直流電動機(直流モータ)の原理・構造《三相誘導電動機の基礎①》

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電動機1

電動機」とはいわゆるモータのことです。
リニアモータのように、直線運動を生み出すものもモータと呼ばれますが、一般的には電磁力を使って回転力を生み出すものを指します。

最近では、ドローンや空飛ぶタクシー、電気自動車(EV)などに使われるモータに注目が行きがちですが、モータ自体は掃除機、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどの家電はもちろん、従来から工場などでポンプや送風機、金属工作機械、圧縮機などで大量に使われており、その中でも「三相誘導電動機」と呼ばれる電動機は、日本での電力消費量の半分以上を占めているとも言われています。

そこで、ドローンや空飛ぶタクシー、EV用に比べるとちょっと(かなり?)地味ですが、日本の産業を支えている三相誘導電動機について、3回に分けて説明したいと思います。

連載の終わりには、電動機の劣化メカニズムや保守点検についても説明しますが、今回はまず、電動機の基本的な構造、種類と動作原理について説明します。

 

1.【前提知識】電動機の基本的な構造と種類

下の図は、一般的なかご型三相誘導電動機の構造を示したものです。
ハウジングの内周に沿って、ステータが装着され、ロータを回転させる力を発生します。
ハウジングと一体になるブラケットには軸受が固定され、ロータと回転軸をステータの中心位置に支えます。
電動機の大きさ、駆動の原理等は様々ですが、この基本構造は共通です。

 

電動機の基本的な構造
【図1 電動機の基本的な構造】

 

端子箱は電動機と外部の電源ケーブルとの接続部で、箱状に覆うことでほこりや水滴等から保護しています。
図では、負荷側と反対側の軸に、電動機を冷却するためのファンを取り付けていますが、ロータにファンを取り付ける場合もあります。

 

電動機の種類(分類)

電動機は、ステータとロータの間に働く力によって、ロータを回転させるという原理は同じでも、どのようにして力を発生させるのか、ステータ、ロータの構造はどのようなものか、電源は何を使うのか、回転速度はどのようにして制御するのか、などによって様々な形式のものがあります。

ここでは、最も一般的な、電源による分類の一例を示すにとどめます。

 

電源によるモーターの分類(例)
【図2 電源によるモーターの分類(例)】

 

なお、ドローンによく使われるのはブラシレスDCモータで、上の分類では一番下の同期電動機に属します。
DC(直流)なのに交流電動機に分類されるのは、電源としてはバッテリー等の直流を使うものの、インバータによって交流を発生させ、その交流の周波数を変えることで回転数を制御しているからです。
分類法によっては直流電動機に入れる場合もあります。

 

2.直流電動機の原理と構造

直流電動機」(直流モータ)は、産業用にも多数用いられていましたが、後で説明するようにインバータの普及によって三相誘導電動機の応用範囲が広がったため、現在では大型の産業用の電動機は、三相誘導電動機に置き換わってきています。それでも乾電池1個で動かせる手軽さや、回転数が印可電圧(電流)で簡単に制御できるという利点から広く用いられ、世界の年間出荷台数が数十億台と、他の種類の電動機を圧倒しています。

電動機がどのように回転力を生み出しているのかを理解するためのわかりやすい例として、直流電動機のひとつである「永久磁石界磁型電動機」の原理を考えてみましょう。
キーワードは、磁界中にある導体に電流を流すと導体に力が働くという「電磁力」です。
フレミングの左手の法則を思い出してください。

 

フレミングの左手の法則
【図3 フレミングの左手の法則】

 

下の図4は、永久磁石界磁型電動機を模式的に示したもので、一対の永久磁石からなるステータの中で、1ターンのコイル(巻線)がロータとして回転する構造になっています。コイルの両端には「整流子」と呼ばれる導体の板が取り付けられており、コイルといっしょに回転します。ブラシは黒鉛などで作られており、整流子に押し付けられて摺動することにより、回転するコイルに電流を供給します。

図4の配置では、整流子AからBに向かって電流が流れ込みますので(黒矢印)、青矢印の磁界の中で、コイルには赤矢印の方向に力が働き、コイルは時計回りに回転します。回転が90度を過ぎると、右側のブラシに接触する整流子がBになりますので電流の向きがB→Aと変わり、回転を続けます。以降半回転ごとに電流の向きが変わって回転し続けます。
ステータを電磁石で構成する電磁石界磁型電動機も、動作原理は同じです。

 

永久磁石界磁型電動機を模式的に示したもの
【図4 永久磁石界磁型電動機の構造】

 

直流電動機は保守が不可欠

直流電動機ではブラシと整流子が常に接触摺動しますので、ブラシの黒鉛は徐々に摩耗し、最終的にはきちんと接触しなくなるため交換が必要になります。
また、整流子(主に銅製)もブラシによって研磨され、特に塵埃、湿度、油分などの外部環境の影響を受けると摩耗が促進されることがあり、摩耗の状態によっては火花が散るなどの不良を引き起こします。

このように直流電動機では、他の種類の電動機と共通する、軸受等の点検保守項目に加えて、ブラシと整流子の状態の点検保守が欠かせません。定期的に内部を清掃し、整流子の傷を滑らかにして、正常な接触状態を保つようにする必要があります。
この直流電動機に特有の、ブラシと整流子の保守が必要だということが、直流電動機が三相誘導電動機に置き換わっていっている理由の一つです。
 

次回は、誘導電動機の基本原理について説明します。

 

(アイアール技術者教育研究所 H・N)

 

【連載:三相誘導電動機の基礎(全3回)】

 

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