誘導電動機の基本原理《三相誘導電動機の基礎②》

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誘導電動機

前回の記事「直流電動機(直流モータ)の原理・構造」では、電動機の基本的な構造と直流電動機の動作原理について説明しましたが、今回は誘導電動機(誘導モータ)の基本です。

《前回の復習》電動機(モータ)の基本構造

まず、前回示した一般的なかご型三相誘導電動機の構造を再掲しますので、確認して下さい。

 

電動機の基本的な構造
【図1 電動機の基本的な構造】

 

1.誘導電動機(誘導モータ)の基本原理

誘導電動機の動作は、2段階で考える必要があり、第1段階では、電磁誘導がキーワードになります。
フレミングの右手の法則を思い出してください。

 

フレミングの右手の法則
【図2 フレミングの右手の法則】

 

下の図では、一対の永久磁石からなるステータの中で、1ターンの閉じたコイルがロータとして回転する構造になっています。
ここで、ステータの磁石をほんの少し時計回りに回転させてみると(紫矢印)、相対的にはコイルが反時計回りに回ったことになりますので(赤矢印)、コイルの中に黒矢印方向の電流が発生します。ここまでが第1段階です。

 

回転磁界
【図3 回転磁界】

 

すると、この電流と磁界の間に働く電磁力によって、直流電動機の場合と同じようにコイルが時計方向に回ります(赤矢印)。これが、第2段階です。
つまり、ステータを回し続ければ、追従してロータも回り続けることになります。

ステータを物理的に回すことはできませんが、その代わりに磁界の方向を回転させてやればロータを回すことができます。これを「回転磁界」と呼び、そのために用いられるのが三相交流です。

では、三相交流からどのように回転磁界が作られるのかを次に見ていきます。

 

2.三相誘導電動機

三相交流とは?

三相交流」とは、周波数、大きさが同じで、位相が120度(2π/3)ずつずれている3つの交流のことで、各相の電流の時間変化を重ねて示せば、下のようになります。

 

三相交流
【図4 三相交流】

 

三相交流電動機の動作原理

下の図は、三相交流電動機のステータを模式的に示したもので、簡単のために1ターンのコイルが、120度(2π/3)置きに3つ巻かれているものとします。また、電流が図の矢印の方向に流れる時を正方向とします。
この様子をステータ断面方向から見た図では、右のように示すことができます。図中、×印は画面表側から裏側に向かって電流が入ること、・印は裏側から表側に電流が出てくることを示します。
この図の場合、青色の電流は、右ねじの法則に従って、図の矢印の方向の磁界を発生します。

 

三相交流電動機のステータを模式的に示したもの
【図5 三相交流電動機のステータを模式的に示したもの】

 

次に、上図のようなステータに、下のような三相交流が流れている時に、ステータにどのような磁界が発生するか時間を追って見てみましょう。

 

三相交流が流れている時間軸
【図6 三相交流が流れている時間軸】

 

時刻①では、各電流の向き、大きさに対応して下図のような磁界が発生し、合成磁界は黄色の矢印のようになります。

 

時刻①での合成磁界
【図7 時刻①での合成磁界】

 

時刻②~⑥についても同じように考えれば、合成磁界は、下のように時計回りに回転して行くことがわかります。

 

時刻②~⑥での合成磁界
【図8 時刻②~⑥での合成磁界】

 

このように、三相交流を使えば、ステータに回転磁界を発生させることができ、それに追従するようにロータが回ることがわかりました。

 

3.誘導電動機の特性(特徴)

「すべり」とは?

誘導電動機で注意しなければならないのは、ロータに電流が流れるためには、回転磁界とロータの回転の間に、相対的な速度差が必要だということです。ロータを横切る磁界が変化しなければロータに誘導電流は流れず、従って、電磁力は発生しないことになります。

実際には、ロータは回転磁界よりもほんの少し遅い速度で回転しており、この速度差を「すべり」と呼んでいます。動力用の誘導電動機では、定常負荷運転時に数%に相当するすべりが生じています。

このように誘導電動機は、電源の周期には完全には同期していないため、「非同期電動機」と呼ばれることがあります。

 

発明くん

 

誘導電動機の回転速度

誘導電動機の回転速度は、すべり(s)も考慮して、次の一般式で表されます。
 

誘導電動機の回転速度

 

極数」というのは、ステータにいくつ磁極があるかを表したもので、下図左の場合2極、右の場合4極です。ステータコイルの巻き方で変えることができます。

 

2極と4極の場合のステータ
【図9 2極と4極の場合のステータ】

 

上の式から、極数を変える、すべりを変える(すべりに影響を与える電源電圧等を変える)などの方法で、回転速度を変えられることはわかりますが、もし電源周波数を自在に変えられるのなら、それが一番制御性の良い方法です。それをかなえたのが、インバータの普及です。

インバータは、直流または交流から、周波数の異なる交流を発生させる電源回路(およびその回路を含む装置)のことで、電力用半導体の技術進歩によって実用が可能になりました。

 

単層交流を用いた回転磁界(コンデンサラン型電動機の例)

ここまで三相交流を使った誘導電動機について説明しましたが、単相交流を用いても、位相差のある電流を作ることにより、回転磁界を得ることができます。

下の図は、「コンデンサラン型電動機」と呼ばれる単相誘導電動機の原理図で、コンデンサによって位相を90度(π / 2 )ずらした電流を主巻線に対して90度角度をつけた補助巻線に流すことで回転磁界を作ります。
簡便さとコストの面から、家電製品や小型のベルトコンベアなどの工業用途に用いられています。

 

コンデンサラン型電動機の原理図
【図10 コンデンサラン型電動機の原理図】

 

次回は、電動機の劣化メカニズムと保守について説明します。

 

(アイアール技術者教育研究所 H・N)

 

【連載:三相誘導電動機の基礎(全3回)】

 

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