【品質保証塾・初級編】本社勤務の品質保証って何してる?よくある業務内容を紹介
品質保証は現場勤務だと、様々な経験を積めることは以前の記事でわかっていただけたと思います。しかし、本社勤務だから悪いというわけではなく、本社勤務でもたくさんの経験を積むことができます。
今回は、本社で品質保証業務をすることで得られる経験を中心に、本社品証が普段どのような仕事をしているのか紹介していきます。
目次
1.本社品証って何をしているのか不明?
現場で仕事をしていると、本社勤務の品質保証の仕事ぶりが見えないってこと、よくある話なのではないでしょうか。現場で働いていると「自分らがものづくりを支えている」という自信もあるため、オフィスで働いている人を「何もやっていないくせに!」などと思ってしまう方も多いのかもしれません。
今回は、実際に本社勤務も工場勤務も経験のある筆者が、本社勤務の品質保証がどのような仕事をしているのか、フラットな目線で書いていきたいと思います。
2.本社勤務の品質保証の主な仕事
(1)上流から品質保証体制を構築
工場で品質保証をしていると、品質保証の業務も品質管理の業務も混合されているケースが多いです。しかし、実際は品質保証と品質管理で大きな違いがあります。
品質保証は組織全体にわたって活動を行い『顧客視点』で品質向上に取り組み、品質管理は工場でのものづくり中心で活動を行い『作り手視点』で品質向上に取り組んでいます。
[※詳細は別コラム 品質保証と品質管理の違いは? をご参照ください。]
(2)QMS(品質マネジメントシステム)の構築
本社の品質保証部門は、現場で起きる一件一件の品質問題に対応するのが仕事ではなく、組織全体にわたって品質管理を行うことが主な義務になります。
その一環として、品質マネジメントシステムを構築・改善し、適切な手順や方法を確立することで、より強固な品質保証体制を築き上げる仕事があります。
品質マネジメントシステムとは、組織の製品やサービスの品質を管理するためのシステム(仕組み)になります。品質マネジメントシステムは、全社もしくは事業部毎に適用される、全体を包括する仕組みになるため、非常に重要な業務になります。
本社の品質保証部門は、品質マネジメントシステムの構築、運用、維持、改善を担当することも主な業務となります。この業務には以下のようなものがあげられます。
- 品質マネジメントシステムの方針、目標、計画の決定
- 品質マネジメントシステムの構築
- 品質マネジメントシステムの運用に必要なドキュメントや環境(ツール、技能など)の整備
- 品質マネジメントシステムの運用状況確認(内部監査など)
- 品質マネジメントシステムの有効性評価(監査結果レビュー、監査報告書など)
- 品質マネジメントシステムの評価によって検出された問題の是正および改善
このようなタスクを実行することで、品質マネジメントシステムが適切に運用され、製品やサービスの品質向上に寄与します。
では何がメリットかというと、組織全体の品質保証体制を知り、改善することができるのです。工場や事業部で独自のルールや仕組みを持っている場合も多く、全社的な品質保証体制を知る機会は少ないです。
本社勤務をすると、全体を見渡しながら広い視野で『会社としての』品質保証体制を知ることができます。
基本的に、このような品質保証体制はISO規格などに基づき構築されています。規格の知識を身につけることで、他社にも通用する汎用性のあるスキルを磨けます。
(3)品質要件の定義
組織によって構造がことなることもありますが、本社の品質保証の特徴は、全社的な品質保証活動に携われ、上流から品質保証活動に参入できることでした。
例えば、従来品と全く仕様の異なる新製品が登場した場合は、品質要件の定義を行わなくてはなりません。
製品やサービスに必要な品質基準を、明確に定義することを意味します。一般的に、これには製品の性能、信頼性、安全性、適合性などが含まれます。これらの定義は、製品やサービスの開発、生産、販売、提供する際のガイドラインとして使用されたり、設計を行なう際の仕様書などとして使われます。
品質要件を定義することで、確実に製品やサービスが期待される品質を提供することができるのです。
(4)品質管理計画の策定と評価
