【機械製図道場・中級編】寸法公差とは?用語等の前提知識と表示方法の基本を押さえる
今回は、「寸法公差」に関する解説と例題演習を行います。
目次
1.公差とは?
例えば、図面に100という寸法表示があるとします。
加工者は、旋盤などの工作機械を用いて、該当箇所を100mmに仕上げようとしますが、100mmピッタリに仕上げるのは困難で、加工者の技量、工作機械の精度、気温湿度などの様々な要因により誤差が生じます。
そこで、設計者は、指示寸法100に対して、どのくらいの製作誤差であれば、その部品に要求される品質・機能を確保するうえで問題ないのかを考慮して、製作許容範囲を指定します。これを「公差」と呼びます。
2.公差に用いる用語
図面に記入する寸法数字(例100)は、加工する目標基準となる値であるので、「基準寸法」といいます。
基準寸法に対して、その部品の品質・機能を満足するために許容できる最大寸法と最小寸法を設定します。
これをそれぞれ、「最大許容寸法」、「最小許容寸法」といいます。
最大許容寸法と最小許容寸法の差を「寸法公差」といいます
最大許容寸法と基準寸法の差を「上の寸法許容差」、最小許容寸法と基準寸法の差を「下の寸法許容差」といいます。
3.公差の表示方法
基準寸法の右に、上の寸法許容差に記号”+”、下の寸法許容差に記号”‐”をつけ、桁数を合わせて上下に表示します。上下寸法許容差の数値が等しい場合は記号”±”数値とします。
上の寸法許容差、もしくは下の寸法許容差、のいずれかをゼロとする場合は、記号をつけず小数点以下の桁数もつけず、単に”0″と表示します。
4.普通寸法公差とJIS規格
寸法公差は、機能上・品質上、特に高い精度を要求される寸法に表示します。
では、公差表示がない寸法は、誤差がいくら大きくても良いのでしょうか?
この点に関しては、JIS B 0405に普通公差として規格化されています。
公差を表示していない寸法数字には、普通公差が適用されます。
普通公差には、精級、中級、粗級、極粗級の4つがありますが、多くは中級を適用します。
中級を適用する場合、図枠内に「JISB0405-m」と表示します。
公差指示が必要な寸法の選択と、公差記入について、例題演習してみましょう。
【例題】図に寸法公差を正しく記入する
《 問題 》
図の品物の各部寸法と公差を、正しい表示方法で製図してください。
《 解答 》
《 例題の解説 》
押さえておきたい「寸法公差」のポイント
(1)公差とコストはトレードオフ
設計者は、機械あるいは機械部品の、機能や信頼性をなるべく高くしようと考えて公差設定を厳しくする傾向があります。
しかし、公差を厳しくすれば、その公差を実現するために、加工に要する時間が増え、場合によっては加工方法も変更する必要が出てきます。
その手間ひまは製造コスト増加につながります。
つまり公差とコストは、トレードオフの関係にあるといえます。
普通公差より厳しい公差を設定する際には、何故その公差が必要なのか、1段甘い公差ではいけないのか、よく考えることが重要です。
(2)公差の矛盾に注意!
本連載の「知っておきたい寸法表示ルールと注意点の解説」の回でも述べていますが、公差に関連する注意事項であるので再度解説します。
下図左のような例で40と120の公差は、いずれも±0.1です。
ところが、40の上寸法許容差を3つ足すと 0.1+0.1+0.1=0.3 となり、120の公差0.1を上回ることになるという矛盾が生じます。
そこで、右下のように不要な寸法を記入しないようにします。
40のうち左側2か所と全長の公差を押さえればよいことがわかります。
また、右上のように基準形体を決めてそこからの寸法記入を行うようにすれば、公差矛盾が生じることはありません。
ということで、今回は寸法公差の基本を学びました。
数多くの図面を書いて、適確な寸法記入と公差設定のコツを体得してください。
次回は、「はめ合い公差」についての解説・例題演習となります。
(アイアール技術者教育研究所 S・Y)