化学

《工業触媒の基礎②》触媒の反応機構/反応速度の向上原理|工業化プロセスの基本

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【工業触媒を理解する②】触媒の基礎技術

触媒は「不均一系触媒」と「均一系触媒」に大別されますが、どのようにして反応を促進するのでしょうか。
その作用機構を一般論として説明することは難しく、それぞれの触媒ごと、反応ごとに異なります。

ここでは代表的な不均一系触媒、均一系触媒を例にして、触媒が反応の速度を向上させる原理を解説したいと思います。

1.不均一系触媒の触媒反応機構

エチレンと水が反応してエタノールが生成する、水和反応の触媒反応機構を図1に概念的に示します。

 

エチレンの水和反応機構
【図1 エチレンの水和反応機構】

 

エチレンと水は混合気体として自由に動き回っていますが、それらは触媒表面に化学吸着されて「活性化」されます。
「化学吸着」とは、吸着することによって吸着分子の電子状態に偏りが生じ、結合が伸びて反応し易くなる現象です。

この水和反応の触媒は強酸性で、水分子は酸素原子の非共有電子対を引きつけ、それを通して酸素-水素結合が弱まります。
エチレン分子も電子が豊富な二重結合が、触媒にπ電子を吸引されて活性化されます。
このように触媒が機能するためには、反応分子が触媒表面に化学吸着することが必須の条件です。

次に各分子の結合の開裂と、分子間の再結合が進行します。
一部は元の結合が再生されてエチレンと水として触媒表面から離れますが、残りはエチレンの二重結合が切れた後に水素原子とヒドロキシル基(OH)が結合してエタノールとなります。

「活性化」された状態とは山の頂上にあるボールに似ていて、エチレンに戻るか、エタノールに行くかが分かれるのですが、その割合を決めるのが化学平衡です。

そしてエチレンを頂上に押し上げるのは、反応系に加えられる熱、圧力、光、電気などのエネルギーです。これは「活性化エネルギー」と呼ばれますが、触媒は頂上を低くする役割を担います。
良い触媒は頂上をより低くするので、反応速度が向上します。
活性化エネルギーが十分に低い場合は、原料に触媒を加えただけで常温常圧でも反応が進行します。

 

2.多元系不均一触媒

全ての反応が単一の化学種からなる触媒(一元系触媒)で進行するとは限りません。
多くの化学種(例えば鉄や銅などの複数の金属)を使って、最適な多元系触媒を利用することで初めて反応が進行したり、反応速度が大幅に向上したりという例が知られています。

ここでは多元系触媒の例として、図2に示す窒素の還元によるアンモニア合成の反応機構を説明します。1)

 

アンモニア合成の反応機構
【図2 アンモニア合成の反応機構】

 

アルミナ(Al2O3)の上に酸化第一鉄(Fe2O3)と酸化カリウム(K2O)が担持された触媒が使用されます。
水素によってFe2O3はFeに還元され、これが触媒活性を示します。Feが再酸化によって不活性化されないように、近傍に存在するK2OがFeに電子を供給(還元)し続ける役割を担います。Al2O3は上記両金属種の表面積を広める担体です。
この触媒は「二重促進鉄触媒」と呼ばれています。
アンモニア合成ではFeとK2Oの組み合わせが好適ですが、触媒ごと、反応ごとに全く別の金属の組み合わせが必要になります。

最近、京都大学と信州大学の共同研究で、貴金属8元素(Au, Ag, Pt, Pd, Rh, Ir, Ru, Os)を原子レベルで均一に混ぜ合わせた、ナノメートルサイズの合金(ナノ合金)が世界で初めて作成されました。2)
成分である8元素の中には、単独では活性を示さないものがありますが、このナノ合金を水素発生反応電極触媒(還元触媒)として使うと、市販の白金触媒に比べて10倍以上も高い活性を示すことが明らかになりました。

