなども考慮します。汚れの成分と表面自由エネルギー成分だけで洗浄性が決まるわけではありません。
塗装や接着では、前処理によって表面の汚れを除去したり、極性基を導入したりして、塗料・接着剤が広がりやすい表面に調整することがあります。プラズマ処理などは、そのための方法の一つです。実際の接着強度には、表面の清浄度、化学反応、硬化条件、機械的なかみ合いなども影響します。
[※関連記事:3分でわかる 接着のメカニズム|濡れと接着力の関係は?]
3.接触角とYoungの式
(1)接触角θとは
接触角θは、固体表面上に静置した液滴の輪郭において、固体表面と液体表面の接線が液滴側につくる角度です。固体表面に対する液体の濡れやすさを評価する指標の一つとして用いられます。
(2)Youngの式
平滑で化学的に均一な固体表面上にあり、平衡状態にある液滴では、三相接触線における界面自由エネルギーの釣り合いをYoungの式で表せます。

【図1 接触角とYoungの式】
γSG = γSL + γLG cosθ ・・・・・・式4
- θ:接触角
- γSG:固体/気体界面の自由エネルギー
- γSL:固体/液体界面の自由エネルギー
- γLG:液体/気体界面の自由エネルギー(液体-気体界面では表面張力に相当)
Youngの式は、平衡状態にある液滴の三相接触線を仮想的に微小移動させたとき、全界面自由エネルギーの一次変化がゼロとなる条件を表します。
γSGとγSLは、固体がそれぞれ気体、液体と接する界面の自由エネルギーです。
これらは、前節で述べた固体表面の力学的な表面応力とは一般に異なる物理量です。
式4は、三つの界面自由エネルギーの関係から平衡接触角を定める式として理解します。
実際の固体表面には粗さや化学的不均一性があるため、測定される接触角は理想表面に対するYoungの接触角と異なる場合があります。
4.撥水性・親水性と表面設計
親水性とは水が固体表面に広がりやすい性質、撥水性とは水が広がりにくく、水滴状になりやすい性質です。
目安として、水の接触角が90°未満なら親水性、90°を超えるなら疎水性とされます。
接触角が150°以上の表面は「超撥水性」と呼ばれることがあります。
超親水性の角度基準には文献によって幅があり、超撥水性の評価では静的接触角だけでなく、滑落角や接触角ヒステリシスも確認します。
接触角は表面の粗さや不均一性、汚染、測定条件によって変わります。
また、これらの区分は水に対する性質を示すもので、ほかの液体の濡れやすさをそのまま表すものではありません。

【図2 接触角と濡れ性の関係】
(1)撥水性を生み出す表面化学
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、テフロン®として知られる)は、表面自由エネルギーが低い代表的な材料です。
表面を覆うフッ素原子を含む構造は水との相互作用を小さくし、水滴が広がりにくい性質に寄与します。
PTFEの耐熱性や耐薬品性には強い炭素-フッ素結合が関係しますが、撥水性は表面の化学的性質と表面自由エネルギーの観点から説明します。
(2)表面構造による撥水性:ロータス効果
材料の化学的性質に加え、表面の微細な凹凸を利用して水滴をはじきやすくする方法があります。
ハスの葉の表面には微細な突起とワックス状の成分があり、階層的な表面構造を形成しています。
水滴は表面の突起の頂部など限られた部分に接し、凹部に空気が残ることがあります。この状態は「Cassie–Baxter状態」と呼ばれます。
水滴が表面を転がるときに汚れを取り込み、表面から運び去る自浄作用は「ロータス効果」と呼ばれます。
ただし、水滴が転がるかどうかは接触角だけでは判断できず、接触角ヒステリシスや表面の欠陥なども関係します。
5.表面粗さとWenzel式・Cassie–Baxter式
粗さのある表面上の液滴は、液体が凹凸内部まで入り込む場合と、凹部に空気を残して突起をまたぐ場合があります。代表的なモデルとしてWenzel式とCassie–Baxter式があります。
(1)Wenzel式:液体が凹凸を濡らす状態
Wenzel状態では、液体が表面の凹凸に沿って広がり、固体表面を濡らしています。平滑面上の接触角θに対する見かけの接触角θ*は、理想化したモデルでは次式で表されます。
cosθ* = r cosθ ・・・・・・式5
r:粗さ係数、実際の表面積を投影面積で割った値(r ≥ 1)。
θが90°未満の親水性表面では、粗さによって見かけの濡れが強まり、θが90°を超える疎水性表面では、見かけの撥水性が強まります。この関係は理想化した条件で成り立ち、粗さがあると必ず接着や濡れが強くなるという意味ではありません。
塗料や接着剤が凹凸に入り込んで硬化すると、機械的なかみ合いが接着に寄与することがあります。これは「アンカー効果」と呼ばれますが、Wenzel状態そのものと同じ意味ではありません。
(2)Cassie–Baxter式:凹部に空気が残る状態
Cassie–Baxter状態では、液滴が固体の突起に接し、凹部に空気が残ります。
突起の頂部が平坦で、液体が凹部に侵入しない場合、見かけの接触角は、次のように表せます。
cosθ* = fS cosθ − fV ・・・・・・式6
