- 機械製図「ドラトレ」シリーズ
《初心者向け》やさしい図面の書き方 最新JIS製図と図解力完成(セミナー)
2024/12/13(金)10:00~17:00
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前回の幾何公差に関する解説記事では、形状公差の種類や特徴、使い方を説明しました。
今回は、部品の角度を規制する「姿勢公差」について解説します。
部品に対して平行性や直角性などの要求がある場合は、この姿勢公差を用いるとよいでしょう。
目次
「形状公差」は形そのものを規制する幾何公差でしたが、「姿勢公差」は部品の姿勢を規制します。
部品のどこかを基準にして、その基準からの角度を問題にすることから、公差値を指示するだけでなく、基準を示すデータムを必ず指定しなければいけません。
姿勢公差などが指示される形体のことを、データムに関連するという意味で「関連形体」と呼びます。
表1のように、姿勢公差には3つの種類があります。
【表1 姿勢公差の種類】
姿勢公差によって、対象とする形体の角度精度を規制できます。
特に平行度と直角度は、比較的よく使われる幾何公差です。
「輪郭度公差」も姿勢公差として適用可能ですが、本連載では分けて扱います。
それでは、3つの姿勢公差について解説していきます。
「平行度」は、文字通り平行であって欲しいと形体に対して指示する幾何公差です。
平行度で規制できる形体は1枚の平面や1本の直線であり、その平面・直線形体を挟む平行2平面や、円筒・角柱の空間などが公差域になります(図1参照)。
【図1 平行度の公差域】
ベース上面に対して、部品を取り付ける面が平行であって欲しい場合を想定し、ベース上面と取り付け面の平行のズレは0.1mmまで許容できるとします。
この場合、図2のように基準となるベース上面にデータムを指定し、規制対象となる取り付け面に平行度を指示してください。これによって、取り付け面がベース上面に対し平行で、間隔0.1mmの平行2平面間に規制されます。
【図2 平行度の図示例と解釈①】
ブロックにあけられた片方の穴を基準として、それと平行になるように、もう一方の穴に軸を入れたい場合を考えます。基準穴に対する平行のズレは、0.1mmまで許容できるとします。
この場合、図3に示すように基準とする穴の軸線にデータムを指定し、もう一方の穴の軸線に平行度を指示するとよいでしょう。軸線が対象なので、どちらも寸法線の延長線上に指示してください。
【図3 平行度の図示例と解釈②】
図3で注意したいのは、公差値の前に直径記号φを付けていることです。
φを付けなかった場合、公差域は平行2平面の間になり、それと直角方向への変動を規制しません。
図3のようにφを付けるか、図4のように2つの平行度を指示することで、公差域は平行2平面の間ではなく角柱の空間になります。
また、このとき公差域の座標を決めるためデータム平面Bを指定する必要があります。データム軸直線Aだけでは座標という概念を持たず、公差域である角柱の方向が定まらないためです。
【図4 平行度の図示例と解釈③】
なお図4のような指示方法は、機能的にどちらか一方の公差が緩くてよかったり、それぞれの方向で公差値を変えたかったりする場合などに役立ちます。
「直角度」もその名の通り、直角であって欲しいと形体に対して指示する公差です。
平行度と同様に、規制対象は1枚の平面や1本の直線で、その平面・直線形体を挟む平行2平面や、円筒・角柱の空間などが公差域になります(図5参照)。
【図5 直角度の公差域】
L型ブラケットの下面を基準として、その面と直角に部品を取り付けたい場合を想定し、基準面からの直角のズレは0.1mmまで許容できるとします。この場合は、基準となる下面にデータムを指定し、規制対象となる取り付け面に直角度を指示してください(図6参照)。
【図6 直角度の図示例と解釈①】
図7に示されるような円筒軸と直方体が一体になった部品を例に考えてみましょう。
直方体の下面に対して円筒軸が直角であって欲しく、下面からの直角のズレは0.1mmまで許容できるとします。
【図7 直角度の図示例と解釈②】
この場合も平行度と同様に、公差値の前にφを付けるかどうかで公差域の形が変わったり、公差域の方向を考慮する必要が生じたりすることに注意してください。
φを付けない場合は1方向しか規制しません。
φを付ける場合の公差域は円筒状の空間となり、方向を気にする必要はありません。
または、2方向へ直角度を指示する必要がありますが、特に、それぞれの方向で公差値を変えたい場合などは、図8のように2方向へ直角度を指示する手法が有効です。
このときは、公差域の座標を決めるためデータム平面Aだけではなくデータム平面Bも指定してください。
【図8 直角度の図示例と解釈③】
「傾斜度」は、形体に対して指定した角度であって欲しいと要求する幾何公差です。
他の姿勢公差と同じく、規制対象は1枚の平面や1本の直線で、その平面・直線形体を挟む平行2平面や円筒空間などが公差域になります(図9参照)。
【図9 傾斜度の公差域】
基準となる下面に対し指定した角度になるよう面を規制したい場合を想定し、角度のズレは0.1mmまで許容できるとします。
基本的な指示方法は、他の姿勢公差と同様です。図10のように、基準面をデータム平面Aに指定し、角度を規制したい面に傾斜度を指示するといいでしょう。ただし、傾斜度を使う際は「理論的に正確な寸法※」を用いることに注意してください。指示する際は、角度寸法を四角で囲むようにしましょう。
【図10 傾斜度の図示例と解釈】
※「理論的に正確な寸法」とは、形体の理想の位置や長さ、角度を表す寸法のことです。姿勢公差の傾斜度、位置公差の位置度などを指示する際に使われ、寸法を四角で囲む必要があります。
傾斜度と角度公差の違いは、図11に示されるように、傾斜度の公差域がどこまでも一定であるのに対し、角度公差は傾斜の基点から遠くなるにつれ広がっていくことです。つまり、角度公差は基点から離れるほど、目標とする角度からの狂いが大きくなってしまいます。
【図11 傾斜度と角度公差の違い】
共通点としては、どちらも傾き具合だけを規制しており、傾斜面の位置は指定していないことです。
位置を問題とする「位置公差」については、次回にご説明します。
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(アイアール技術者教育研究所 Y・D)
《参考文献・サイト》