このような個々の元素とは全く異なる性質の合金の性能を予見することは困難なので、高性能な触媒を探索することには多大な努力が必要となる反面、大きな夢があると言えるでしょう。

 

3.均一系触媒の触媒反応機構

代表的な均一系触媒のひとつが金属錯体触媒です。
以下、この触媒について解説します。
不均一系触媒では化学吸着によって原料が活性化されるのに対して、錯体触媒では金属の空軌道に原料が配位結合することによって活性化されます。

図3にエチレンのカルボニル化反応について反応機構を記します。3)

 

オレフィンのカルボニル化反応機構
【図3 オレフィンのカルボニル化反応機構】

 

触媒としてロジウム錯体(“Rh”と略記)を使用します。
この錯体は反応溶媒に溶解するように支持配位子4) LがRhに配位結合しています。

  • ステップa: 空配位座にエチレンの二重結合がπ配位します。
  • ステップb: 分子内転位反応を経て、π配位したエチレンがエチル基としてRhと共有結合を生成します。
  • ステップc: 空配位座に一酸化炭素(CO)が配位し、
  • ステップd: エチル基がCOに分子内転位してプロピオニル基となります。
  • ステップe: 水素分子が結合の開裂を伴ってRhに配位し、
  • ステップf: プロピオニル基は水素原子と結合してプロピオンアルデヒドとして触媒から放出されます。

以上のステップを経て、エチレンからプロピオンアルデヒドが生成するとともに、”Rh”が再生されます。
なお触媒の支持配位子としては、有機リン化合物、有機窒素化合物や有機硫黄化合物などがあります。

 

4.触媒を使用する化学品製造設備

図4に不均一系、均一系触媒を使用するそれぞれの工業化プロセス概念図を示します。

 

工業化反応プロセスの例
【図4 工業化反応プロセスの例】

 

不均一触媒の代表的な「固定床触媒」は反応器に充填され、原料ガス(または液)が通過します。
触媒は熱膨張や自重による粉砕を防止するために強靱に成形加工され、表面積の拡大を目的としてハニカム状など様々な形状があります。

均一系では繰り返し使用による触媒活性の低下があるので、回収触媒液の一部を抜出し、相当量のフレッシュな触媒を補充しながら連続運転が行われます。

 

5.触媒を使用して工業化されている化学品

比較的大規模で実用化されている化学品を表1に例示します。
エチレン、プロピレンの重合やプロピレン、イソブテンの酸化は、類似の原料の酸化反応であるので触媒の共通性も高くなります。
しかし、例えばイソブテンの酸化速度はプロピレンのそれより高く、逐次酸化の防止のためにイソブテン用の触媒にはCoを加えて活性を制御するなど、各々に最適化された触媒が必要になります5)

事業収益の面からみると、触媒の活性を向上することは収益向上手段の一つであって、全てではありません。
例えば触媒活性の向上が困難でも耐熱性が向上できれば、反応温度を上げて反応速度を高めることができ、反応器を小型化できます。建設費は下がり、用役費も抑制されることにつながります。
このように、工業触媒の開発では製造設備全体の調和を考えた目標設定が大切です。

 

【表1 工業化されている触媒反応の例】
工業化されている触媒反応の例

 

6.おわりに

大型化学品を製造する場合、製品の収率が1%向上できると年間数億円の利益向上につながることもあります。そこで世界の化学メーカーは各種製品の収率向上にしのぎを削り、触媒改良や新触媒に関する多くの特許が出願されてきました。

触媒が活躍する主な分野は化学品の製造で、そのほかには自動車の排ガス処理などの環境浄化分野があります。6)
現在ではいずれも成熟した技術分野となり、触媒開発を強みとする企業や大学等の研究者は、触媒の新しい分野への進展を描き始めています。
 

次回は、触媒研究の現状と将来を考えてみたいと思います。

 

(アイアール技術者教育研究所 O・G)

 


《引用文献、参考文献》


 

 

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