「品質管理計画」とは、品質を保証するために、品質要件や品質管理手法、技術的手法、品質管理責任者などを明確に定義した計画となります。この計画は、品質要求レベルを達成するために、組織全体で活用されるのです。品質管理の方針や手順、指標を明確にすることで、製品やサービスの製造や提供過程で行う検査や確認作業を実施することができます。
品質保証では、製品やサービスの品質を保証するために、品質管理計画を策定し、その計画の実施結果を評価することも仕事の一環です。KPIなどを設定し、必要に応じて改善に努めます。
(5)工場や海外拠点との会議
本社勤務の品質保証は、海外拠点(工場や事業所)とも頻繁にやりとりを行います。例えば、全体の品質状況の監視を定期的に行う会議や、大きな品質問題が発生したときに突発的に行う会議があります。
本社側は細かな品質問題の是正などは担当しません。しかし、品質問題の是正には、リソース(人、物、金)が必要となるケースもあるため、経営陣が揃っている本社側が状況を把握し、必要に応じて上層部へエスカレーションを行います。
海外拠点と会議を行う時の主な事例は、下記のようなものがあります。
- 品質問題(流出した品質問題、工程内で検出した品質問題)の件数や是正状況
- 品質向上のための新たな方法の検討
- 工程(実装、組立、検査など)の改善
- 品質データの分析結果と共有
- 顧客のクレーム状況(エスカレーションなど)
もし、海外拠点のみで対処しきれない状況に陥っている場合は、本社側がサポートします。例えば、必要な技術者を派遣したり、資金を提供したりなどです。
(6)本部長や役員への報告(マネジメントレビュー/品質会議)
前述の通り、海外拠点・国内拠点を含め、様々な拠点から情報を収集することも、本社品質保証部門の役割です。それらの情報や、市場の状況などを、本部長や役員へ報告を行います。
一般的には『マネジメントレビュー』や『品質会議』などと呼ばれ、ISO9001(品質規格の名称)にて要求されている活動となります。
マネジメントレビューでは、一般的に次のようなことが報告されます。
- 顧客満足度の調査:顧客満足度の調査を実施し、結果を経営層に報告します。自社の製品やサービスに満足いただけており、更なるビジネスに繋がるのか、もしくはビジネス停止のリスクはないのか、しっかりと経営層へインプットします。
- 不具合の発生実績:市場や顧客の工場で発生した不具合、自社工場で検出された不具合の状況などを経営層に報告します。
- 内部監査・外部監査の結果報告:監査の結果を報告します。どのような監査が行われ、検出された問題の有無や是正状況を経営層に報告します。
- 設計開発段階の情報共有:新規で設計されている製品がある場合は、その開発状況(開発中に検出された問題、開発進捗率など)が報告されます。
- 品質に関係する法規や規格の変更:品質に関する法規や規格に変更があった場合は、マネジメントレビューで情報共有します。経営層が変更によるリスクを把握し、必要なアクションを決定します。
このような情報を経営層へ定期的に報告することで、大きな問題の未然防止になったり、問題が発生してしまっても解決までの時間が短縮できるのです。
3.ジェネラリスト視点が磨ける?本社勤務での典型的な一日
本社の品質保証は、工場の生産ラインと向き合い品質保証活動に取り組むのではなく、組織全体にわたる品質保証活動に貢献できるのが特徴でした。
そのため、多種多様な製品の品質問題を知ることができたり、組織全体の仕組みや国際規格などの経験を積めるのが特徴でした。
各拠点の特徴や傾向、品質状況などを、広く俯瞰的に知ることができるので、ジェネラリストな視点で物事を捉える力がつきます。
組織全体にわたって、物やお金の流れをしれたり、管理側の視点で経営を積めるので、出世には欠かせない経験(?)ができます。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、本社勤務の品質保証のメリットをお伝えしました。工場現場では、なかなか知ることができない経験を本社勤務だとできますね。
- 本社勤務だとより上流から品質保証活動に参加できる
- 品質保証全体の活動の企画、監視、評価、改善に携われる
- 全国各地、海外の工場や拠点と品質情報を共有するので幅広い知識を習得できる
- 経営者や本部長などと関わる機会が多い
- 仕事の範囲が幅広いのでジェネラリスト視点で仕事ができる
次回は、品質保証業務での海外勤務・駐在についてとり上げたいと思います。
(アイアール技術者教育研究所 Y・S)