fS:固体との接触面積の割合
fV:空気との接触面積の割合、fS + fV = 1
空気との接触部分が多いと、見かけの接触角が大きくなる傾向があります。
しかし、接触角が大きいことだけでCassie–Baxter状態だと断定することはできません。表面構造や水滴への圧力、振動、汚染などによって、空気を含む状態から液体が凹部に入り込む状態へ移ることがあります。
(3)Wenzel状態とCassie–Baxter状態の使い分け
| 設計目的 | 考えられる表面状態 | 設計・評価の考え方 |
| 塗装・接着 | Wenzel状態を含む濡れ | 表面洗浄や粗化、表面処理などで濡れと機械的かみ合いを調整する。過度な粗化は不利になる場合もある。 |
| 防汚・自浄 | 低ヒステリシスのCassie–Baxter状態など | 微細構造と低表面自由エネルギーを組み合わせ、水滴が転がるかを接触角・滑落角・耐久性で評価する。 |
| 撥水処理の評価 | 状態と水滴移動性の確認 | 静的接触角だけでなく、前進・後退接触角や滑落角も測定し、表面処理や構造の変化を調べる。 |
【表1 Wenzel状態とCassie–Baxter状態の区別】
6.接触角ヒステリシス
実務では、静止した液滴の接触角だけでなく、水滴が表面を動くときの挙動も重要です。
表面を傾けたり、液滴の体積を増減したりすると、液滴の前側と後ろ側で異なる接触角が観察されます。
(1)前進接触角と後退接触角
前進接触角(advancing contact angle, θA)は、液体が乾いた固体表面を覆いながら前進するときの接触角です。
後退接触角(receding contact angle, θR)は、液体が濡らしていた表面から後退するときの接触角です。
通常、前進接触角は後退接触角より大きくなります。
両者の差θA − θRを「接触角ヒステリシス」と呼びます。
ヒステリシスが小さい表面では、水滴が接触線に引き止められにくく、傾けたときに動きやすい傾向があります。一方、静的接触角が大きくても、ヒステリシスが大きいと水滴が表面に張り付くことがあります。
表面化学の不均一性、粗さ、欠陥などが接触線を固定する要因になります。
(2)接触角ヒステリシスの測定
液量増減法では、注射針などを用いて液滴の体積を徐々に増やし、前進接触角を測定します。続いて体積を減らし、後退接触角を測定します。
滑落法では、液滴を載せた基板を傾け、水滴が動き始める角度(滑落角、または転落角)を測ります。滑落角は接触角ヒステリシスを反映しますが、前進・後退接触角を直接測定する方法とは異なります。測定値は液滴量や傾斜速度などにも左右されるため、条件をそろえて比較します。
(3)実務での活用例
撥水コーティングの評価では、静的接触角が大きいかだけでなく、水滴が表面を移動するかを確認します。
屋外パネルや窓ガラスでは、雨滴が汚れを巻き込んで流れ落ちることが求められます。水滴の動きやすさを評価するには、接触角ヒステリシスや滑落角も参考になります。
着雪・着氷の評価でも、水滴の移動しやすさは一つの観点になります。ただし、凍結や氷の付着は表面構造、温度、湿度、凍結条件などにも左右されるため、接触角ヒステリシスだけで性能を判断することはできません。
7.まとめ:親水性・撥水性コーティングの考え方
親水性コーティングでは、水を薄く広げたり、水が汚れと表面の間に入り込んだりすることで、汚れを洗い流しやすくする設計が用いられます。防曇性を高める表面処理も、親水性を利用する例です。効果は汚れの種類や水の供給条件に依存します。
なお、親水性を活用した代表的な技術の一つに、酸化チタンによる光触媒があります。光照射によって表面が超親水化する仕組みや応用例については、別記事「3分でわかる 光触媒とは?酸化チタンの反応原理・超親水性・用途を解説」をご覧ください。
撥水性コーティングでは、水滴が広がりにくい表面をつくります。さらに水滴を転がり落としたい場合は、接触角を高くするだけでなく、ヒステリシスや滑落角も小さくする必要があります。
濡れ性は、界面自由エネルギー、表面化学、表面構造、液滴の動きが関係する現象です。接触角測定は、これらの影響を考えながら表面を評価し、用途に合った機能を設計するための基本的な方法です。
本記事が、濡れ性の基本的な仕組みへの理解を深め、材料選定や表面処理、製品の品質改善などに役立つ一助となれば幸いです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)
《参考文献》
- 1)矢嶋龍彦,「超撥水・超親水の原理と表面評価」,表面技術,第71巻,第9号,2020年,559–564頁.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/71/9/71_559/_pdf - 2)三刀基郷,「接着の基礎」,溶接学会誌,第81巻,第6号,2012年, 503–507頁.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjws/81/6/81_503/_pdf


































