【半導体製造プロセス入門】シリコンウエハーと半導体製造の必要資材
半導体製造においては、とかく製造装置自体に目が向きがちですが、資材や工場自体の設備なども重要です。
なぜかというと、半導体の製造には、水や化学薬品、あるいは熱などが必要であり、これらの資材を安定的に供給することが大切だからです。
ここでは加工の主な対象となる半導体ウエハーや、消耗品などの資材について解説します。
目次
1.シリコンウエハーとは?
シリコンウエハーとは、半導体製造において加工の対象となる材料のことです。
シリコン以外の材料を用いたものもありますが、多くの場合シリコンが対象となります。
ちなみに「ウエハー」とは、英語で「薄いビスケット」という意味で、実際薄い円盤のような形状をしています。そして、このウエハー表面に微小な回路を焼き付けてIC・LSIが作られています。
(1)シリコンウエハーに求められること
① 単結晶であること
まず、シリコンウエハーは単結晶であることが求められます。
「単結晶」とは、シリコンウエハーを構成するシリコン原子が、規則正しく乱れなく結晶構造を構成している物質のことを言います。すなわち、結晶構造をどの方向から見ても同じに見えること(ムラがないこと)が求められます。
その理由は、ウエハーが単結晶でないとドーピングの対象となる不純物が均等に拡散されず、ウエハーの場所によって特性のばらつきが大きくなってしまうからです。
② 純度
シリコンウエハーは、純度が高いことも求められます。
近年のシリコンウエハーの純度は99.999999999パーセント以上の純度を持っています(これを「イレブン・ナイン」といいます)。
この理由は、製造の工程においてウエハーにドーピングを行ったときに、すでに不純物が混じっているとドーピングの意図が正確に反映されず、設計と異なる特性になってしまうからです。
③ 機械的特性
機械的な特性としては、反りがないことはもちろんのこと、円盤状のウエハーの表面が平坦で傷がないことが求められます。
これは、前回述べたように、写真の原理を用いたリソグラフィー装置でウエハー表面にパターンを焼き付けていきますが、近年微細化が進んでいるため、必要とされるパターンの密度は非常に高くなっています。このため、リソグラフィー装置に使用されるレンズは光をたくさん集める必要があり、大きなレンズが必要となります。そして、このような大きなレンズはピントが合う範囲が非常に狭く、したがって、ウエハーに求められる表面の平坦度も非常に高いものが要求されています。
④ 厚み(薄さ)
さらに、ウエハーの厚みは強度の許す範囲で、できるだけ薄いものが求められます。
前回述べたように後工程のバックグラインド工程で有利になりますし、後述する単結晶のインゴット(塊)からウエハーを切り出すときにも有利になります。
もっとも、規格の上ではウエハーの直径によって厚みは決まってきます。
(2)シリコンウエハーの製造方法
つぎにシリコンウエハーの製造方法を見ていきましょう。
シリコンウエハーはシリコン単結晶のインゴットを切り出し、表面を研磨して作られます。
切り出しや研磨は機械的な加工で行うことができますが、一番のハードルは、シリコン単結晶のインゴットを作ることです。
一般的によく用いられるのは、「チョクラルスキー法」と呼ばれる方法です。
ちなみに、「チョクラルスキー」とはこの方法を発明した人の名前です。
《チョクラルスキー法のプロセス》
チョクラルスキー法は一般的に次の方法で行われます。
まず、酸化シリコンを還元します。石や土は主成分が酸化シリコンで、自然界にほぼ無尽蔵に存在します。極端な話、その辺に転がっている石や土でもシリコンウエハーを作ることができます。そして、これを高温で熱し余計な不純物を燃やし蒸発させることで、純度の高いシリコンを生成しますが、この段階ではまだウエハーとすることはできません。
つぎに、精製したシリコンを石英でできたるつぼに入れ、さらに高温で熱します。このとき、シリコンの融点よりも少し高い温度で熱するのがミソです。これによりシリコンは融解しどろどろの状態になります。
ここで、融解したシリコンに、純度の高い小さな種結晶(もちろん単結晶です)を接触させ、水平方向に回転させながらゆっくり引き上げます。すると、純粋なシリコン原子だけがこの種結晶にくっついてきます。しかも、この原子は単結晶を構成します。これにより引き上げるスピードを調整することで、太さを調整しつつインゴットを作ることができます。
あとは、このインゴットを切り出し円盤状にして表面を研磨すればウエハーの完成となります。
2.ウエハー以外の必要資材・消耗品
つぎに、ウエハー以外の資材や消耗品を見ていきましょう。
(1)前工程で必要な薬品・ガス・金属
まず、前工程では、さまざまな化学薬品が必要です。
例えば洗浄工程では、純水、硫酸、過酸化水素やフッ酸など。リソグラフィー工程ではレジストと呼ばれる特殊な樹脂が必要になります。
また、イオン注入工程やエッチング工程では特殊なガスが必要になりますし、金属薄膜形成の工程では、銅やタングステンなどの金属が必要です。
これらの化学薬品やガス、金属は純度の高いものが要求されており、大変高価です。そして、安定して供給される必要があります。また毒性の高いものもあり、排水・廃液・排ガス処理が重要です。もっとも、極力回収して再処理をおこない再利用するのが近年のトレンドとなっています。
(2)クリーンルームにおける対策
ラインにおいては、人間に対する配慮も必要です。
人間は、呼吸や汗などによって有機物を常に排出しています。また、皮膚は常に新陳代謝が行われ、剥がれた皮膚などは微小な粒子(パーティクル)となってウエハーを汚染します。さらに衣類に付着したパーティクルもウエハーを汚染します。そのため、ラインの稼働中は極力無人運転を行うようになってきていますが、ラインの立ち上げ時やメンテナンス時などは、どうしてもクリーンルーム内に立ち入らざるを得ません。その際に着用するクリーンスーツや、マスク、同様に手袋なども消耗品です。
薬品や水をこぼしたときに使用するウエスも特殊なものが用意されています。これは、通常の布では布をこすったときに繊維が剥がれ、パーティクルが発生してしまうからです。さらに、紙なども特殊なクリーンペーパーと呼ばれるものが用意されています。通常の紙ではウエスと同様にこすったときに紙の繊維が剥がれ、パーティクルが発生してしまうからです。
なお、鉛筆や消しゴムも使用禁止のところがほとんどです。代わりにボールペンを使用します。鉛筆は、鉛筆の芯を折ってしまったときに黒鉛の微粒子が発生してしまいます。消しゴムは、使用した時のカスが汚染の対象となります。
(3)後工程では一般的な資材が中心
一方、後工程では、資材に対して、純度の高さやウエハーに対する高度な汚染対策が求められることはあまりありません。前工程向けのような特殊な資材ではなく一般的な資材が多く使われます。
具体的には、ダイシング工程で使われる非常に薄いカッターやバックグラインド工程で使用される砥石、ダイボンディング工程で使用されるリードフレーム、ワイヤボンディング工程で使われる金線、モールディング工程で使用される樹脂などがあります。
その他、さまざまな資材が半導体製造では使用されます。
次回は、半導体工場の設備について解説します。
(アイアール技術者教育研究所 F・S)