【早わかりポンプ】これでキャビテーションを防止!対策と注意点・総まとめ解説《決定版》

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当連載の第2回「キャビテーションとは?発生原理やNPSHなどの基礎知識をやさしく解説」では、ポンプにとって困りごとの一つであるキャビテーションについて解説しました。
今回は、キャビテーション発生の原因と具体的な対策について、ポンプ羽根車の設計的な観点も含めて掘り下げてみたいと思います。

目次

1.キャビテーションの発生原因(定番5選)

第2回で解説した通り、キャビテーションはNPSHA(有効吸込みヘッド)がNPSHR(ポンプが必要とする吸込みヘッド)を下回ったときに発生します。

NPSHA < NPSHR となる原因としては次のようなことが考えられます。

 

(1)吸込み液面の低下(NPSHA低下)

液面から吸い上げる場合のNPSHAは、液面圧力Pa、飽和蒸気圧Pv、吸い上げ高さHs、吸込み配管損失Hℓ、密度ρ、重力加速度gとしたとき、

 NPSHA=(Pa-Pv)/ρg-Hs-Hℓ・・・(1)

吸込み液面が当初値あるいは設計値よりも低くなればHsが大きくなりますので、NPSHAが小さくなりNPSHRに対して不足する可能性があります。

 

吸込み液面の低下(NPSHA低下)
【図1 吸込み液面の低下(NPSHA低下)】

 

ポンプより高い位置に設置された密閉タンクから吸込みの場合、

 NPSHA=Ha-Hℓ・・・(2)

タンク内液面が低下するとHaが小さくなり、NPSHAがNPSHRに対して不足する可能性があります。

 

NPSHAがNPSHRに対して不足した場合
【図2 Haが小さくなってNPSHAがNPSHRに対して不足した場合】

 

(2)吸込み配管損失の増大(NPSHA低下)

上記(1)、(2)式からわかるように、吸込み配管損失Hℓが増大するとNPSHAが小さくなり、NPSHRに対して不足する可能性があります。

配管損失増大をもたらす要因として最も可能性が高いのは、吸込みストレーナの目詰まりです。他にも、吸込み弁が全開になっていない吸込み配管にスケールが堆積して配管抵抗が増大しているなどが考えられます。

 

(3)飽和蒸気圧力の増大(NPSHA低下)

(1)式からわかるように、飽和蒸気圧力Pvが増大するとNPSHAが小さくなり、NPSHRに対して不足する可能性があります。

密閉タンクから押し込む場合は、Pa=Pvですので、NPSHAは(2)式となり、Pvは関係しません。しかし、揚液温度急変などの要因により、ポンプ入口における飽和蒸気圧力がタンク内の値よりも大きくなると、NPSHAがNPSHRに対して不足する可能性があります。

 

飽和蒸気圧力の増大(NPSHA低下)
【図3 飽和蒸気圧力の増大(NPSHA低下)】

 

(4)過大流量運転(NPSHR増大):全揚程低下キャビテーションの場合

全揚程低下をきたすキャビテーションに対するNPSHRすなわちNPSH3は、流量の増大とともに急激に大きくなるので、過大流量運転を行うと全揚程低下キャビテーションが発生する可能性が高くなります。
過大流量運転を行うと吸込み配管内流速も大きくなるため、吸込み配管損失が増大することでNPSHAも低下し、キャビテーションがより発生しやすくなります。

 

(5)小水量運転(NPSHR増大):初生キャビテーションの場合

初生キャビテーションに対するNPSHRは、定格流量の30~50%程度の小水量域において急激に高くなります。
定格流量を大幅に下回るような小水量域で運転を行うと、初生キャビテーション発生による羽根車損傷の可能性が大きくなります。

 

NPSH初生/NPSH3と流量の関係
【図4 NPSH初生/NPSH3と流量の関係】

 

2.キャビテーション発生を防止する具体的な対策と注意点

 

(1)液面高さの回復[吸い上げの場合]:運用または設備工事

液面高さを高くすることができれば、(1)式の吸い上げ高さHsが小さくなるのでNPSHA値が回復し、キャビテーション発生を防止することが期待できます。

液面を上げることが不可能な場合は、ポンプ設置面を低くすることでHsを小さくすることが可能です。ただし、設置面を下げるための基礎工事や配管工事を伴います。

 

