3分でわかる技術の超キホン 物質の色と光の関係を早わかり解説

1.物質自体に色は付いていない?
私たちの身の回りには、赤、青、緑、黄色など様々な色を持つ物質があります。
しかし実は、物質そのものが「色」を持っているわけではありません。色は、物質に当たった光が吸収・反射・透過などによって変化し、その光を観察者が視覚として認識したものです。
太陽光や照明光などの白色光には、可視光領域のさまざまな波長の光が含まれています。一般に可視光の波長範囲は約380~780nmです。
白色光が物質に当たると、以下の現象が起こります。
- 一部の波長は吸収される
- 一部の波長は反射される
- 一部の波長は透過される
私たちは、その反射光あるいは透過光として目に届いた光を色として認識しています。
例えば、白色光の中から緑色の光が強く吸収されると、残った光は補色関係にある赤紫色寄りに見えることがあります。
つまり、私たちが見ている色は、「物質が吸収しなかった光の色」とも言うことができます(図1)。
ただし、実際の物質では複数の波長が同時に吸収されるため、単純な補色だけでは色を完全に説明できない場合もあります。

【図1 補色のイメージ図】
2.物質が一定波長の光だけを吸収する理由は?
それでは、なぜ物質ごとに吸収する光の波長が異なるのでしょうか。
その理由は、物質中の電子のエネルギー状態にあります。
物質は原子や分子から構成されており、原子核の周囲には電子が存在しています。
電子は自由に存在しているわけではなく、決められたエネルギー準位を持つ原子軌道や分子軌道に配置されています。
この電子配置こそが、物質ごとの光吸収特性や色の違いを生み出しています。
光を吸収する前の電子状態を基底状態(Ground State)、光を吸収した後の状態を励起状態(Excited State)と呼びます。
電子遷移は原子核の運動に比べて非常に速いため、遷移の瞬間には原子核の位置がほぼ変わらないとみなせます。このような垂直遷移と、電子遷移に伴う振動状態間の遷移強度は、フランク–コンドン原理(Franck–Condon Principle)に基づいて説明されます。
3.光のエネルギーと波長の関係
光は電磁波の一種であり、そのエネルギーは式1で表されます。
E=hν=hc/λ ・・・・・・式1
E:光子のエネルギー
ν:光の振動数
c:真空中の光速
h:プランク定数
λ:真空中の波長
波長が短いほど電磁波の持つエネルギーが大きくなります。
例えば、
• 紫外線(短波長) → 高エネルギー
• 可視光(中波長) → 中程度
• 赤外線(長波長) → 低エネルギー
という関係になります。
4.電子遷移と色の発現
光が吸収されると、電子は基底状態の軌道から高いエネルギーを持つ空軌道へ移動します。
このとき必要なエネルギー差をΔEとすると、式2で表します。
ΔE=hν=hc/λ ・・・・・・式2
電子はどのエネルギーでも自由に遷移できるわけではありません。
電子が遷移できるのは、ΔEに相当するエネルギー準位が存在する場合だけです。
したがって、物質は特定の波長域の光を吸収します。
吸収されなかった光が反射または透過して私たちの目に届くため、物質固有の色として認識されるのです(図2)。

【図2 基底状態と励起状態の電子配置】
5.吸収スペクトルを見ると何が分かる?
物質がどの波長の光を吸収するかは、吸収スペクトル測定によって調べることができます。
溶液試料の吸収スペクトルでは、吸収帯の波長や吸光度を調べ、条件によってはモル吸光係数 ε を求めることができます(図3)。
反射スペクトルを測定し、標準光源や標準観察者の条件と組み合わせて表色系に換算することで、物質の色を定量的に評価できます。

【図3 吸収スペクトルの模式図】
6.電子軌道・電子遷移の特徴と色の関係
ここまでは最も単純な例で説明しましたが、実際の物質は複数の電子遷移を持っています。
有機化合物では、主に以下の電子遷移が存在します。
- σ→σ*(主に紫外域)
- π→π*(共役系が長い場合、可視光吸収に関与)
- n→π*(カルボニル基などで見られる遷移)
一般に、
- σ電子は強く束縛される
- π電子は比較的弱く束縛される
ため、分子構造によって吸収波長が変化します。
特に共役系が長くなるとエネルギー差が小さくなり、吸収波長は長波長側へ移動します。
そのため、有機色素や顔料は鮮やかな色を示します。
7.金属錯体が鮮やかな色を示す理由
遷移金属錯体では、さらに特徴的な電子遷移が現れます。
代表的なものとして、以下の三つの遷移があります。
- d-d遷移(一般的に吸収強度が小さい)
- LMCT遷移(Ligand to Metal Charge Transfer)
- MLCT遷移(Metal to Ligand Charge Transfer)
LMCTやMLCTは、一般にd–d遷移より強い吸収を示すことが多く、吸収帯が可視光域にある場合には鮮やかな発色につながります。
例えば、クロム酸イオン(CrO₄²⁻)は黄色、過マンガン酸イオン(MnO₄⁻)は紫色を示します。いずれも酸素原子の軌道から金属の軌道への電荷移動(LMCT)による吸収が発色に関与しています。金属の種類や酸化状態などによって吸収波長が異なるため、見える色も異なります。
また、[Fe(phen)₃]²⁺と[Ru(bpy)₃]²⁺などではMLCT遷移が観測され、溶液は赤色や橙色を示します(図4)。
これらの錯体は金属のdπ軌道からヘテロ芳香族配位子の共役系のπ*軌道へ電子遷移が起こります。

【図4 有機分子と金属錯体の電子遷移の模式図】
8.まとめ
物質の色を決める電子遷移の考え方は、光触媒や太陽電池の動作原理とも深く関係しています。
固体では、分子の準位ではなく価電子帯・伝導帯というバンド構造で扱いますが、光子のエネルギーが電子遷移に必要なエネルギー差に対応する点は共通しています。
近年注目されている可視光応答型光触媒やペロブスカイト太陽電池の研究も、こうした光吸収と電子遷移の制御が基本となっています。
「色」を理解することは、光エネルギー変換技術を理解する第一歩と言えるでしょう。
次回は、今回説明した電子遷移の考え方をもとに、光触媒がどのように光エネルギーを化学反応へ変換するのかを解説します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 L・H)

































