有機ELの発光原理がわかる!素子構造・発光材料・高効率化の基本を解説

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有機EL

有機ELは、有機化合物に電気エネルギーを与えて光へ変換する発光技術です。
薄くて自発光するため、高コントラストのディスプレイや照明に利用されています。
本稿では、有機EL素子の発光過程、基本構造、発光材料の分類、製膜方法、効率と寿命を左右する要因を順に説明します。

1.有機ELとOLED

「有機エレクトロルミネッセンス」(organic electroluminescence、有機EL)とは、電圧を加えた有機材料が発光する現象です。この現象を利用した発光素子を、「有機発光ダイオード」(organic light-emitting diode、OLED)と呼びます。日本では素子やディスプレイを含めて「有機EL」と呼ぶことも多く、実用上は両者がほぼ同じ意味で使われる場合があります。

1960年代にはアントラセンなどの有機結晶で電界発光が確認されましたが、高い電圧が必要でした。
1987年、TangとVanSlykeは、正孔輸送層と発光・電子輸送層を組み合わせた薄膜二層型OLEDを報告しました。電荷注入と再結合領域を制御する多層構造は、その後のOLED開発の基礎になりました。

 

2.有機ELが発光する仕組み

(1)電荷注入

陽極から正孔が、陰極から電子が有機層へ注入されます。注入のしやすさは、電極の仕事関数と有機材料のHOMO・LUMO準位の関係、界面状態などに左右されます。

 

(2)電荷輸送

正孔は主に正孔輸送層を、電子は主に電子輸送層を通って発光層へ移動します。各層には、電荷を運ぶだけでなく、反対符号の電荷や励起子を発光層内に閉じ込める役割もあります。

 

(3)励起子形成

発光層で電子と正孔が再結合すると、分子が励起された状態、すなわち励起子が形成されます。ホスト・ゲスト型の発光層では、ホストに生じた励起子のエネルギーが発光分子へ移る場合もあります。

 

(4)発光

励起状態が基底状態へ戻る過程で光子が放出されます。一方、分子振動へのエネルギー移動、励起子同士の衝突、電荷との相互作用などによって、光を出さずに失活する経路もあります。

 

有機ELにおける電荷注入、輸送、励起子形成および発光の模式図
【図1 有機ELにおける電荷注入、輸送、励起子形成および発光の模式図】

 

3.有機EL素子の基本構造

代表的なOLEDは、基板、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極を積層した構造をもちます。

実際の素子では一部の層が省略されたり、一つの材料が複数の機能を兼ねたりします(図2)。
発光材料をホスト材料中に少量分散させたホスト・ゲスト型発光層も広く用いられます。

陽極には、可視光を透過しやすく、正孔を注入しやすいITO(酸化インジウムスズ)などの透明導電性酸化物がよく使われます。ITOは「透明な金属薄膜」ではなく、導電性をもつ酸化物です。
陰極にはアルミニウム、銀、マグネシウム-銀合金などが使われ、LiF/Alのように電子注入層と金属電極を組み合わせる場合もあります。

基板側から光を取り出す方式を「ボトムエミッション」、基板と反対側から取り出す方式を「トップエミッション」と呼びます。
光の一部は電極や有機層に吸収されたり、導波モードや表面プラズモンモードに閉じ込められたりするため、発光層で生じた光がすべて外部へ出るわけではありません。
有機材料や反応性の高い電極は水分や酸素の影響を受けやすいため、実用素子では封止層も重要です。

 

代表的な有機EL素子の積層構造
【図2 代表的な有機EL素子の積層構造(注入層を省略)】

 

4.発光機構による分類

発光材料は、主に蛍光材料、りん光材料、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料に発光機構によって分類できます。

 

(1)蛍光材料

「蛍光」は、励起一重項状態S1から基底状態S0へ戻る際の発光です。
電気励起によって単純なスピン統計に従って励起子が形成されると仮定すると、一重項励起子は約25%、三重項励起子は約75%と見積もられます。
そのため、通常蛍光だけを利用する材料では、生成した励起子の一部しか発光に利用できません。
ただし、実際の割合や利用率は材料・素子構造によって変化し、三重項-三重項消滅などを利用する方式もあります(図6)。

アントラセンやペリレンなどは有機発光研究の歴史上重要な蛍光性分子です。
また、Alq₃(トリス(8-キノリノラト)アルミニウム)は、電子輸送性と緑色蛍光を示す代表的な低分子材料で、1987年の二層型OLEDでは発光・電子輸送層として使用されました。Alq₃は金属錯体ですが、一般的な条件では「りん光材料」ではなく、主に蛍光材料として扱われます(図3)。

 

蛍光材料の代表化合物
【図3 蛍光材料の代表化合物】

 

(2)りん光材料

「りん光」は、三重項励起状態T1から基底一重項状態S0へ戻る際の発光です。

本来はスピン禁制の遷移ですが、イリジウムや白金などの重原子を含む錯体では、強いスピン軌道相互作用によって一重項と三重項の性質が混ざり、項間交差とりん光遷移が起こりやすくなります(図6)。

