3分でわかる技術の超キホン 機械装置のための電子回路④(センサ素子検出信号を電圧信号に変換)

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Electronic circuit for mechanical devices
この連載では、機械装置の開発設計に携わっている機械系技術者、ファームウエア技術者の方々向けに、電子回路設計を理解するための導入的なお話をしています。

ここまでのお話を要約すると、以下の通りです。

  • 全体の構成や仕様、機能ブロック毎の機能仕様、機能ブロック間のインタフェース仕様について、機能ブロック図で把握・確認する(回路の知識がなくともこうした内容であれば、理解できるはず)
  • 機械装置を構成する代表的な機能ブロックである、センサブロック、モータ駆動回路ブロック、LED駆動回路ブロックについての一般的な回路構成について

詳細を理解することがすぐにできるはずはないのですが、各機能ブロックの機能・インタフェースが把握でき、基本的にどういう機能要素で構成されているかを理解して頂けると、具体的な回路構成と対比することで、各機能要素がどのような回路で構成されているか、なんとなくおわかり頂けると思います。

回路の基礎からの勉強は、必要ですが、とっつきにくいと思います。
応用面との接点がわからないと、なかなかモチベーションが上がりません。
ある応用面に着目して、それに対応する回路の基礎的な勉強をする、そのようなアプローチもあるだろうと考えました。それが「導入」と位置付けた、本コラムの主旨です。

さて本論に入ります。前回は、機械装置から出力を行う回路ブロックとして、モータ駆動回路ブロックとLED駆動回路ブロックについてお話しました。
今回は、連載第2回に一般的な構成をお話したセンサブロックの、センサ素子からの信号を入力する部分の回路構成についてです。

各種センサ素子の出力信号形態

第2回でお話した、センサブロックの一般的な構成を図1に再掲しますが、センサ素子の検出信号は様々な信号形態をとり、それを検出回路がマイコンに入力可能な信号に変換するのでした。
一般的なセンサーブロックの構成
その変換ステップは、

  1. 電圧信号に変換
  2. 必要に応じて、信号のレベルを増幅
  3. ディジタル信号に変換(この機能は、マイコンが内蔵していることもある)

というものです。

というわけで、「1.電圧信号に変換」以降は共通の処理となりますので、ここでは代表的な各種の信号形態について、電圧信号への変換方法を主体にお話をし、最後にステップ2.の増幅について、簡単にご紹介します。
電圧信号への変換方法は回路の基本的な知識と直結するものが多く、その意味で知っておいて損はないと思います。

 

検出信号が抵抗変化の場合

温度を検出する「サーミスタ」というセンサ素子がこの信号形態の代表的な素子で、家電製品や自動車など非常に広範に使われています。
通常、温度が上がると抵抗値が下がる、負の抵抗温度係数を持っています。
 
サーミスタ信号電圧変換回路例
 
この抵抗変化をまず電圧に変換する最も簡単な回路は図2のようなもので、検出電圧Voutは次の式であらわされます。
vout
(Rth:サーミスタの抵抗値、 R:抵抗器の抵抗値、 Vcc:電源電圧)

なるべく数式は避けて、と申していたところいきなり数式が出てきてすみません。
このような検出電圧になることは、回路の最も基礎的な理論で導き出されるものなので、敢えて数式で表してみた次第です。
この検出電圧では十分な信号レベルにはならないため、これを増幅し、その後ディジタル信号に変換することになります。

 

検出信号が電流変化の場合

光を検出する「フォトトランジスタ」という素子が、この信号形態の代表的な素子です。
LEDと組合せて、何か物体が存在する/しないを検出する用途などに広く使われているものです。
工作機械で、加工部分に人の手や、妨害物が入っていないか、などの検知用が代表的な応用例ですね。
受光すると光の強さに応じた光電流が流れ、それを図3の例のような回路で電圧に変換します。
 
フォトトランジスタ信号電圧変換回路例
検出電圧Voutは、次の式で表されますが、
Detection voltage Vout
(Ip:光電流、 R:抵抗器の抵抗値)

これは、回路に関わる理論の基本中の基本である、オームの法則そのものです。

 

