【早わかりポンプ】上下水道で使われるポンプの種類・方式
これまで当連載では、26回にわたりターボ形ポンプを中心に様々な技術コラムを書いてきました。
今回は私達の日常生活に欠かすことのできないインフラである上下水道システムと、そこで使用されるポンプについて見ていきたいと思います。
目次
1.上下水道供給系統
図1は上水の取水・給水から、下水の排水までの系統を示す模式図です。
【図1 取水から排水までの上下水道系統】
ダムや貯水池などから自然流下により取水した水は、沈砂池で砂などの固形物質を取り除いた後、送水ポンプによって浄水場へ送られ、各種の水処理を施して飲料水に適した水質に清浄化されます。清浄化された上水は配水ポンプで配水池へ送られ、そこから自然流下によって上水道管へ送られて各戸の生活用に供されます。
配水池から遠方へ流れるにつれて配管内の圧損で圧力が低下するため、上水供給システムの途中に適宜、増圧ポンプを設置して、供給末端の圧力を一定値範囲内に保持します。供給圧力範囲は、水道法の規定に基づき0.15MPa以上0.74MPa以内と定められています。上限値は一般的によく使用される塩ビ管の最高使用圧力と一致しています。実際には0.25~0.3MPa程度で供給されています。0.3MPaという圧力は3気圧、水柱(ヘッド)に換算すると30mに相当します。
時々何らかの原因で水道管が破損し、凄まじい勢いで水が吹き上がる現象をニュースなどで見たことがあると思います。この圧力は本管内の圧力のことで、蛇口やシャワーヘッドへの負荷を考慮して各家庭の末端供給圧は0.15~0.2MPa(15~20m)程度になるように調整されています。それでも3階建て位までのお家であれば十分に水道水を出すことのできる圧力です。
2.高層住宅、ビルディングへの給水
4階建て以上のアパート・マンションや各種ビルディングでは、水道管の圧力だけでは水を供給することができませんので増圧手段が必要となります。
(1)高架水槽方式
水道管から受水槽内へ水を取り込み、揚水ポンプで屋上の貯水槽へ水を送りそこから自然流下により高層各階へ給水する方式です。
貯水槽に十分に水が溜まっていれば停電時にも給水が可能という利点はありますが、長期間貯水槽内に水が滞留することで水質が低下する可能性があり定期的な水槽の点検清掃が欠かせないという短所があります。
実揚程が数十メートルから数百メートルと高揚程が要求されるため、揚水ポンプには輪切り型多段ポンプが使用されます。
(2)直結増圧給水方式
受水槽、揚水ポンプ、高架水槽を使用せず、水道管から取り込んだ水を増圧ポンプによって圧力を上げて直接高層階へ給水する方式です。
常に新鮮な水を供給できる長所があり、近年多く採用されるようになってきています。
増圧ポンプをインバータによる可変速運転方式として、水道使用量の増減に応じて末端供給圧力が一定になるように制御するとともに、使用量が少ない時の運転動力を低減して省エネ化を図ることも行われています。
3.地下水の利用
上水供給システムからの水ではなく、地下水を直接汲み上げて上水として利用する場合もあります。
(1)家庭用給水装置用ポンプ
浅井戸から地下水をくみ上げて家庭用に使用する場合に設置します。
図2の模式図に示す構造の「過流ポンプ」というターボ形にも容積形にも属さない特殊ポンプが使用されます。
外周に沿って放射状に刻まれた溝をもつ円板を回転させると、円板の周速度に近い速度で水が飛び出してケーシング内に循環量が生じます。この運動量を利用して水を昇圧する構造で「再生ポンプ」あるいは「ウェスコポンプ」とも呼ばれます。
【図2 過流ポンプの構造】
(2)深井戸ポンプ
地上から8m以上深い所から地下水をくみ上げる場合は、NPSH*1)の関係から地上設置型ポンプを使用することができないので、深井戸用水中ポンプを使用します。
*1) NPSHの解説は「キャビテーションとは?発生原理やNPSHなどの基礎知識をやさしく解説」のページをご参照ください。