りん光OLEDでは、生成した一重項励起子と三重項励起子のエネルギーを、いずれも発光材料の三重項励起状態へ導き、主にりん光として取り出せます。このため、原理上は両方の励起子を利用でき、励起子利用効率を100%に近づけられます。

オクタエチルポルフィリナト白金錯体(PtOEP)は初期の代表例です。現在は各種イリジウム錯体などが広く研究・利用されています(図4)。

一方、励起状態の寿命が比較的長いため、高電流密度では三重項-三重項消滅や三重項-ポーラロン消滅が起こり、効率低下や劣化につながることがあります。特に高効率と長寿命を両立する青色材料は重要な開発課題です。

 

りん光材料の代表化合物
【図4.りん光材料の代表化合物】

 

(3)TADF材料

「TADF」は、“thermally activated delayed fluorescence”(熱活性化遅延蛍光)の略です。
一重項励起状態S1と三重項励起状態T1のエネルギー差を小さく設計し、熱エネルギーを利用した逆項間交差によってT1からS1へ励起子を戻し、遅延蛍光として発光させます。イリジウムや白金などの希少金属を必須とせず、理論上は一重項と三重項励起子の両方を利用できる点が特徴です。
ただし、発光スペクトル幅、濃度消光、効率低下、寿命などの改善が引き続き研究されています(図5、6)。

[※関連記事:3分でわかる TADF材料の基礎知識|次世代の有機EL発光技術のメカニズム・特徴を解説]

 

TADF材料の代表化合物
【図5 TADF材料の代表化合物】
 

有機EL発光材料の発光メカニズム
【図6.有機EL発光材料の発光メカ二ズム】

 

分類 主な発光過程 主な励起子の利用 特徴・課題
蛍光 S1 → S0 一重項 応答が速い、通常蛍光では三重項の利用が制限される
りん光 T1 → S0 一重項・三重項 高効率、重金属錯体、消光、青色寿命などが課題
TADF T1 → S1 → S0 一重項・三重項 希少金属を必須としない、色純度・効率低下・寿命などが課題

【表1.発光材料の種類と比較】

 

5.材料の低分子と高分子による分類

(1)低分子材料

低分子OLED材料は、主に真空蒸着によって薄膜化されます。膜厚や組成を精密に制御しながら多層化しやすく、ホスト材料と発光ドーパントの共蒸着も可能です。
一方、真空装置や蒸着マスクが必要であり、大面積化では材料利用効率や製造工程が課題になります。

[※関連記事:3分でわかる 真空蒸着の基礎知識]

 

(2)高分子材料と溶液プロセス

共役高分子などの高分子材料は、インクジェット印刷、スピンコート、スロットダイ塗工などの溶液プロセスに適しています。大面積化や塗り分け、連続生産に利点があります。
ただし、上層を塗布すると下層が溶ける場合があるため、溶媒の選択、架橋性材料、直交溶媒、材料の表面エネルギーなどを考慮する必要があります。
溶液プロセスでも多層化は可能であり、「単層または少数層しか作れない」と一律に言うのは適切ではありません。

 

6.発光効率と寿命を左右する要因

OLEDの「外部量子効率」は、概念的には、電荷バランス、発光に利用できる励起子の割合、発光量子収率、光取り出し効率の積として考えられます。
したがって、発光材料だけでなく、電極からの注入、輸送層、発光層内の再結合位置、ホストとドーパントのエネルギー関係、膜構造、光学設計が重要です。

高輝度駆動では、励起子同士または励起子と電荷キャリアの相互作用により効率が低下することがあります。これを「効率ロールオフ」と呼びます。材料の化学分解、界面反応、発熱、分子の凝集、水分・酸素の侵入なども輝度低下やダークスポットの原因になります。

このため、有機EL材料の開発では、発光色と発光効率だけでなく、電荷輸送性、熱・形態安定性、励起状態での化学安定性、製膜性、精製性、他層との界面適合性を総合的に評価する必要があります。

 

7.発光性金属錯体研究との関係

金属錯体は、OLED用りん光材料だけでなく、酸素センサー、温度センサー、発光プローブなどにも研究されています。りん光は酸素によって消光されやすいため、その性質を酸素検出へ利用できます。

また、一つの錯体中に複数の金属中心をもつ多核錯体や金属クラスター錯体にも特徴的な発光を示すものがあります。

ただし、これらがすべてOLEDの実用発光材料であるわけではなく、基礎光物性やセンシング用途を含む広い研究分野として区別して説明する必要があります。

 

8.まとめ

有機ELは、陽極と陰極から注入された正孔と電子が発光層で再結合し、形成された励起子が基底状態へ戻る際に光を放出する発光素子です。

その発光効率や寿命を高めるためには、電荷をバランスよく発光層へ輸送して励起子を効率的に形成・閉じ込めるとともに、発生した光をできるだけ外部へ取り出すことが重要です。また、発光材料には蛍光、りん光、TADFなどがあり、それぞれ異なる発光機構や特徴をもちます。

このように、有機ELの性能は発光材料そのものの特性だけで決まるものではありません。電極、輸送層、ホスト材料、膜構造、封止などを含めた素子全体を適切に設計することが、高効率化や長寿命化につながります。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

 

 

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