- 《大好評》LTspice設計実務シリーズ
LTspiceで学ぶシグナル・パワーインテグリティ設計・解析の基礎(セミナー)
2024/12/12(木)10:00~17:00
お問い合わせ
03-6206-4966
EMC対策の連載コラム第3回、第4回では、電磁ノイズが伝わってくる経路のうち、導体伝導にどのように対応するのかを説明しました。
今回と次回は、空間伝導への対応について説明します。
目次
「電磁波シールド」とは、電磁波が特定の空間や装置に浸入することを防ぐための技術を言います。
図1のように、金属等の良導体表面に電磁波が当たると、多くのエネルギーが反射し、一部が導体に入り込んで急激に減衰しながら裏面に到達すると突き抜けます(透過)。
また、導体の面積が十分でないと、あるいは電磁波の浸入を防ぐべき空間等を導体が囲い切っていないと、一部の電磁波が回り込みます。
【図1 導体による電磁波のシールド】
そこで、高いシールド効果を得るためには、対象となる電子機器を箱状の金属等で囲む構造を取ります。
このような箱を、「シールドケース」「シールドボックス」と呼びます。一般的に、シールド材の導電率が高いほど反射率は高くなるので、アルミニウムや銅系の材料が良く用いられます。
図2のグラフは、0.1mmの厚さの銅板に、周波数の異なる電磁波を入射した時のシールド効果を示したもので、トータルのシールド効果は、反射による減衰と金属内での減衰をデシベル表示で足し合わせたものになります。
【図2 シールド効果の周波数依存性】
100dBは電磁波の電界強度が105分の1になることを表しており、一般の電子機器のノイズ対策としては十分に大きな効果です。
導体に入り込んだ電磁波が減衰するのは、導体中に発生する渦電流が導体の抵抗によって熱に変わり、損失になるからです。従って、導体が繋がっていない部分があると電流が妨げられシールド効果が薄れます。
例えば金属板を加工してシールドケースを作る場合、板の継ぎ目が電気的にもつながるように、導電性スポンジを挟むなどの対策をします(図3)。
【図3 シールド効果が損なわれないようにする対策】
また、放熱のためにシールドケースには通気口を設けますが、どのような穴をあけるかによってシールド効果が違ってきます。開口面積は穴半径の二乗に比例する一方、穴の径が小さいほどシールド効果が大きい(穴半径の3乗に反比例)ため、同一開口面積の場合、小さい半径の孔を多数並べる方がシールド効果は高くなります。
例えば図4の場合、穴の半径は、aはbの2分の1で、穴の数は、aはbの4倍です。
従って開口面積は同じですが、シールド板の一部にこのような穴をあけた場合のシールド効果は、aはbの2倍になります。
【図4 シールドケースの開口】
シールドケースを貫いて導線等がケース内に入っているような場合に、この線に乗って来るノイズを、フィルタでどの位置で止めるのかにも、注意を払う必要があります。
図5のような場合、電磁波のノイズが機器に直接影響を与えることはシールドによって防げますが、導線に乗って入って来ることはシールドでは防げません。導線から直接機器にノイズが影響を与えることはフィルタによって防げますが、シールド内の導線がアンテナになって、ノイズの電磁波が機器に影響を与えることは防ぐことができません。
【図5 シールドケースを貫通する導線がある場合のノイズの伝導】
そこで、図6のように、フィルタの位置をシールド位置と揃えることで、電磁波のノイズも、導線経由のノイズも抑制することができます。当連載コラムの第3回「ローパスフィルタでのノイズ対策と周波数特性|カットオフ周波数とは?コモンモードノイズって何?」で説明した、貫通コンデンサ(図6の差し込み図)は、このような場合に有用です。
【図6 シールドケースを貫通する導線がある場合の適切なフィルタ位置】
電磁波シールドは、主に反射によってノイズの空間伝導を妨げるものですが、「電波吸収シート」はノイズを吸収することで空間伝導を防ぎます。
電子機器で広く用いられている電波吸収シートには、磁気損失タイプと反射タイプの2種類があります。
磁気損失タイプは、樹脂やゴムにフェライトや磁性金属粉末を練りこんだもので、絶縁性が高いため電子機器内の様々な場所に貼りつけることができます。
図7は、半導体ICに直接貼り透けた例(左)、プリント基板上の配線に貼りつけた例(右)です。
【図7 電波吸収シート(磁気損失タイプ)】
シートに入射した電磁波は、磁性体中に磁場を発生させ、ヒステリシス損失等によって、熱としてエネルギーを奪われますので、シートが厚いほど減衰量は増加します。
反射タイプは、樹脂やゴムにカルボニル鉄粉末等を練りこんだもので、図8のようにシールドケース等の内壁に貼りつけて使用します。
【図8 電波吸収シート(反射タイプ)】
入射した電磁波は、吸収体の表面と裏面の二箇所で反射し、吸収体中での波長(λg)が、吸収体の厚さ(t)の4倍の時、これらの反射波が逆位相になって、合成波の強度は弱まります。
図9は電波吸収シートの反射減衰特性の例です。
このように特定の周波数だけで大きな減衰量を示すので、異なる周波数に対応する製品がラインアップされています。
【図9 電波吸収シート(反射タイプ)の反射減衰特性の周波数依存性】
反射タイプの電波吸収シートを使えば、図10のように、シールドケース内で線路Aから放出された電磁波が線路Bへ与える影響を低減することができます。
【図10 電波吸収シート(反射タイプ)の使用例】
以上、今回は空間伝導のノイズ対策として、電磁波シールドと電波吸収シートについて解説しました。
次回も空間伝導への対応として、アンテナ・ケーブルに関するノイズ対策の基礎知識を説明します。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)