井戸を掘るためのコストは径を小さくするほど軽減することができます。ポンプ羽根車の直径が小さいほどポンプ外径も小さくなります。
一方で、羽根車直径を大きくするほど高いポンプ全揚程を得ることができます。
そこで、1段当たりの全揚程を10~20m程度に制限して直径を小さくしたうえで多段ポンプとすることにより、井戸の深さに応じた所要の全揚程を達成させる構造とします。
羽根径を小さくしても1段当たりなるべく高い全揚程を得られるようにするため高速(2極電動機駆動)とします。電動機も外径を小さくするために、固定子・回転子を軸方向に伸ばした細長い形状とします。図3のようにポンプ部分が上部、モータが下部の立軸構造で、非常に細長い形状となります。
細長い形状の電動機は始動トルクが小さくなります。また、深井戸のためにケーブル長も長くなるため、電動機の端子端電圧が低下してさらに始動トルクが低下します。このため、電動機の始動方法や電気系統の設計に十分な検討が必要となります。
地下水中設置という条件から、土砂による軸受やメカニカルシールの異常摩耗、地下水中の塩分による腐食、炭酸カルシウム析出などの問題に対する対策が必要となります。電動機は水中モータとして内部を清水または油で満たします。電動機内部を地下水圧よりわずかに高く保持することで、土砂や腐食成分を有する地下水が電動機内部へ侵入することを防止します。
【図3 深井戸用水中モータポンプ】
4.下水排水
(1)マンホールポンプ
家庭などから排出される生活汚水を下水管の自然流下管路で集めて下水処理場へ加圧送水するためのポンプ設備が「マンホールポンプ」システムです。
マンホールの中にポンプ設備を組み込み、マンホール内に一定量の汚水が溜まるとポンプが自動起動して汚水を送水する制御を行い、ポンプに異常が発生したときには直ちに保守担当者へ通知されるように管理されています。ポンプ羽根車は、汚水に含まれるスラリーや固形物で閉塞することなく排出できる構造*2)となっています。
*2) 詳しくは「特殊な遠心ポンプの種類と用途を解説」の3.ノンクロッグポンプの章をご参照ください。
(2)宅内排水ポンプユニット
生活汚水を下水道本管へ自然流下では流せないような地形の場合には、汚水ポンプを備えた汚水貯槽を敷地内に設置して下水管まで汚水を圧送します。
マンホールポンプと同様に、ポンプ羽根車は無閉塞構造としています。ポンプ材料には、腐食に強い樹脂やステンレス鋼が使用されます。
(3)ポンプゲート
下水処理場で自然環境へ排出して問題ない水質にまで浄化された下水は排水機場からポンプを用いて河川へと放水されます。
【図4 ポンプゲートと従来機場の比較】
図4は、従来型機場とポンプゲートの模式的に比較したものです。
近年は、排水ポンプとゲート弁を合体させたポンプゲート方式が多く採用されるようになっています。
従来の排水機場は、自然流下路である河川をバイパスする流路を設けて、そこに排水機場を設置していました。これに対して、ポンプゲートは本来の自然流下路である河川内に直接機場を建設することが可能です。
このため、排水機場のための敷地の確保が不要で、機場建設費を削減し、工期を短縮することが可能となり、景観保護の観点からも有利となります。
ポンプゲートの運転状態を図5に示します。
平常時はポンプゲートが上にあがって開いた自然流下の状態で、ポンプによる排水が必要になるとポンプゲートが下がって没水し強制排水を行います。
この状態でポンプを停止してもポンプ出口に逆止弁が設けられているので、逆流を防止して自然流下による排水状態を維持することができます。
【図5 ポンプゲートの開閉と運転状態】
以上、今回は上下水道で使われるポンプについて解説しました。
上下水道設備には様々なポンプが活躍しており、私達の快適な暮らしを支えているのです。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)