【パワー半導体の基礎】ダイオードの整流作用と電気特性

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家庭用電化製品、電気自動車、電車などの機器には、AC/DCコンバータ、DC/DCコンバータ、DC/ACインバータ(AC:交流、DC:直流)などの電気回路が組み込まれており、これらの回路は「ダイオード」や「パワーMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)」などのパワー半導体で構成されています。
ダイオード」は、バイポーラー・トランジスタやパワーMOSFETの基本構成要素でもあります。

この記事では、ダイオードの特徴その「整流作用」を活用した回路の例を紹介するとともに、ダイオード単体の電気特性を解説します。

1.ダイオードの構造

ダイオードには、二種類の異なる構造があります。

一つは、p型半導体とn型半導体の接合によるpn接合ダイオード
もう一つは、アルミ(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの金属とn型(またはp型)半導体の接合によるショットキー接合ダイオードです。

後者は、このダイオードの「整流作用」を説明するショットキー・バリア理論を構築したドイツ人物理学者Walter Schottkyの名前を冠しており、「ショットキー・バリア・ダイオード」(SBD:Schottky barrier diode)とも呼ばれています。

図1に、これらのダイオードの構造(模式図)を示します。

 

pn接合ダイオードとショットキー接合ダイオードの構造
【図1 pn接合ダイオードとショットキー接合ダイオードの構造】

 

2.ダイオードの整流作用

ダイオードの「整流作用」は、ダイオードに印加する電圧の正負の向きが変わると電流が流れたり流れなくなったりするという「魔法のような現象」です。

図1に示した模式図の場合、上部電極の電位が下部電極の電位よりも高いとダイオードに電流が流れますが、逆に、上部電極の電位が下部電極の電位よりも低いとダイオードには電流が流れません。これがダイオードの「整流作用」です。

pn接合ダイオードとSBD(ショットキー・バリア・ダイオード)の整流作用は、それぞれの「接合界面」に発生する「電位障壁」の大きさに依存*1)しています。
pn接合ダイオードの電位障壁の大きさはp型とn型半導体の不純物濃度に依存し、SBDの電位障壁の大きさは金属の種類とn型(またはp型)半導体の不純物濃度に依存しており、両ダイオードの電流・電圧特性などの基本性能には色々な違いが存在します。

 
*1)電位障壁のエネルギー・バンド図を使った解釈は、別の記事で紹介予定です。

 

3.最も簡単なAC/DCコンバータ(半波整流回路)

図2に、最も簡単なAC/DCコンバータ(半波整流回路)を示します。
これは、一つの抵抗に一つの「pn接合ダイオード」を直列接続しただけの簡単な回路ですが、この簡単な回路によって「交流を直流に変換」することができるのです。この機能を可能にしているのが、「ダイオードの整流作用」です。

AC/DCコンバータ(半波整流回路)
【図2 AC/DCコンバータ(半波整流回路)】

 

このAC/DCコンバータ回路では、入力の交流電圧Vin(V)に対して、ダイオードは次のような働きをします。

  • Vin(t)>0:ダイオードが電流を通すので、抵抗Rに電流が流れる。
  • Vin(t)≦0:ダイオードが電流を通さないので、抵抗Rに電流が流れない。

Vin(t)>0 のとき、(ダイオードによる電圧降下を無視すれば)出力電圧 Vout(t) は Vin(t) と等しくなります。
一方、Vin(t)≦0 のときは、ダイオードが電流を遮断するので Vout(t)=0 となります。
その結果、交流電圧から(負電圧部分をカットして)「正電圧だけを取り出す」ことができるのです。

 

4.少し複雑なAC/DCコンバータ(全波整流回路)

図2に示したAC/DCコンバータは、Vin(t)≦0 のときは負荷抵抗に電流が流れないため、「半波整流回路」と呼ばれています。

これに対して、(四個のダイオードを用いて)Vin(t)≦0 のときにも負荷抵抗に同じ向きの電流が流れるように工夫した「全波整流回路」と呼ばれるコンバータがあります。

図3に、全波整流回路の動作を示します。
回路図の赤い太線と青い太線は電流経路を示し、矢印は電流が流れる向きを示しています。

全波整流回路の動作
【図3 全波整流回路の動作】

 

ダイオードの回路記号である三角形の「底辺側の電位」が「頂点側の電位」よりも高い時はダイオードに電流が流れ、「底辺側の電位」が「頂点側の電位」よりも低い時はダイオードが電流を遮断します。
図3に示したAC/DCコンバータも、この「ダイオードの整流作用」に従って動作しています。

 

5.出力の平滑化

Vout(t) が、図3に示したような大きな時間変化をしていては機器が安定動作しないため、通常は図4に示すように、回路にコンデンサーを追加することによって出力電圧の時間的変化を平滑化します。「ダイオードの整流作用」をこのように活用することによって、交流が直流に変換されます。

コンデンサーによる出力電圧の平滑化
【図4 コンデンサーによる出力電圧の平滑化】

 

6.ダイオードの電流・電圧特性

図5に、pn接合ダイオードとSBDの電流・電圧特性を示します。
この図は、順方向電圧の領域はリニア・プロット、逆方向電圧の領域は片logプロットという変則的な模式図になっています。

両ダイオードには、立ち上がり電圧Vf、リーク電流、耐圧、オン抵抗などに違いがあります。

pn接合ダイオードとSBDの電流・電圧特性の例
【図5 pn接合ダイオードとSBDの電流・電圧特性の例】

 

