電気製品の信頼性・安全性に関する基礎知識を厳選!絶対に押さえておくべき規格・法規制・用語をチェック
目次
1.電気製品の信頼性・安全性は身近な問題?
今回は製品の信頼性・安全性、特に家庭やオフィスなど身近なところで使用される電気製品の信頼性・安全性について見てみたいと思います。
信頼性・安全性といって心当たりにすることとしては、数年前にスマートフォンの充電中に発火したというような事例が多発したことがありました。
発火・発煙事故、雷や落下による故障、(日本ではあまり考えにくいですが)電源事情による誤動作を起こしてしまう、また製品の動作中に周りの製品の調子がどうもおかしくなる等の事態が発生することがあります。また、購入品が送られてきたけど動作しないなどの事態が発生した経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
その他にも信頼性・安全性の問題が生じる事態があると思いますが、これによって最終的に消費者(使用者)身体や生命に危害が及ぶことがあってはならないですし、損害が生じることも避けなければなりません。
2.製品の安全性の定義と国際規格
国際的な安全に関する規格を見ていきますと、ISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)の2つの組織が組んだ体系として、ISO/IECガイド51というものがあります。
国際規格は三層構造であり、この中でタイプCの製品安全規格が個別製品ごとに定義されるとあります。
これらは、上位の基本安全規格とグループ安全規格を含んだうえで定義されるものです。
国際規格上では以上のような定義ですが、具体的には個別分野ごとの製品でも、安全性を構築する上で項目によって、国内規格、海外の各国の規格、国内自主規制や業界基準(デファクトスタンダード)、社内基準などいろいろなものが混在するのが現状です。
3.製品の安全性規格
具体的に項目ごとに見ていく前に、日本においては「製造物責任法」(いわゆる「PL法」)の存在をまず認識する必要があります。
これは1995年7月に施行された法律で、製造物の欠陥により損害が生じた場合の製造者等の損害賠償責任が製造者に課せられることを定めています。
[※関連記事:PL法については、別コラム【技術者のための法律講座】製造物責任法(PL法)の重要ポイントも併せてご参照ください。]
したがって、メーカーはこの法律の遵守を前提に試験などを行って合格したものを提供する義務が生じます。
これらを踏まえて以下述べていきます。
① 難燃性規格と環境性能
難燃性規格
難燃性規格とは、製品に使用されているプラスチックなどの燃焼する可能性に関する規格です。
これは、米国の民間団体である米国保険業者安全試験所(Underwriters Laboratories: UL)が策定するUL94に従って検査を行っています。
試料に対する燃焼試験方法と、その結果によるグレードが規定されています。グレードは低いHBから、V-2,V-1,V-0と難燃性のグレードが上がっていきます。
V-0の材料を使用した製品が、難燃性能ランクが高い製品です。UL94には、発砲材料(緩衝材)や薄肉材料(フィルムなど)の燃焼試験規格もあります。
環境性能
もう一つ材料で考慮しなければならない問題としてRoHS指令があります。
現行のRoHS指令は、電気・電子機器における特定有害物質の使用制限に関する2011年6月8日付欧州議会・理事会指令2011/65/EUです。最初の指令は、2003年2月に発行されました。
環境や人体に有害な化学物質が自然環境を破壊しないための規定で、ほとんどの電気・電子機器が対象になっています。
有害な化学物質には、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEです。
またEU指令には、リサイクル・リユースを求めるWEEE指令などもあります。
対象製品は、医療用機器や玩具など幅広く規定しています。
[※関連記事:RoHS指令については、別コラム「“RoHS指令”の基礎知識・初心者向け要点解説」も併せてご参照ください。]
② EMC(電磁両立性)
EMC(ElectroMagnetic Compatibility)とは電磁両立性と言われており、製品より妨害電磁波を出すことのエミッション規制であるEMI(ElectroMagnetic Interference)と、他の機器やシステムからの電磁妨害に対する耐性であるイミュニティに対する規格であるEMS(ElectroMagnetic Susceptibility)の両面で構成されます。
EMCに関する世界標準機関として、IECのTC専門委員会TC77やCISPR(国際無線障害特別委員会)などが検討を行っていますが、基本的な部分や共通部分に関することを規定しており、実際の技術基準の管理は各国に委ねられています。
例えば日本国内では、自主規制という形で情報処理装置等電波障害自主規制協議会(略称VCCI)が1985年設立され技術基準の制定と適合確認の管理を行っています。
米国はFCC(連邦通信委員会)、EUは欧州規格(CEマーク)が必要になりますし、中国(GB CCCマーク)、韓国(KS KCマーク)、オーストラリア(AS)などそれぞれの国の技術基準に合致してマーキングなどを製品に添付する必要があります。
EMCには、妨害電磁波以外にも電源変動、電圧ディップなど電源に関するとトラブルへの対応する試験なども含まれます。
③ 電気用品安全法、電波法と海外認証
その他に、国内では製造又は輸入事業者の責任で、電気用品安全法(PSEマーク)に基づく技術基準に適合していることを確認する必要があります。
電源コードやACアダプターなどにマークが入っているので見た方も多いと思いますが、コンセントにつながるものは認可を取得する必要があります。
海外では米国(UL:アメリカ保険業者安全試験所)、カナダ(CSA:カナダ規格協会)、EU(EN&各国規格)などの取得が必要です。
通信機器においては、スマートフォン、電子レンジなどは国内では電波法の認証も必要ですし、海外でも米国FCC、EU(EC)が必要になります。
《 PSEマーク 》
[左(ひし形):特定電気用品の表示、 右(円):特定電気用品以外の電気用品]
(※PSE表示の詳細は、経済産業省の資料「電気用品安全法 法令業務実施ガイド」をご参照ください。)
④ その他(落下試験・衝撃試験、メーカー品質基準での様々な試験)
JIS(日本産業規格)には、梱包落下試験、製品自体の落下試験や衝撃試験などの基準もあります。
また製品を提供するメーカーにおいては、社内品質基準を設けていますので、これに従った試験を各社において行っています。
例えば、環境試験で低温から高温まで補償範囲の温度・湿度環境での性能試験や保存試験、耐久試験などを行います。
また、製品をカタログによる使用方法でチェックを行うのは当然ですが、間違った操作を行ったときにどういう状態になるかという問題に対する対応が必要です。想定されるあらゆる操作を前提にチェックを行います。いわゆるイジワルテストです。
これらで問題が発生すると、ハードウェア、ソフトウェア両面から、信頼性と安全性を担保する対策を講じていくことが大変重要になります。
製品の信頼性・安全性確保には膨大なコストが必要
以上、ごくごく一部ではありますが、国内海外の安全規格などを紹介しました。
製品を開発、生産、販売する上で、国内、海外を問わず多岐にわたる規格/基準が存在し、開発時、生産時にこれらの規格/基準に合致する対策を講じます。
しかし現実には、規格/基準に合致した後も、製造者(メーカー)は製品の信頼性・安全性のテストを行うことに莫大な時間とコストを費やすケースが珍しくありません。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)