【早わかりポンプ】ポンプの始動準備における重要ポイント

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ポンプを健全に運転するためには、始動前の準備作業が必要です。
今回は、「水張り」「軸受・軸封系統確認」「暖機」(高温ポンプ)の3つについて紹介します。

1.水張り(空気抜き)

ポンプは、内部がすべて水など液体(揚液)で満たされたことを前提とした流体機械です。
内部に空気だまりが生じた状態でポンプを起動すると、狭い隙間を持つ摺動部が固体接触して焼き付き、重大な損傷に至る可能性があります。

そのため、(自吸式と呼ばれる空気抜き不要なタイプの特殊構造ポンプを除いて)ポンプは起動前に内部の空気を完全に抜いて内部が液で満たされた状態とする必要があります。これを「水張り」と呼びます

水張りの方法は、吸込み液面がポンプより低い「吸い上げ」の場合と、ポンプより高い「押し込み」の場合で、若干異なります。

 

(1)「吸い上げ」の場合

① 真空ポンプ+満水検知器(主に水を扱う大型ポンプ)

ポンプ吐出管からバイパス管を分岐してポンプより高い位置に満水検知器とその先に真空ポンプを接続して、吐出弁を全閉、バイパス弁を全開とし、真空ポンプを運転します。
ポンプ内部の水張りが完了したことを満水検知器で検知します。
 
真空ポンプと満水検知器

 

② 呼水漏斗+フート弁(主に水を扱う小型ポンプ)

ポンプ吐出管からバイパス管を分岐してポンプより高い位置に呼水漏斗を接続し、吸込配管下部にフート弁と呼ばれる逆止弁とストレーナを兼ねた構造の弁を取付けます。
吐出弁を全閉、バイパス弁を全開とし、ポンプ本体から空気を抜くための空気抜き弁を全開します。
呼水漏斗から水を注入します。ポンプ空気抜き弁から水が流れ出たことで水張り完了を目視確認します。
 
呼水漏斗とフート弁

 

(2)「押し込み」の場合(主に水以外のプロセスポンプ)

ポンプ吐出弁を全閉、吸込弁を全開とし、空気抜き弁を全開とすることで、吸込タンクから液がポンプに流入します。空気抜き弁から液体が流出し始めたことによりポンプ水張り完了を検知できます。

ポンプ内部にエア溜りが生じる構造である場合は、ポンプ本体のエア溜り部につながる位置に別の空気抜き弁を設ける必要があります。

取扱液が有害など、直接目視確認できない場合は、空気抜き管に満液検知器を設置してエア抜き完了を検知するようにします。
 
エア溜まりと空気抜き弁

 

2.軸受・軸封(ユーティリティ)系統の確認

(1)「軸受」に関する確認事項

  • 軸受潤滑油量が適正であることを軸受箱に取付けられた油面計で確認します。
  • 水冷軸受の場合は冷却水が適切に供給されていることを配管に取付けられたフローサイトで確認します。
  • 強制給油軸受の場合は、
    1. 油タンクの油面計で潤滑油量を確認します。
    2. 油クーラへ冷却水が適切に供給されていることを配管に取付けられたフローサイトで確認します。
    3. ポンプ起動に先立ち、補助油ポンプ(AOP)を運転して、軸受給油圧力が規定値(通常0.1MPaG)であることを確認します(通常、運転シーケンスに起動インターロックとして組み入れられます。)

 

(2)「軸封」に関する確認事項

  • スタフィンボックスに冷却ジャケットが設けられている場合は、冷却水が適切に供給されていることを配管に取付けられたフローサイトで確認します。
  • 軸封がグランドパッキンで、ランタンリング型(吸込み圧力が大気圧以下のとき)またはスロートブッシュ型(ポンプ取扱液が汚濁水のとき)の場合、外部フラッシングが適切に供給されていることを配管に取付けられたフローサイトまたは圧力計で確認します。
  • 外部フラッシングとランタンリング・スローとブッシュ

  • 軸封がメカニカルシールで、フラッシング方式が外部注水方式の場合は、フラッシング液が適切に供給されていることを配管に取付けられた圧力計または流量計で確認します。図の圧力計Pfまたは流量計Fiで、フラッシング液の供給を確認。なおフラッシング液は、メカシールを潤滑冷却後、ポンプ内部へ入ります。
  • 圧力計Pfと流量計Fiでフラッシングを確認

  • ダブルメカニカルシールの場合は、ポンプ液の外部漏洩を防ぐために、ポンプ吸込み圧力が規定値まで上昇する前に、フラッシング液系統を運転して、所定の圧力差(フラッシング圧>ポンプ吸込み圧力)を保持する必要があります。フラッシング装置から安全なシール液を供給します。メカニカルシール出口圧力Pfo>ポンプ吸込み圧力Psであることを確認します。圧力差を保持することにより内側シールが漏れたとき、圧力が高いシール液がポンプに入るので、危険なポンプ液は外部へ漏洩しない構造となっています。

    シールフラッシング装置

     

    3.高温ポンプの暖機

    高温液を扱うポンプで、常温で起動したポンプに急激に高温液が流入すると熱容量の小さい回転体が先に膨張して、固定側との隙間が失われ摺動部が固体接触してかじり付く恐れがあります。
    特に横軸多段ポンプの場合は、停止中の軸のたわみが大きく、ケーシングは上部が高温、下部が低温となるため軸たわみと逆の方向に変形してケーシング両端の摺動部で接触しやすくなります。

    高温ポンプでは起動前にポンプと仕様液の温度差を解消するための暖機ラインが設けられている場合があります。
    暖機が必要な時は、下ケーシングと液の温度差、ケーシング上下の温度差にポンプ起動許容条件が設定されます。
    ポンプ起動前に、温度差が解消されていることを確認する必要があります。(通常、運転シーケンスに起動インターロックとして組み入れられます。)

    暖機におけるケーシングの温度差

    水張りやユーティリティ確認などポンプ始動準備作業が整えば、いよいよポンプ起動となります。
     

    (日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

     

     

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