【早わかりポンプ】特殊な遠心ポンプの種類と用途を解説|原理・構造も図解でわかる

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これまでの当連載では、ターボ形ポンプに関する記事を何本か掲載してきました。
今回はターボ形ポンプの中の「遠心ポンプ」のうち、ある弱点を克服する特殊ポンプをご紹介します。

1.自吸ポンプ (Self-priming pump)

陸上に設置される通常のポンプは、始動前に空気を完全に抜いてポンプ及び配管内部が水で充満された状態にする(水張り)必要があります*1)

*1)詳しくは別コラム「ポンプの始動準備における重要ポイント」をご参照ください。
 
自吸ポンプ」は、水張り(呼び水)を行わずに始動して揚水することができる特殊な構造のポンプです。
簡易水道用、農業用、土木・建設工事用などで、水張り操作の手間を省き、駆動電動機のオンオフだけで簡便にポンプ運転を行いたい場合に使用されます。

図1は自吸ポンプの構造と揚水原理を模式的に示したものです。

 

自吸ポンプの構造と揚水原理
【図1 自吸ポンプの構造と揚水原理】

 

停止時には、ポンプ羽根車がケーシング内に残留する水の中に没した状態となります。

始動して羽根車が回転すると、配管内の空気とケーシング内の残留水が気水混合状態で羽根車から吐き出されます。ケーシング上方には気液分離板があり、気泡がここで分離されて吐出し、配管へ抜けていきます。気泡を含まない下方の水は、ノズルから羽根車吸込み口へ噴流します。

こうして残留水が循環するうちに、吸込み配管内の空気が、負圧により吸上げられ吐出し配管へ吐き出され、やがてポンプ内が水で充満され、通常の揚水状態となります。揚水状態になると吐出し‐吸込みの圧力差によってノズル入り口の弁が閉じた状態となり、吐出し水がノズルを通って循環するのを防止する構造になっています。

また、ポンプ停止時に水が吸込み配管内へ落ちてケーシング内の残留水が無くなるのを防止するため、ポンプ吸込み口には逆止弁が設けられています。

なお、初回の始動時のみ、ケーシング内に水を注入して羽根車が没水した状態としておく必要があります。
 

自吸ポンプの外観上の特徴
【図2 自吸ポンプの外観上の特徴】

図2のように、水だまりを設けるため吸込みフランジはポンプ回転中心より上方にあり、ケーシングは上下に伸びた形状となるのが外観上の特徴です。

 

2.インデューサー付き遠心ポンプ

ポンプ回転速度を変化させるとき、流量は回転速度比に、全揚程は回転速度比の2乗に、それぞれ比例して変化します。一方、比速度が小さい遠心ポンプの場合は、羽根車直径(羽根径)を変えたとき、流量と全揚程は羽根径比の2乗に比例して変化します。
したがって、回転速度を上げることによって、同じ流量、全揚程を得るために必要な羽根径を小さくすることができるので、ターボ形ポンプの小型化を図ることができます。

ところが、ポンプのNPSHRは、回転速度を上げたとき、回転速度比の2乗に比例して大きくなるので、高速化を図るときにはキャビテーションの問題が発生します*2)

*2)キャビテーションとNPSHについては別コラム「キャビテーションの原因と対策、NPSHの基礎知識をやさしく解説」をご参照ください。
 
このような場合、主羽根車(遠心ポンプ羽根車)の吸込口の直前に、「インデューサー」(Inducer)と呼ばれる螺旋状の羽根車をつけることにより対応可能です。

図3にインデューサー付き遠心ポンプの羽根車構成を模式的に示します。

インデューサー付き遠心羽根車
【図3 インデューサー付き遠心羽根車】

 
インデューサーは一種の軸流羽根です。軸流羽根は羽根入口における流路面積の急縮小部がないため、流路が気泡で閉塞されて揚程を出せなくなる発達キャビテーションが発生しにくい特性を持ちます。

図4に示すように遠心羽根の主羽根は、全揚程が3%低下するNPSH3より低い吸込みヘッドでは全揚程が急落下して揚水が不可能になりますが、軸流のインデューサーはNPSHR以下の吸込みヘッドにおいても全揚程があまり低下しません

