- 機械製図「ドラトレ」シリーズ
《初心者向け》やさしい図面の書き方 最新JIS製図と図解力完成(セミナー)
2024/12/13(金)10:00~17:00
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水・油などの液体や、空気などの気体を扱う機械を「流体機械」といいます。
流体機械には、外部から仕事を加えて、中を流れる流体にエネルギーを与えるものと、中を流れる流体のエネルギーを外部へ仕事として取り出すものがあります。
前者が、ポンプ、送風機、圧縮機、などです。
後者には、水車、風車、タービン、があります。
今回は、水力発電に活躍する「水車」についてお話ししたいと思います。
目次
水車は、反動形(Reaction Turbine)と衝動形(Impulse Turbine)に大きく分類されます。
この区分は、蒸気タービンにも適用されます。
「反動形」は、水が水車の羽根に当たって向きを変えるときに、水圧により押す力(ヘッド)を羽根車(以下ランナとよぶ)の回転力として取り出すものです。
「衝動形」は、ノズルから水を噴射して水車の羽根に当てて、羽根に衝突する水の速度エネルギーをランナの回転力として取り出すものです。
反動形水車・衝動形水車には次のような種類のものがあります。
水車は、水力発電に利用されます。火力発電では、蒸気タービンやガスタービンで発電機を回して発電しますが、水力発電は水車で発電機を回します。
ダム式水力発電系統は図のようになります。
貯水池(ダム)から導水路を通ってサージタンクまで導かれた水は、そこから水圧管を通って降下して水車に入り、ランナを回転させます。ランナを通過後、水は吸出し管を経て放水路から河川に放流されます。
ダムの水面と、放流河川の水面の高低差を総落差HGといいます。また、総落差から、導水路・水圧管・放水路の損失水頭と、吸出し管出口速度ヘッドの合計を引いた値Hを「有効落差」といいます。
有効落差H[m]と流量Q[m3/s]が与えられたとき、水の密度をρ[kg/m3]、重力加速度をg[m/s2]とすれば、水車が有する力学的な能力は、ρgQH[kg-m2/s3]となります。
ここから水車内部における水力損失と機械損失を引いた値が、実際に水車が出力することができる機械的動力Lになります。
水力損失と機械損失を考慮した水車効率をηとすれば、L=ηρgQH[kg-m2/s3]となります。
ランナの回転速度をn[min-1]、水車の出力をL[kW]、有効落差をH[m]とすると、水車の比速度nsは、ns=n√L/H3/4 で定義されます。
ポンプの場合は、Lではなく流量Qを用いて比速度を定義しますが、水車の場合は出力Lを用います。
ランナの円板外周に20~30枚程度設けられたバケットに、水圧管の先端に取り付けたノズルから高速噴流をバケットに衝突させて、その反力でランナ回転力を得ます。
発電負荷の変動に対しては、ノズル内にあるニードル弁の開閉により流量を変えることで出力調整して対応します。
緊急負荷遮断時に急激に噴流量を減少すると、水圧管内で水撃減少による異常圧力上昇が生じます。
そのため、先ずノズル先端部に設けたデフレクタを動かして噴流の方向を変え、バケットに入る流量を減少させてからノズルを移動します。
高落差(200m以上)・小水量に適します。
ノズル数をNとしたとき、比速度nsは、(10~25)√N の範囲となります。
構造的には、渦巻きポンプとほとんど同じです。
ランナ外周に設けられた案内羽根(ガイドベーン)は、翼角度可変機構が付いていて、発電負荷に応じてランナに入る流量を変え、出力調整できるようになっています。
ただし流量を変えると、ランナに対する水の流入角度も変化するので、衝突損失が増大するため、部分負荷における効率は低くなります。
渦巻きケーシングと案内羽根の間には「スピードリング」という部品があり、ここには「ステーベーン」という固定翼が設けられて、案内羽根へ流れを導くとともに、補強部材ともなっています。
