- 機械製図「ドラトレ」シリーズ
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「幾何公差って何? サイズ公差とはどう違うの?」
「幾何公差って重要? 覚えるべき?」
今回のコラムでは、上記の疑問に答えていきます。
幾何公差にはとっつきにくいイメージがあるので、理解するのが難しそうに感じてしまいますよね。
しかし、幾何公差をうまく使えば、間違いのない良い図面を描けるようになり、加工者への伝達のトラブルなどを防げます。
本コラムでは幾何公差に関する基礎知識や、幾何公差を身につけるべき理由について解説します。
幾何公差を学びたい設計初心者の方は、ぜひ読んでみてください。
目次
「幾何公差」とは、形の崩れ(軸の曲がりや、穴位置の偏差)を規制する公差であり、サイズ公差(寸法公差)と対比されることが多いです。
加工される部品には必ずバラツキが生じますが、そのバラツキの許容範囲を示すために、設計者はサイズ公差を図面に指示することがあります。
しかし、部品には、サイズだけでなく幾何特性(物の形・位置関係・サイズなど)があるので、サイズ公差のみでは設計意図を伝えるのに不十分です。
そのような場合に幾何公差は役立ち、サイズ公差では伝えられない意図を図面に指示することができます。
ここでは、幾何公差とサイズ公差の異なる部分を具体的に解説していきます。
幾何公差とサイズ公差はそれぞれ規制する対象が異なるので、サイズ公差では設計意図をうまく伝えられないことがあります。
たとえば、できるだけ曲がりのない真っすぐな軸が必要なとき、サイズを規制しても意図した形状に加工される保証はありません。なぜならサイズは2点間測定であり、2点間の距離が公差内に入っていれば合格となるためです(図1を参照)。
【図1 サイズ公差の2点間測定】
しかし幾何公差であれば、上記のような軸の真っすぐ具合(真直度)の規制も可能です。
幾何公差とサイズ公差は、「公差域」も異なります。
サイズ公差には、主に長さや角度の2種類しか公差域がありませんが、幾何公差の公差域は数多く存在します。
図2は、軸要素の真直度を規制するときの公差域の例です。
【図2 軸要素の真直度を規制するときの公差域の例】
サイズ公差の測定は、ノギスなどを用いた2点測定が基本です(図3参照)。
【図3 ノギスを用いた2点測定】
一方、幾何公差を測定する場合は、ダイヤルゲージや3次元測定器などを用います。2点測定では測れないためです。
たとえば図4のように、Vブロックに軸を置き、軸の真っすぐ具合を調べるとします。
軸が傾いた状態だとうまく測れないため、マイクロジャッキなどによる左右の高さ調整が必要です。そして、ダイヤルゲージで数か所の高さを測定すれば、測定値の最大と最小の差から軸の真直度が分かります。
なお、測定箇所が多いほど精度も上がりますが、作業効率も考慮しなければいけません。
【図4 軸の母線の真直度を測定するやり方】
※図4は軸の母線の真直度を測定するやり方ですが、軸の直径精度を確保できている場合は、「母線の真直度」を「軸線の真直度」としても構いません。
サイズ公差にデータムの概念はありませんが、幾何公差にはあります。
このデータムの設定によって、部品の品質やコストに大きな影響を及ぼします。
「データム」とは、幾何公差を指示する際、その公差域を規制するための基準(線や面)のことです。部品製作における加工の基準となるだけでなく、検査においても測定の基準となるので、設計意図を明確に伝える上で役立ちます。
なお、データムに関して詳しく知りたい方は、関連コラム「幾何公差の図示を習得!幾何公差の種類・特性・記号は?データムって何?」も併せてご覧ください。データムの図示方法や、その他の関連知識について解説しています。
ここからは、設計者が幾何公差を身につけるべき理由を4つ解説します。
1つ目の理由は、幾何公差を用いることで図面の曖昧さをなくせるためです。
サイズ公差のみでは設計意図を伝えるのに十分ではありません。
【図5 加工の狂いを規制していない場合】
設計者の期待する形状が「部品の下面が平面」で「下面に対する上面も平行」だとすると、図5の左のような図面指示では意図通りの部品にならない恐れがあります。記載された指示では、図5の右のような加工の狂いを規制していないためです。
日本の生産現場では、加工者が設計意図を察してくれることもありますが、海外で製作を依頼した場合、ゆがんだ部品が届くこともあります。しかし、図6のように幾何公差を指示すれば、図面の曖昧さをなくし、設計意図を明確に伝えられるでしょう。ここでは、A字のデータムによって基準面を示し、基準面における平面のレベル(平面度)と、基準面に対する上面の平行のレベル(平行度)を指示しています。
【図6 平面度と平行度を指示した場合】
2つ目の理由は、幾何公差の利用によって部品の加工コストを減らせるためです。
たとえば、前述した部品の平行性をサイズ公差のみで確保しようとすると、厳しい公差を指示しなければいけません。そのため、荒加工・中仕上げ・仕上げ加工といった工程が必要になり、加工コストが増加してしまいます。幾何公差を使うことで設計意図が明確になるだけでなく、経済性の面でもメリットを得られます。
3つ目の理由は、3DCADにおいても幾何公差の指示は必要だからです。
現在、多くの設計現場で3DCADが普及しており、2次元図面の必要性は下がっています。
しかし、幾何公差の図面指示が不要になるわけではありません。
2次元図面で指示する機会が減る代わりに、3Dモデルへ指示するやり方などに変わっていくでしょう。実際、JAMA(日本自動車工業会)やJAPIA(日本自動車部品工業会)によって、3D図面の標準化が検討されています。(図7参照)
【図7 出典:JAMA/JAPIA CAD機能要求ガイドライン V2.0】
4つ目の理由は、幾何公差の重要性が高まっているためです。
現在、グローバル化により海外企業との図面のやりとりが増えています。海外の図面では幾何公差が積極的に使われており、幾何公差を使えないと世界から取り残されてしまうでしょう。
実際、2016年にJISが改正されたこともあり、サイズ公差から幾何公差へのシフトが促されています。
最後に幾何公差の種類について紹介します。
幾何公差は全部で15種類あり、いきなりその全てを理解するのは難しく、時間もかかります。
そこで、まずは公差特性から以下の5つに大きく分けて、それぞれの特徴を学んでいくのがオススメです。
そのほうが幾何公差の全体像を把握しやすいでしょう。
公差の種類 | 説明 |
形状公差 | 真直性や平面性などが、理想の形状からどこまで偏っていいかを問題とする |
姿勢公差 | 平行や直角などが、基準に対してどこまで偏っていいかを問題とする |
位置公差 | 目標とする位置に対して、どこまで偏っていいかを問題とする |
振れ公差 | 部品を回転させて、そのときの外側表面における位置の変動を問題とする |
輪郭度公差 | 部品表面の外形線などが、目標からどこまで偏っていいかを問題とする |
【表1 幾何公差の全体像】
以上、幾何公差に関する基礎知識や、幾何公差を身につけるべき理由について解説しました。
また、アイアール技術教育研究所では本コラム以外にも、定期的に開催されるWebセミナーやeラーニング講座で、幾何公差を学ぶことができます。この機会にご利用してみてはいかがでしょうか?
次回は、幾何公差の一つである「形状公差」について解説します。
(アイアール技術者教育研究所 Y・D)
《参考文献・サイト》