検出信号が静電容量変化の場合

実は、極めて身近なところで使われているのですが、静電容量変化を電圧に変換することは簡単ではなく、実用されている静電容量型センサは検出回路もセットでメーカーから供給されているので、ここでは検出方法と回路の基礎的理論(コンデンサという素子の基本特性)の関係につていてお話するに留めます。

静電容量について、連載コラム第2回目で「電子を一時蓄積する能力」という説明をしました。
電気的に絶縁された2つの導体の間に電圧を印加すると、そこにある量の電子が蓄積されます。
蓄積された電子の量を「電荷量」といいQ(クーロン)という単位で表し、蓄積する能力を「静電容量(キャパシタンス)」といいF(ファラッド)という単位で表します。
そして、電子を一時的に蓄積する素子を「コンデンサ」と呼びます。

わかりやすい構造は図4のように2枚の金属板を平行に置いたものですが、この構造において静電容量は、金属板の面積に比例し、金属板間の距離に反比例します。
 
平行平板型コンデンサ
 
静電容量のこうした特性を利用し、

  • タッチセンサー(人の手が近づくと静電容量が変わる、スマホでお馴染みです)
  • 音センサー(マイクロフォン、空気の振動で金属板間の距離が変わり静電容量が変わる)

などに使われています。

静電容量変化の検出に用いられるのは、主に次の2つです。

①蓄積した電荷量Q、静電容量C、電圧の間に[ Q=CV ]の関係があり、静電容量が変わると電圧が変わることを検出する。
②コンデンサはコイル(導線を多数回巻いた素子)と組み合わせて発信回路を形成する。

静電容量が変わると発進周波数が変わることを検出します。
発信回路は電流の向きが周期的に変わる電流を作り出し、1秒毎の電流の向きが変わる回数を「周波数」といいます。

コイルとコンデンサによる発信回路の例を、図5に紹介します。
発信回路には非常に多様な形態がありますが、コイルとコンデンサが図5のように並列に接続された回路は、発信回路の可能性が高いです。
 
コイルとコンデンサによる発信回路例
 
静電容量という概念はわかりにくいものですし、その変化を検出するのには高度な回路技術が必要ですが、スマホのタッチパネルという極めて身近なところに応用されているものですので、そうした観点で興味を持って頂くと良いと思います。

 

検出信号が電圧変化の場合

実はこのタイプのセンサが最も多く、センサ素子の出力信号そのままをマイコンに入力できる場合も少なくありません。信号レベルが小さい場合は、ステップ2.の増幅を行います。
静電容量型のセンサ以外は、センサの検出信号を上記のような方法で電圧信号に変換したのち、多くの場合、増幅し必要な信号レベルを得ますから、多くのセンサ素子に共通して必要な処理ということになります。

ではここで、増幅回路の例をご紹介して、今回のコラムを終了することにします。
増幅回路の具体的構成は、扱う信号の特性により様々ですが、多くの場合図6に例をご紹介する、「オペアンプ」と呼ばれるICが使われます。
 
オペアンプを用いた電圧信号増幅回路

図6の例は、入力電圧が Rf/Ri倍に増幅される反転増幅回路(入力電圧と出力電圧の極性が反転)で、オペアンプを使った増幅回路としては、最も基本的なのものの一つです。
この回路がそのままの形で使われることはほとんどないでしょうが、回路図にこのような形が出てきたら、信号を増幅していると思って、間違いはないでしょう。

オペアンプは回路分野では例外的(?)に勉強して非常に面白いものです。
広範に使われるものですから、是非取り組んでみてください。

 
 

電子回路についての基礎的な勉強のアプローチ

今回は、各種の出力形態のセンサ素子検出信号を、電圧信号に変換する方法について、回路の基礎的な理論との関係を交えてお話しました。
回路の最も基本的な理論が普通に使われていることがおわかり頂け、回路の基礎の勉強に対するハードルが少しでも下がったようであれば幸いです。

繰り返しになりますが、回路の詳細はわからなくとも、機能ブロック図からたどっていくことで、回路のどの部分でどのような機能を実現しているか、なんとなくわかるようになります。
回路の基礎的な勉強を進めて頂きながら、実際に使われている回路を見て、その動作や設計を理解するために必要な回路の知識を求める、というアプローチも是非試してみてください。

(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・M)

 


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