【品質保証塾・上級編】組織体制で変わる品質保証の文化や違い|品質不正が起こりにくいのは?

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品質保証と組織・体制

品質保証といっても、組織構造の違いによって文化や権限が異なる場合があります。

役員に品質保証本部長がいる組織であれば、経営判断が求められる時にも、品質視点の意見が尊重されます。経営層がQCD(Quality:品質、 Cost:コスト、 Delivery:納期)の観点で、バランス良く判断を行うことにより、より透明性のある品質不正が起こりにくい組織を構築できるのです。
しかし、実際には組織における品質保証の立ち位置で品質保証の権限が異なるのです。

今回は『品質保証の組織における立ち位置』から、組織文化の違いを実体験に基づき解説していきます。

1.品質保証組織体制の特徴(パターン別解説)

品質保証部門が組織の中で、どこの立ち位置にいるかによって文化や特徴が異なります。
まずは、組織体制の違いと、それぞれの品質保証の特徴を記載していきます。

 

(1)経営直下型

品質保証の組織体制-経営直下型

品質保証が経営陣の直下に位置する組織体制になります。経営直下であるため、品質情報が直接経営層へ届きます。組織の特徴としては、他組織の介入がないので品質保証の独立性が高く、大規模な品質保証組織を構築していることです。

品質保証のみの組織であるため、他本部から完全に独立した別組織に位置しています。単純に組織構造的に独立しているのみではなく、財政的にも独立しているため、品質保証機能を第三者視点で行うことができる効果が見込まれます。

従って、品質保証が最後の砦として機能し、『品質第一』で組織を監視することができます。品質保証の影響力が高いため、近年問題視されている品質不正問題を予防することができるでしょう。

品質保証の影響力が大きいメリットがある反面、社内構造の複雑化により、社内手続きに時間がかかったり、承認回覧ルートに様々な人を加えなくてはならないといったデメリットもあるかもしれません。

実際に自動車業界では、この『品質保証部門の独立性』が求められる会社もあります。設計部門や製造部門から独立した組織にすることで、設計開発部門や製造部門など、様々な部門を第三者視点で監視することができるのです。

 

(2)組織支援型

品質保証の組織体制ー組織支援型

品質保証が技術系本部や製造系本部に属している組織体制です。品質保証は『支援部門』として、関係部門のサポートを行います。

工場現場で発生した品質問題や、技術問題を品質保証が組織のプロセス視点でサポートを行います。踏むべき手順や手続きのサポートを行ったり、スペックや要求事項を参照しながら顧客コミュニケーションの戦略を考えたりします。

活動の主を現場で行うため、現場の品質保証に多く採用されている組織体制です。現場と密にコミュニケーションを取れる反面、デメリットも存在します。

デメリットの1つとしてあげられるのは、技術系・製造系本部のトップは、技術や製造あがりの人が多い傾向にあることです。そのため、品質保証の意見が通りにくい場合があります。品質保証はあくまで『支援機能』になるのです。

品質に関する重要判断を行う場合、形式上は品質保証の承認を得るフローにはなっていますが、実態としてはトップに従ってしまうため、品質保証が抑止力を発揮できない課題が残るでしょう。

実際に私が「支援型組織」の品質保証に属していたとき、上司から教わったことは「品質保証は支援プロセスだからね。あくまで私達の役目は、プロセスが運用できるよう支援すること。むやみに我々が判断してはいけない」ということでした。

『経営直下型』の高い権限を持つ品質保証と比べ、より現場で協力し合える代わりに、独立性の欠如が課題となります。現場で協力しあう仲の良い関係なので、近年多く問題になっている、現場で発生する検査データの品質不正問題などが起こりやすいかもしれません。

 

(3)事業部内型組織

品質保証の組織体制ー事業部内型組織

複数の事業部があるような大企業の品質保証に、よくある組織体制となります。事業部内に位置するため、事業の内容に応じた品質保証機能を兼ね備えることが可能であり、柔軟な品質保証体制を構築することができるのがメリットになります。

この構造は、事業部長の権限が非常に高いために、品質保証部長の声が経営層まで届きにくいというデメリットがあります。支援型は技術系・生産系本部の中に品質保証が属するため、ものづくりに特化した現場視点の品質保証体制になり、比較的品質保証の声が通りやすい方ですが、事業部内型は事業に特化した組織体制のため、品質保証はないがしろにされてしまう危険性もあります。

 

2.現場任せはNG!品質保証組織体制の変化

近年の日本の製造業で品質不正問題が多く取り上げられていることも、記憶に新しいのではないでしょうか。
品質に繋がる重要な検査データを加工したり、実施しなくてはならない試験をせずに実施したことにしたり『Made in Japanは高品質』と思える時代は、とっくに過ぎ去ってしまったかもしれません。

品質不正問題が起こるのは、品質保証体制の弱さや、品質を蔑ろにしてしまう企業の社風などの様々な要因があるかと思いますが、特に上記で挙げた品質保証の組織体制は、組織の品質保証の風土に大きな影響を及ぼす一要因であると考えられます。

特に現場任せの品質保証体制は危険であると考えています。製品を出荷しなくてはならない工場が責任をもって品質 “も” 保証しなくてはならないことで、場合によっては時間がなかったり、必要な人員が不在であったりで、本当は決められた手順が守られていなくても出荷してしまったといったケースがあるかもしれません。

本社主導の品質保証体制の構築が課題であり、『品質第一』の風土や意識づけを現場レベルに落とし込む活動を行っていかなくてはなりません。これは、とても地道でなかなか成果が目に見えないかもしませんが、大切な活動になります。

法令・規格・顧客仕様の遵守、全ての要求事項を満たせるような、ものづくり風土を広げていくことが、今日の製造業の課題かもしれません。

近年の品質保証体制の動向を見ていると、品質不正を背景とした改善の1つとして、品質保証機能を事業部・他本部・他部門から切り離して独立させ『社長直下型』の組織へと置き換える動きが見られます。これは上記で上げた『経営直下型』の品質保証と同様の組織体制です。

品質保証機能を完全に切り離すことで『第三者視点』『顧客視点』で、組織を監視し品質不正の予防を進めることができ、より強固な品質保証体制の確立ができるのです。

 

3.まとめ

今回は、品質保証の組織体制といった切り口から、風土・文化・特徴の違いについて解説をしました。どれが良い・悪いではないですが、品質保証といっても、企業によって立ち位置は異なります。それぞれのメリット/デメリットを理解したうえで、品質保証業務を遂行することで、より組織に貢献できる品質保証部員になるのではないでしょうか。

  • 経営直下型の品質保証では、品質保証に強い権限が与えられているケースが多く、最後の砦としての役割を果たしやすい。経営層へ品質保証の意見がエスカレーションされるため、経営視点での品質判断が行われやすい。
  • 組織支援型の品質保証では、より現場に立ち寄った品質保証体制の構築ができ、支援部門として各部門とのアレンジやサポートを実現できる。
  • 事業部内型の品質保証は、事業に応じた品質保証体制を構築できるため、より柔軟な対応や手順、決まりの構築ができます。

 
次回は、自動車業界に学ぶ「特殊特性」の設定・管理による品質保証体制の強化について解説します。

 
(アイアール技術者教育研究所 Y・S)

 

 
 
 

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