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LTspiceで学ぶシグナル・パワーインテグリティ設計・解析の基礎(セミナー)
2024/12/12(木)10:00~17:00
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EMC対策に関する連載コラム第3回「ローパスフィルタでのノイズ対策と周波数特性」では、ノイズの導体伝導に対応するためのフィルタについて説明しました。
今回は、ローパスフィルタのうち、LCフィルタの基礎知識とフィルタ用の回路素子について解説します。
連載第3回の説明では、L(コイル)やC(コンデンサ)は理想的な素子として扱いましたが、実際のコイルには寄生容量と寄生抵抗があり、コンデンサにも寄生インダクタンスと寄生抵抗があって、特に周波数が高い時にはこれらの影響を無視できません。
具体的には図1、図2に赤色で示したように、コイルでは、コイルの端子間、巻線間等に寄生容量が存在し、コンデンサでは、電極のリード線等に寄生インダクタンスが存在します。各図の枠内の右側は、寄生抵抗も含めて一般化した等価回路です。
【図1 コイルの寄生容量、寄生抵抗】
【図2 コンデンサの寄生インダクタンス、寄生抵抗】
ですから、ローパスフィルタ(周波数が低い信号を選択的に通す)回路を寄生容量、寄生インダクタンスも含めて描くと図3のようになり、周波数が高い時には、ハイパスフィルタになる(周波数が高い信号を選択的に通す)ことがわかります。
【図3 寄生容量、寄生インダクタンスを考慮した際のLCローパスフィルタの挙動】
実際に、図4のようなコイルのインピーダンスが周波数と共にどのように変わるのかを見てみましょう。
赤で示した寄生容量と寄生抵抗があるものとします。
【図4 寄生容量、寄生抵抗を考慮したコイル】
図5は、このコイルの自己共振周波数(=1/2π√LC) を1とした時の周波数の対数を横軸に、インピーダンスの相対値の対数を縦軸に取ったものです。
【図5 寄生容量、寄生抵抗を考慮したコイルのインピーダンスの周波数特性】
LCRの並列回路ですから、周波数が低い間は、周波数に比例したインピーダンスを示すコイルとして働きますが、自己共振周波数よりも高い周波数では、インピーダンスが周波数分の1に比例するコンデンサとして振舞います。自己共振周波数でのインピーダンスは、寄生抵抗で決まります。
寄生インダクタンスを考慮した、図6のようなコンデンサのインピーダンスは、周波数が低い間は、周波数分の1に比例したインピーダンスを示すコンデンサとして働きますが、自己共振周波数よりも高い周波数では、インピーダンスが周波数分に比例するインダクタンスとして振舞い、図5を上下ひっくり返したような形の周波数特性になります。
【図6 寄生インダクタンス、寄生抵抗を考慮したコンデンサ】
寄生容量、寄生インダクタンスを考慮して、ローパスフィルタの周波数特性をシミュレーションすると、図7のような結果が得られます。緑線のように、高い周波数では減衰量が著しく減るため、通したい信号の周波数、カットしたいノイズの周波数を知ったうえで、回路定数を決める必要があります。
【図7 LCローパスフィルタの実際の周波数特性】
EMC対策用に開発されている回路素子では、上で説明したような問題を緩和するため、様々な工夫がなされています。
図8は、プリント基板等に表面実装するためのチップ型コンデンサです。電源ラインあるいは信号ラインの途中に挿入され、グランドとの間に容量を形成します。
【図8 チップ型コンデンサ】
【図9 チップ型コンデンサの等価回路】
等価回路は図9の通りで、内部に積層されているコンデンサとグランドを繋ぐリード線部分を太く、短くするために構造が工夫され、さらに③と④の二本でグランドと繋ぐことで、寄生インダクタンスを減らしています。
図10は、「貫通コンデンサ」と呼ばれる素子です。シールド板(グランド)などを貫通しているリード線と、グランドの間に誘電体を挟んだ構造をしており、この部分がコンデンサになっています。ビス状の金属がグランド側のリード線の役割をしていますので、寄生インダクタンスを非常に小さくできます。
【図10 貫通コンデンサ】
図11は、「フェライトビーズ」と呼ばれる素子です。
穴の開いたフェライト磁性体にリード線を通したものが基本構造で、インダクタンスの一種ですが、数回巻き付けたものや、表面実装用のチップタイプのものもあります。
[※関連記事:3分でわかる フェライトビーズとは?ノイズ対策の原理と使い方・選び方 ]
【図11 フェライトビーズ】
リード線に高周波電流が流れると、右ねじの法則に従ってフェライト中に交番磁場が発生し、それに追随してフェライト中の磁区が向きを変える時に、損失(ヒステリシスロス)が発生します。同時にフェライト中に渦電流も発生し、この電流によっても渦電流ロスが発生します。
つまり、フェライトビーズに交流を流した時にエネルギーが消費されることになります。
このようにフェライトビーズは、ノイズ対策の基本4要素のうち、吸収に対応しています。
フェライトビーズの周波数特性は、図12のような等価回路でかなりよく表すことができます。
Lはインダクタンス成分、Cは寄生容量、Rはフェライトでの損失に対応した抵抗分です。
【図12 フェライトビーズの等価回路】
図13は、図12の等価回路に適当な定数を入れてシミュレーションした結果です。横軸にはインダクタンスと寄生容量できまる自己共振周波数を「1」とした時の周波数の対数、縦軸にはインピーダンスをリニアスケールで示しています。
周波数が低い範囲では、インピーダンスはLで決まっていますが(誘導性領域)、自己共振周波数に近づいてくるとインピーダンスの虚数部分(リアクタンス)より実数部分(抵抗)の方が支配的になります(抵抗性領域)。この境界を「クロスポイント」と言います。フェライトビーズは、誘導性の領域では高周波を反射していますが、抵抗性領域では高周波を吸収しているのです。
さらに高い周波数では、寄生容量によって、インピーダンスは低下しますので(容量性領域)、対処したいノイズの周波数が抵抗性領域に入るようなフェライトビーズを選択します。
【図13 フェライトビーズの周波数特性】
ということで今回は、LCフィルタの注意点と、フィルタ用の回路素子についてご説明しました。
次回は、空間伝導への対応(電磁波シールド・電波吸収シートによるノイズ対策)を解説します。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)