電気・電子

量子ドットとは何か?量子サイズ効果や量子トンネル効果の仕組みや特徴などを解説

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量子ドット

量子ドット」とは、いったい何でしょうか?
ニュースなどで「量子ドット」という言葉を耳にする機会は増えてきたかもしれませんが、実はよくわかっていないという方も多いかもしれません。

今回は、半導体産業の発展に不可欠な「量子ドット」の基礎知識を解説します。

1.量子ドットとは?

量子ドット」(QD, quantum dot)はとても小さいサイズの特殊な半導体であり、直径が数nmから数十nmの粒状構造をとっています。主にII-VI族、III-V族、IV-VI族の元素グループによって構成されます。例えば、Ge、Cd、Zn、Sn、Tiなどの単体または化合物があげられます。

量子ドットに光・電気などの刺激を与えると、光電特性が大きく変わるため、その特性から重要な半導体材料として活用されています。

 

量子ドットの歴史

1981年にロシアの物理学者Alexei l. Ekimovらが、ガラスマトリックス中で半導体である塩化銅の微結晶を成長させ、結晶粒子の大きさによってガラスの色が変化することを発見しました。1983年には、Louis E. Brusがコロイド溶液中におけるCdS粒子のサイズ変化によって、色が変化することも確認しました。その後、色の変化は量子閉じ込め効果によるものと認められ、「量子ドット」と呼ばれるようになりました。

1990年代にはアメリカのMoungi G. Bawendi博士が、サイズが揃った量子ドットを作る方法を確立したため、一躍世界に注目されました。2023年には、3名がノーベル化学賞を受賞しています。

 

2.前提知識:半導体の導電の仕組み

量子ドットは半導体粒子です。まずバルク状態の半導体導電の仕組みを見てみましょう。

 

(1)バンドとバンドギャップ

原子核のまわりの電子は特定の準位で運動していますが、そのエネルギー準位の幅が広がって連続的になります。このエネルギー準位を纏めたグループを「バンド」と呼びます。
バンドとバンドの間の間隔(電子が存在できない空間)を「バンドギャップ」といいます。

 

(2)価電子帯、伝導帯と禁制帯

電子はエネルギー準位の低い順から一つずつ埋まって、価電子帯となります。
電子が存在できない禁制帯を挟んで、電子が動ける(導電できる)伝導帯があります。

価電子にバンドギャップを超えるエネルギーを与えて、価電子帯から伝導帯へ励起することで、伝導電子を得られます(図1)。

 

半導体の導電仕組み
【図1 半導体の導電の仕組み】

 

(3)電気伝導の仕組み

電子が伝導帯に励起され、この抜けた電子の穴を「ホール」(正孔)と呼びます。
電子とホールの一対は「励起子」と呼ばれます。(図1)

伝導帯に励起された電子は動きやすく、電気伝導できます。バンドギャップが小さければ小さいほど、価電子帯に位置する電子が簡単に伝導帯に移動することができます。
半導体は絶縁体より小さいバンドギャップがあり、通常は電子が移動できず電気を通しませんが、外部刺激などにより電子やホールの流れを制御することができます。

 

3.量子ドットの性質・特徴と主な用途

特定の半導体材料のサイズをナノスケールに小さくすると、量子の世界の話になってきます。
電子ドットに外部刺激を与えると、価電子が導電帯に励起します。そして電子が狭い空間に閉じ込められて、電子エネルギー準位は小さな分離が生じます。この状態は「量子封じ込め効果」と呼ばれ、他に量子トンネル効果、表面効果などの量子特性が生まれ、特異な物理、化学的性質をもたらします。

 

(1)量子ドットの発光性(量子サイズ効果)とその応用例

電子とホールが束縛されて励起子状態となると、光学特性に大きく寄与します。励起子が元の状態に戻るときに、そのバンドギャップのエネルギーを相当する波長の光として放射します。

量子ドットは材料が同じでも、粒径を変えるだけで発光の波長を変更可能です。
粒径が小さくなるほど波長は青色側になり、大きくなると赤色側にシフトします(図2)。
これを「量子サイズ効果」と言います。

 

調節可能なバンドギャップとサイズに依存した波長(色)
【図2 調節可能なバンドギャップとサイズに依存した波長(色)】

 

① 量子ドットテレビ

量子ドットは、広い励起スペクトルと狭い発光スペクトルを持っています。
量子サイズ効果と狭い発光分布を利用して、ディスプレイに応用することができ、高輝度・高精細の量子ドットテレビが商品化されています。

[※関連記事:3分でわかる QD-OLEDとは?原理と特徴を初心者向け解説

 

② 蛍光標識、蛍光プローブ

量子ドットは非常に優れた光安定性を持っているため、物体の長期観察が可能になります。そして、同じ励起光源を使用して、異なる粒子サイズの量子ドットを同時に検出できるため、多色蛍光標識への応用が進んでいます。さらに生体適合性にも優れていることから、医療用の蛍光プローブに向いています。

量子ドットは化学修飾により、特異な結合ができます。細胞毒性も低く、生体安全性があるため、生物学、医療用プローブや検出に活躍できます。

 

(2)量子ドットの電気特性(量子トンネル効果)とその応用例

光子は粒子性と波動性を結びつける粒子であり、電子も同じです。
電子はナノメートルスケールの空間で波動性があり、ナノ領域に「ロック」されることで量子閉じ込め効果が生じます。電圧が低い場合は、電子はナノスケールの範囲内に制限されますが、電圧を上げると電子がナノメートルの障壁を通過できるようになり、導電性が生じます。これを「量子トンネル効果」と呼ばれます。

量子トンネル効果により、半導体量子ドットは、単一電子デバイス、メモリ、およびさまざまな光電子デバイスなどの応用に広い可能性を持っています。

 

4.量子ドットの製造方法

量子ドットの製造法(作製法)は大きく分けると、微細加工結晶成長の2種類があります。

 

(1)微細加工(エピタキシャル成長法)

化学気相成長法分子線エピタキシー法があり、いずれも基板材料上で量子ドットを成長させる方法です。
成長した量子ドットは半導体上で成長し、従来の半導体デバイスと簡単に組み合わせることができます。ただし高真空が必要なため、コストは高くなります。

 

(2)結晶成長(化学溶液成長法)

大体の半導体材料は、結晶成長(化学溶液成長法)で量子ドットを合成できます。

コロイド量子ドットには、製造コストが低く、収率が高く、発光効率が高いなどの利点があります。ただし、低い導電率の欠点も持ちます。

溶液中での安定性を維持するために、製造中に量子ドットの表面に有機配位子を導入しています。しかし有機配位子の層は、量子ドット間の電荷移動を大きく妨げるため、太陽電池などの用途には適しません。

 

5.量子ドットに関する今後の研究開発動向に注目

量子ドットは、そのユニークな性質と大きな可能性から注目されており、関連技術は発展途上にあります。
例えば、量子ドットによく用いられるカドミウムコアが汚染物質であるため、カドミウムを使わないポリマーが発明されるというような進展もあります。
量子ドットに関連する今後の研究開発動向に期待しましょう。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

 


《引用文献、参考文献》

  • 1)ナノスケールの虹が世界を変える
    [Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 6 News Feature]
    https://www.natureasia.com/

 

 

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