ポンプ設置面下げによるHs低減
【図5 ポンプ設置面下げによるHs低減】

 

(2)液面高さの回復[タンク押し込みの場合]:運用または設備工事

液面高さを上げる運用の他に、タンク設置位置をより高くすることで、(2)式のHaが大きくなりNPSHAを回復することができます。
ただし、タンク設置位置を高くするには耐震設計や配管などプラント設備設計全体面から検討する必要があり、大掛かりな改造となる可能性があります。

 

ポンプ設置面上げによるHa増大
【図6 ポンプ設置面上げによるHa増大】

 

(3)吸込み配管損失の低減

 

① 吸込み配管口径を大きくする:配管工事要

配管損失は流速の2乗に比例しますので、口径を大きくすることで流速を抑え、配管損失Hℓを低減してNPSHAを大きく取ることが可能となります。

 

② 吸込みストレーナの監視強化:追設工事要

吸込みストレーナを2連切替式(ツインストレーナ)として差圧計を設置してNPSHに対する余裕値を考慮したアラーム値を設定します。
アラーム信号が発出した場合は、速やかに切り替えて、ストレーナの清掃を行います。
 

吸込みストレーナの監視強化
【図7 吸込みストレーナの監視強化】

 

この運用方法をとれば、ストレーナ目詰まりによる吸込み配管損失がキャビテーション発生閾値に達する前に切り替えることができ、健全なポンプ運転を継続することが可能となります。

 

③ 吸込み弁を全開にする:確認事項

メンテナンス等で吸込み弁を閉めた後、ポンプ運転を再開するときには、吸込み弁が全開であることを確認してください。
中間開度の場合は、抵抗による損失が発生してNPSHAが低下しますので注意してください。

 

(4)液温変化率の緩和[高温液を扱うポンプの場合]:運用上の対応

液の飽和蒸気圧力は、温度が上昇すると2次関数的に増大します。
下図は、水の温度‐飽和蒸気圧力特性です。

 

水の温度‐飽和蒸気圧力特性
【図8 水の温度‐飽和蒸気圧力特性】

 

密閉タンク押し込み型ポンプにおいて、タンク内の液温が急激に低下した場合、タンク内圧力もその液温における飽和蒸気圧力Pv’まで低下しますが、下流のポンプ入口の液温は高い状態で飽和蒸気圧力はPvのままです。
この状態における NPSHA=Ha-Hℓ-(Pv-Pv’)/ρg となります。

温度変化が急激な場合はNPSHA低下量が大きくなるので、高温液を扱うポンプの場合は、揚液の温度変化率を極力緩やかにすることで、キャビテーション発生を回避するようにしてください。

 

(5)立軸ポンプまたは水中ポンプの採用:ポンプの新規交換

ポンプ吸込み口が水中に没する立軸ポンプ、または水中ポンプを採用すれば、吸込み配管が不要となり、配管損失を気にする必要がなくなります。

 

立軸ポンプまたは水中ポンプの採用
【図9 立軸ポンプまたは水中ポンプの採用】

 

ただしLNGなどを扱う場合、あるいは火力発電用の復水ポンプの場合は、ポンプ入口圧力が飽和蒸気圧力に等しいため、下図のようにNPSHR分に相当する没水深さを確保したピット内への設置が必要となります。

 

二重胴立軸ポンプ
【図10 二重胴立軸ポンプ】

 

(6)可変速運転の導入(小水量域における初生キャビテーション対策)

ポンプのNPSHRは、回転速度比の2乗に比例して変化します。
小水量域における運転が多い場合は、バルブを絞って流量を下げるのではなくて、インバータ制御モータなど可変速仕様として回転速度を下げて流量調整を行うことで、小水量域における初生NPSHRを低下させて、キャビテーション発生を防止することができます。
ポンプ軸動力が回転速度比の3乗に比例して低下するので省エネルギー効果も高く、非常に優れた方法です。

 

減速による流量制御で小水量域における初生キャビ回避
【図11 減速による流量制御で小水量域における初生キャビ回避】

 

