《遮熱塗料の基礎知識》顔料は二酸化チタン?道路用として酸化銅が注目される理由

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遮熱塗料

 

1.二酸化チタンの粒子径と用途

二酸化チタン(TiO2)は、赤外線と可視光を吸収せず、紫外線もUV-A光はほとんど吸収しません。
これに加えて屈折率が2.49と非常に高いため、二酸化チタン粒子を媒体に分散させれば効率的に光を散乱させることができます。表1に示すように用途に応じて適切なサイズの粒子が使用されています。

 

【表1 二酸化チタンの散乱特性を用いた用途と粒子径】
二酸化チタンの散乱特性を用いた用途と粒子径

 

一方、これらよりもサイズが大きい(例えば長軸2,000-4,000nmで短軸300-500nm)二酸化チタン粒子が有効な分野もあります。それが本稿で解説する遮熱塗料です。

 

2.遮熱塗料と二酸化チタン

図1は太陽光の標準日射スペクトルを示したものです1)
赤外光が太陽光エネルギーの50%を占めていることが分かります。家屋や道路の温度上昇を抑制するには、この赤外線を散乱させるのが有効です。

遮熱塗料はそのための塗料であり、環境保護材としての役割が期待されています。サイズの大きい二酸化チタン粒子は赤外線の散乱効果が高いため、この塗料用の顔料として使用することができます2)

 

標準日射スペクトル(参考JIS A 5759)
【図1 標準日射スペクトル(参考JIS A 5759)※画像引用1)

 

ただし、二酸化チタンには問題もあります。
このサイズの二酸化チタン粒子は赤外線だけでなく可視光も散乱しますので、塗料は白色となります。
屋根用であればそれでも許容されますが、不可の分野もあります。それは道路用遮熱塗料です。私たち人間の目には白い道路はまぶしくて受け入れられません。国土交通省も遮熱性舗装ではまぶしさを低減する必要があると捉え、対策を検討中です3)

 

3.道路用遮熱塗料の設計指針

道路用遮熱塗料としては赤外線を散乱する一方で、可視光を吸収してまぶしさのないもの、できれば黒色系塗料が理想的です。そのためには下記の性状を有する顔料を開発する必要になります。

  • 1)二酸化チタンと同様に赤外光は吸収しない
  • 2)二酸化チタンとは異なり、可視光を吸収する

どんな素材がこの要件を満たすでしょうか?
どのようにしてその素材を見出したらよいでしょうか?
世の中に存在する無機系素材をしらみ潰し的にテストして探し出す手法は実用的ではあるものの、理論的裏付けに欠けます。

 
そこでここでは下記の手順で考察してみることにします。

  • a) 長期の耐久性・安定性を確保するために金属酸化物とする。
  • b) 複合酸化物ではなく、まずは単純な金属酸化物に絞る。
  • c) バンドギャップが可視光と赤外線の境界付近(波長750-780nmに相当)にある金属酸化物を選択する。

図2は文献に報告されている金属酸化物のバンドギャップ(単位eV)の値4)に基づいて、バンドギャップと可視光との関係を図示したものです。
二酸化チタンのバンドギャップは約400nmであり、可視光を完全に散乱するこの材料の特性と対応しています。図2の金属酸化物の中で、バンドギャップが可視光と赤外線の境界付近にあるのは酸化銅CuOであることが分かります。

 

各種金属酸化物のバンドギャップと可視光
【図2 各種金属酸化物のバンドギャップと可視光】

 

従って、単純な金属酸化物の中では酸化銅CuOが、道路遮熱塗料用の顔料として適しているだろうとの設計指針が得られます。

 

3.実際の金属酸化物の特性(酸化銅)

CuOに関しては、愛知工業大の小林教授らが粉末の特性を実際に評価した結果が報告されています5)
教授らは、塩化銅水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の反応によってCu(OH)2を沈殿させ、さらに長時間沈殿を加熱熟成することによって調製したCuO結晶を用いました。
この報告によると、可視光はほぼ完全に吸収すると同時に、高い赤外光反射率を有することが分かります。粉末は僅かに赤みを帯びた黒色であったと報告されています。

ただ、比較的高価な銅の酸化物を道路用に大量使用するのはコスト面で難しいと考えられます。同等のバンドギャップを有する酸化物を、比較的安価な金属酸化物の複合化によって製造する必要があります。

この点では、鳥取大学の増井教授らがCa2Mn0.85-xTi0.15ZnxO4-x(0≦x≦0.10)型複合酸化物の粉末の反射特性を報告しており、CuOとの厳密な比較はできませんが、CuOと同様の特性を示しています。この複合酸化物も黒色であったと報告されています。6)

 

4.遮熱塗料の今後

道路用遮熱塗料に使用する黒色系顔料は、詳細な組成は不明ですが、既に市販されています7)。環境対応材料として、その需要は今後増加するものとみられます。また、一層の低コスト化および耐久性の向上を目的に、新規複合酸化物系顔料の開発も進行すると予想されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 N・A)

 


《引用文献、参考文献》


 

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