(1)立ち上がり電圧

pn接合ダイオードの順方向電圧(forward bias)印加時における電流の立ち上がり電圧Vfの値はpn接合の電位障壁*1)の大きさに依存しており、概ね0.6~0.8Vです。

一方、SBDの電位障壁はpn接合障壁よりも低いため、Vfの値は概ね0.3~0.4Vであり、これがSBDの重要な特徴になっています。

 

(2)リーク電流

SBDの金属・半導体接合界面の状態を原子レベルで精密に制御することは難しいため、接合界面の界面準位や界面近傍の半導体の結晶性の乱れなどの影響によって、逆方向電圧印加時のSBDのリーク電流は、pn接合ダイオードよりも高くなります
また、高温動作時にはリーク電流が大きくなるため、リーク電流による発熱や、それによるリーク電流の更なる増加、そして最悪の場合に起こり得る熱暴走には注意が必要です。

 

(3)耐圧

逆方向電圧印加時におけるダイオードの耐圧は、図1に示した低濃度n-型領域に形成される空乏層の幅に依存し、空乏層の幅はこのn-型領域の不純物濃度に依存します*2)

必要な耐圧を確保するためにn-型領域の不純物濃度を低くすると、この部分の寄生抵抗が急増してしまいます。逆に、寄生抵抗を低減するためにn-型領域の不純物濃度を高くすると空乏層の幅が減少するため、空乏層内の電界強度が急増して耐圧が低下してしまいます。

 
*2)詳細は当連載「パワーMOSFETの空乏層の性質」のページをご参照ください。

 

(4)オン抵抗

pn接合ダイオードのオン状態では、p型Siからのホールの流れとn型Siからの電子の流れが電流に寄与するためオン抵抗を低減できますが、n型Siを用いたSBDの電流は電子流のみであるため、n-型Siの不純物濃度などが同じ場合、SBDのオン抵抗はpn接合ダイオードよりも大きくなります

ところが、両者のオン抵抗における優劣は、「スイッチング特性」においては逆転します。
その原因は、上記の導通メカニズムの違いにあります。

 

7.ダイオードのスイッチング損失

図6に、pn接合ダイオードとSBDのスイッチング特性を示します。

pn接合ダイオードとSBDのスイッチング特性
【図6 pn接合ダイオードとSBDのスイッチング特性】

順バイアスされて導通状態にあるpn接合ダイオードの内部には大量の電子とホールが蓄積されているため、逆方向バイアス状態になっても再結合電流が消滅するまでに時間(逆回復時間)を要し、これがスイッチング損失になります。

一方、SBDはユニポーラー・デバイス(n型基板の場合は電子流のみ)であるため、スイッチング時には接合容量を放電する程度の小さな電流が流れるだけであり、スイッチング損失はpn接合ダイオードよりも遥かに小さくなります

SBDのリーク電流や耐圧はpn接合ダイオードよりも劣るのですが、「SBDはVfが低く、かつスイッチング損失がpn接合ダイオードよりも遥かに小さい」ため、「導通損失とスイッチング損失の低減」が最重要課題である電力変換装置では、SBDの欠点をカバーしながら「利点を活かす」ための研究開発と製品開発が続けられています。

 

8.ファスト・リカバリー・ダイオード

pn接合ダイオードの逆回復時間を短縮するために「キャリアー・トラップ」を導入した、「ファスト・リカバリー・ダイオード」と呼ばれるpn接合ダイオードがあります。

このダイオードでは、微量重金属の導入や電子線照射などの方法を用いて、低濃度n型領域にキャリアー・トラップ(不純物や結晶欠陥による不純物準位)を意図的に作り込み、スイッチング時にp+領域に戻ろうとするホールを捕まえて、ホールのライフタイムを低減しています。

その結果、逆方向回復時間は著しく短縮されますが、トラップの導入によってVfや寄生抵抗が高くなってしまうという副作用があります。
しかしながら、SBDが使えないような高耐圧回路にはこのダイオードが用いられています。

 

9.ワイドバンドギャップ半導体を用いたSBD

一方、SBDの優れた周波数特性を活かし、常温や高温でのリーク電流を低減し、耐圧を飛躍的に向上させるために、シリコン(Si)よりもバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体(SiCやGaNなど)*3)の研究が活発化し、これらの半導体を用いたSBDの製品が開発され、色々な機器に搭載され始めています。

 
*3)詳細は当連載「ワイドバンドギャップ半導体の特徴/メリット/課題」のページをご参照ください。

 
SiCの絶縁破壊電界強度はSiの約10倍も高いため、SiC製SBDでは、Si製SBDでは実現不可能だった1200Vという高耐圧性能が実証されています。
更に、SiC製SBDではn型半導体領域の厚さを薄くでき、不純物濃度を高くできるためオン抵抗を著しく低減できます。加えて、SiCの熱伝導率はSiよりもが高いため、冷却方法も簡素化できます。
これらの実証データに基づいて、高耐圧用のSi製ファスト・リカバリー・ダイオードは、SiC製SBDと置き換えられ始めています。

特に電気自動車や電車などでは、SiC製のSBD(とパワーMOSFET)の利点が認知され、更に、近年6インチや8インチの大口径SiC基板の量産が開始された結果、需要が急増し始めており、SiC基板の結晶品質やデバイス特性の向上を目指した研究開発が続けられています。

また、GaN、Ga2O3、C(ダイヤモンド)を用いたデバイス研究でも、色々な構造のSBDの試作評価が行われています。近年、これらの材料においても、長年困難と考えられていた大口径基板作製方法に関する革新的技術が生まれており、それぞれの材料研究とデバイス研究が急速に進展し始めています。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 A・Y)

 

 

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