このため高速回転において初生キャビテーションを発生しつつもその全揚程を確保することができるので、主羽根に対して必要なNPSHを与えることができます。

インデューサーと遠心羽根の全揚程低下特性比較
【図4 インデューサーと遠心羽根の全揚程低下特性比較】

 
インデューサーは、回転速度が18,000~40,000min-1にも達する宇宙ロケット用の液体燃料(液体水素、液体酸素)ポンプに採用されています。

インデューサーは、NPSHAの余裕が少ないプロセスポンプやボイラ給水ポンプ(BFP)にも採用されることがあります。

インデューサーは恒常的にキャビテーションを発生しつつ主羽根のNPSHRに相当する揚程を出す部品であり、キャビテーション壊食により次第に羽根表面が損傷していきます。したがってプロセスポンプやBFPのように長時間連続運転する用途では、インデューサーは消耗品として考え、定期的に交換する必要があります。

 

3.ノンクロッグポンプ

固形物が混入する液体を送るポンプの場合、固形物がポンプ内部、特に羽根車で詰まって流路を閉塞することがないような構造とする必要があります。
このようなポンプを「ノンクロッグポンプ」(Non-clogging, 無閉塞)といいます。

水力特性を多少犠牲にしてでも無閉塞を実現するため、羽根車の翼枚数を少なく(2枚以下)して、羽根車出口幅を大きくとります。固形物が翼間で詰まったときの除去を容易とするため側板のないセミオープン羽根が用いられることが多くあります。

図5はノンクロッグ羽根車の構造の一例を模式的に示したものです。
翼間流路高さeを、出口幅bより大きく取るなど固形物が閉塞しないための工夫を施します。

ノンクロッグ羽根車
【図5 ノンクロッグ羽根車】

 
固形物が羽根車の翼で破損するのを防止する必要がある場合、羽根車を1本の等断面流路で形成し、見かけ上は羽根が全く無い外観となるものが用いられます。このような構造を「ブレードレスポンプ」といいます。

図6にブレードレスポンプ羽根車の構造を模式的に示します。
固形物は翼に衝突することなく、円管内を通過する如くなめらかに羽根車内を通り抜けることができるので、鮮魚の移送などにも使用することができます。

ブレードレスポンプ羽根車
【図6 ブレードレスポンプ羽根車】

 

4.シールレス(Seal less)ポンプ

ポンプに使用される代表的な軸封部品として、グランドパッキンメカニカルシールがあります。

メカニカルシールは、摺動部に数μmのすき間があり、完全なゼロリークではありません。シールが健全な状態で1時間当たり数滴の漏れがあります。大気中に出た時点で蒸発して見かけ上は漏れが確認できません。

これに対して、主軸がケーシングを貫通する箇所がなく完全ゼロリークを実現できるポンプとして次のような構造のものがあります。

 

(1)キャンドモータポンプ

ポンプを駆動する電動機はポンプとともに溶液中に浸され、電動機の主軸にポンプ羽根車が取付られます
電動機のロータとステータが薄い非磁性金属の缶(キャン)で覆われ、巻線部に揚液が侵入するのを防ぎます。

図7にキャンドモータポンプの構造を模式的に示します。

キャンドモータポンプ
【図7 キャンドモータポンプ】

 
揚液の一部は、吐出し管から抽出されてオリフィスで減圧した後、電動機軸端部に注入され、ロータとステータのすき間を流れて、ロータと軸受を冷却してポンプ羽根車の吸込み側へ戻ります。

ロータとステータが缶(キャン)で覆われるため、普通の電動機よりもエアギャップが広くなるためトルクが低下するという短所があります。また、キャンで発生する渦電流損失のためにモータ効率が低下します。

 

(2)マグネットポンプ

電動機を大気側に置いて、ポンプ主軸を薄い非磁性体金属で覆い、電動機軸に駆動用の、ポンプ軸に従動用の永久磁石を取り付けて、薄い缶(キャン)を隔てて磁力により電動機からポンプへ回転トルクを伝達する構造のポンプです。

永久磁石を使用するため、分解組立の際には磁力によりポンプ回転体が急に動こうとするので、作業の安全面で十分な注意が必要です。図8にマグネットポンプの構造を模式的に示します。

マグネットポンプ
【図8 マグネットポンプ】

 
キャンドモータポンプ、マグネットポンプいずれもキャン(缶)の内部は吸込み圧力が作用する構造で、薄い缶でも耐えられるため、吐出し圧力がある程度の高圧であっても使用することが可能です。
一滴の漏れも許容されない化学液や薬品などの移送に適しています。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

 

 

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