3分でわかる技術の超キホン ポンプの始動手順と注意点
前回ご紹介した「ポンプの始動準備における重要ポイント」に引き続き、今回のコラムではポンプの始動手順とその注意点について解説します。
1.電動機の始動特性
ポンプの駆動機として良く用いられるのが誘導電動機です。
ポンプを誘導電動機と直結して始動する時、電動機が持つトルクは、ポンプの始動トルクに対して十分余裕のある大きさである必要があります。
ポンプトルクは二乗低減トルク特性といって、静止摩擦トルクが支配的となるスタート時を除いて回転速度の二乗に比例した曲線を描きます。
モータトルクは同期回転速度の手前で最大値に達した後、急激に低下して同期速度ではゼロとなります。
モータトルクとポンプトルクの差が、加速トルクとなって、回転速度が次第に増速され、両者のトルクが一致した時点で加速完了となります。
2.始動時のポンプ流量点
ポンプトルクは同一回転速度において軸動力に比例しますので、軸動力が最小となる運転点で始動することで、加速トルクの余裕が大きくなり、確実なポンプ始動が可能となります。
遠心ポンプは、締め切り点(流量ゼロ)において軸動力が最小となる特性を有します。遠心ポンプで全揚程が小さい場合は、吐出弁を全閉とした締切状態でポンプを始動します。
締め切り運転を長時間続けるとポンプ内部で温度が上昇して気化し、焼き付き損傷する可能性があるので、遠心ポンプを締切で始動完了後は速やかに吐出弁を開けて通常運転に移行する必要があります。
全揚程の大きな遠心ポンプでは短時間の締め切り運転でも温度上昇が著しく焼き付き損傷に至る可能性があるので、過熱防止のための最小流量(ミニマムフロー)となるように吐出弁開度を設定するか、始動のためのバイパス管(ミニマムフローライン)を設けて、吐出弁全閉・ミニマムフローライン全開として始動します。
一方、軸流ポンプは、締め切り点(流量ゼロ)において軸動力が最大となる特性を有するので、締切始動を行うことはできません。
斜流ポンプは、両者の中間的な軸動力特性となります。比速度の比較的小さなものは遠心ポンプに近い軸動力特性を有し、締め切り始動が可能な場合もあります。
3.ポンプ始動後の注意点
初めてポンプを始動する場合は、まず寸動を行って極短時間回転させた後にいったんポンプを停止します。
≪寸動の目的≫
- 回転方向の確認:羽根車には正規の回転方向があります。ケーシング表面に刻印または銘板で表示された回転方向矢印と合致しているか確認します。
- 残留空気排出:前回ご説明した水張り(空気抜き)を正しく行っていてもポンプ内部に若干空気が残留している場合があります。寸動から駆動機出力をいったん遮断すると、慣性によりポンプは一定時間回転します。この間に空気抜き弁を開けることで残留空気を完全に排出することができます
- ポンプ各部の状態確認:異常振動や異音の発生がないか、軸封やケーシング合わせ面からの漏れがないか、などポンプ各部の状態が健全であることを確認します。
4.ポンプ運転点の決定
寸動によりポンプの状態を確認出来たら、再びポンプを運転し、遠心ポンプの場合であれば吐出弁を徐々に開いて流量を増大させ、所定の要項運転点となるように流量調整を行います。ミニマムフローラインが設置されている場合は、起動後、徐々に吐出弁を開いてミニマムフローの2倍の流量が確認できた時点でミニフロー弁を閉めます。その後さらに吐出弁を開いて定格運転点に移行します。
運転点の確認は、吐出圧力計あるいは流量計など送水系統ごとに設置されている計器により行います。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)
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