(7)ポンプ羽根車の新規交換

 

① 高吸込み比速度羽根車の導入:ポンプ製造元と協議

NPSH3をhsv(m)、流量をQ(m3/min)、回転速度をN(min-1)とした時、吸込比速度(Suction Specific Speed)Sを次の式で定義することができます。

 S=NxQ1/2 / hsv3/4・・・(3)

(3)式からわかるように、S値が大きくなるように設計された羽根車はNPSH3が小さくなるので、より低いNPSHAにおいてキャビテーションを起こさずに運転することが可能となります。
ただし、S値を大きくすることは②で述べる初生キャビテーションの回避とトレードオフの関係にありますので、運転流量などの使用条件に注意が必要となります。

 

② 羽根車入口諸元の変更(初生キャビテーション対策)

小水量域における初生キャビテーション発生を羽根車の変更によって防止する場合、入り口設計流量を運転流量域に合わせるため、羽根車入口の設計諸元(目玉径、入り口角度など)が、高S値の羽根車とは異なってきます。
運転流量とポンプ特性とを照合(運転流量がポンプ最高効率点に対してどの程度大流量側なのか小水量側なのか)した上で、ポンプ製造元と協議して、最適な設計の羽根車の導入を検討する必要があります。

 

羽根車入口諸元の変更
【図12 羽根車入口諸元の変更】

 

(8)両吸込み型ポンプへの変更:ポンプ製造元と協議、配管・基礎工事

同一の流量を扱うとき、(3)式から羽根車流入流量が1/2になればS値、回転速度を同一としたとき、NPSH3は元の値に対して約0.65まで低下します。

したがって片吸込み羽根車ポンプを使用していて運転流量が定格運転点より大幅に多い場合(120%程度以上)は、両吸込み羽根車のポンプと交換することによりNPSH3を下げてNPSHAより十分に低い値としてキャブテーション発生を防止できる可能性があります。

ただし、吸込み吐出し配管取合いやポンプ外形寸法が変わってきますので、配管工事、基礎工事の改造が必要となります。

 

両吸込み羽根車採用によるNPSHR低減
【図13 両吸込み羽根車採用によるNPSHR低減】

 

(9)インデューサー(Inducer)付きポンプの導入[高速ポンプの場合]

インデューサー」とは一種の軸流羽根です。
軸流羽根は羽根入口における流路面積の急縮小部がなく、流路がキャビテーションによる気泡で閉塞されにくい特性を持つため、初生キャビテーションを発生しつつ全揚程を確保することができ、主羽根に対して必要なNPSHを与えることができます。
ただし、キャビテーション壊食による損傷が進行するため定期的に交換する必要があります。

 

インデューサー(Inducer)付きポンプの導入
【図14 インデューサー(Inducer)付きポンプの導入】

 

(10)ライナリング摺動すき間の狭隘化[低比速度ポンプの場合]

低比速度(小水量、高揚程)のポンプは、ライナリング摺動すき間を通って羽根車出口から入口へ循環する漏れ量のポンプ流量に対する比率が大きいため、羽根車入口流量が大きくなります。
さらに、漏れ循環流と正規の流入流れの衝突による影響もあり、キャビテーション発生防止の観点からは不利な条件です。

樹脂製ライナリングの導入により、摺動すき間を狭くすることで、NPSH3改善の効果が期待できます。

 

ライナリング漏れ流れの影響
【図15 ライナリング漏れ流れの影響】

 

(11)羽根車材質および表面改質(対処療法):ポンプ製造元と協議

初生キャビテーション対策を特に施工しなくとも、羽根車の材質をより耐食性の高いものに変えるか、羽根車入口部分にステライト盛金などの表面改質を施すことで、壊食を抑制して運転寿命を延ばすことも可能です。
キャビテーション発生防止とは異なる性質の、あくまで対処療法ですが、各種工事を伴う対策が困難な場合などは採用を検討する価値があります。

 

以上、今回はポンプに起きうるキャビテーションの原因と対策について、ポンプの設計的な観点も含めて解説しました。本記事が皆様のご参考になれば幸いです。
 
 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

 

 

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