フランシス水車のランナ出口における流速はかなり大きいので、ランナ出口に吸出し管(拡大管)を設けて減速させ、速度エネルギーを圧力エネルギーに変換します。
その結果、吸出し管の高さ(ランナ出口と放水面の差)および減速した速度エネルギーの分だけ、ランナ出口圧力が低下して、ランナの有効落差を増やすことができます。
フランシス水車が適用される有効落差範囲は40~600mで、比速度nsは50~350の範囲です。出力100MW以上の大容量水車に適しています。
渦巻きケーシングから、ステーベーン、ガイドベーンまでの構造は、フランシス水車と同一で、ランナの羽根が斜めの流路に置かれた形状のものを「斜流水車」といいます。
斜流渦巻きポンプに似た形状をしています。
ガイドベーンを開閉させて負荷調整するときに、ランナの羽根も翼角を変化させて、広範囲の負荷帯で高効率を得られるようにした構造のものを「デリア水車」といいます。
フランシス水車に比較して、高い部分負荷効率を得ることができます。
斜流水車の適用有効落差範囲は30~200mで、比速度nsは100~400です。
水車も低落差・大流量になると、低揚程・大流量向きの軸流ポンプと類似の形状のものが適用されます。このような構造の水車を「プロペラ水車」といいます。
プロペラ水車の適用有効落差範囲は2~90mで、比速度nsは250~1200です。
デリア水車は立軸ですが、プロペラ水車は立軸・横軸両方があります。
そのうち、立軸であり、デリア水車と同様にガイドベーン開度に応じて、ランナ翼の角度も変化させるものを「カプラン水車」といいます。
一方、有効落差20m以下になると横軸にした方が、損失が少なくて有利となりますが、横軸のプロペラ水車を「チューブラ水車」といいます。
カプラン水車と同様に、動翼も可変翼角とすることができます。
入口から出口まで流れが軸方向となるため、発電機を水車と平行に外部へ設置してベルト駆動とするか、下図のように水中発電機として円筒型のケーシング内に設置し水車と直結にした構造もあります。
上述のように、反動形水車はターボ形ポンプに似た形状をしています。
ターボ形ポンプを逆転させて、流れ方向を吐出しから吸込みへ向かうようにすると、ポンプは基本的には水車に転化します。回転を両方向としてポンプと水車の機能を兼ね備えたものを「ポンプ水車」といいます。
ポンプ内部は減速流れ、水車内部は増速流れ、という違いがあり、減速流の場合、流れが壁からはく離することによる損失が大きくなります。
そのため、ポンプ水車は、ポンプとして合理的な形状の流路とすることを重視しつつ、水車として使用するときの効率低下が最小となるような設計を行います。
ポンプ水車として使用されるのは、フランシス水車またはデリア水車です。
電力需要には昼間と夜間で大きな差があります。
ポンプ水車を利用して、電力需要の高い昼間は水車運転による発電を行い、夜間にポンプ運転による貯水池への揚水を行って貯水量を補給する運用を「揚水発電」といいます。
ポンプ水車と接続するのは、発電・電動機であり、ポンプ水車の回転方向に合わせて、水車運転のときは発電機、ポンプ運転のときは電動機として機能します。
大容量火力発電所や原子力発電所をベースロード電源として、昼夜定格負荷運転を行い、夜間の余剰電力を利用してダムへの揚水を行う、という使い方が通常ですが、近年は昼間に太陽光発電の普及で余る電力を利用して揚水を行う、という運用も一部地域で行われているようです。
水車は化石燃料を用いないクリーンな再生可能エネルギーです。
日本は降雨量も多く、エネルギー源として入手しやすい利点もあります。
また、今後は大容量火力・原子力といった集中電源から、小容量分散電源への移行も進むと考えられます。
高落差のダムではなくても、小さな流れを利用したマイクロ水力(100kW以下)や小水力(100~1000kW)も、環境にやさしい水力エネルギーとして今後も普及していくと考えられます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)