分光分析の種類(分類)と赤外分光法の概要
目次
1.分光分析とは?
「分光分析」は、光の放出或いは吸収の測定により、物質の定性と定量に用いる分析方法です。
光をエネルギー(波長)ごとに分けるということで、「分光」(spectroscopy)という言葉が用いられます。
有機物はもちろん、錯体でもよく用いられます。構造に関する情報が多く得ることができます。
2.分光分析の種類・分類
光は電場と磁場を持つ電磁波であり、物質の中を通過するとき、分子や原子の中の電子は光の振動電場に揺さぶられ、エネルギーの高い電子軌道に遷移して、高いエネルギーの電子状態に励起されます。
光子のエネルギーhνは物質のエネルギーの差と等しく、波長が短いほどエネルギーが高い事が分かります。
ΔE=hν=hc/λ
[h:プランク定数、E:エネルギー、ν:周波数、c:光速、λ:波長]
分子が吸収したエネルギーの一部(或いは全部)は分子の振動等により熱的に消耗し、残りは蛍光や燐光として放出されます。
その吸収と放射する光のスペクトルを測定することにより、分子の成分と構造を特定することができます。
光は波長に応じて、γ線からラジオ波まで、それぞれの特徴を利用した様々な分光分析があります。
例えば、「赤外光分光」は分子の振動回転を測定する方法、「可視紫外分光」は分子内電子遷移が分かる方法、「マイクロ波分光」は回転状態を観測する方法です。詳しくは表1をご参考ください。
大分類 | 小分類 | 波長 | 分光法 | |
γ線 | γ線 | 数pm以下 | ||
X線 | X線 | 数pm-数nm | X線粉末回折計 | |
光 | 紫外線 | 数nm-400nm | 可視紫外分光 /蛍光燐光分光 |
|
可視光線 | 400nm-700nm | 赤外分光光度計 /ラマン赤外分光 |
||
赤外線 | 700nm-1mm | |||
電波 | マイクロ波 | 1mm-1m | ESR | |
ラジオ波 | 1m-100km | NMR |
[表1.波長に基づく分光法]
分光法の測定装置を大別すると、光源、試料、分光器、検出器から構成されます。
また、分光光学セルは観測する波長の電磁波を吸収・干渉しない材質で作られます。
3.赤外分光法の概要
(1)赤外吸収IR(infrared spectroscopy)スペクトルとは?
赤外吸収IRスペクトルは、試料に赤外線を当てて吸収スペクトルを測定する分析法です。
分子内原子間の結合は一定の周期で伸び縮みしますが、同じ周期の光を照射すると共鳴することで、大きく伸び縮みをするようになります。
吸収した光を調べることで、結合の強さと原子の種類がわかり、これにより化学結合の種類(官能基)を決めることができます。
約100cm-1より低い振動数の赤外線は分子に吸収されて、分子回転のエネルギーに変換されます。
この吸収機構は量子化されていますので、分子の回転スペクトルは線から構成されます。
また、約10000-100cm-1の赤外線は分子に吸収されると、振動のエネルギーに変化されます。
これも量子化されて、1個の振動エネルギーの変化に伴って、多数の回転エネルギーの変化が起こりますので、振動スペクトルは帯状に現れます。
分子の振動には、伸縮と変角があります。
図1に示すように、「伸縮振動」は原子間の距離を増減するような化学結合軸に沿った周期的な運動です。
一方、「変角振動」は1個の共通原子を持った二つの化学結合間の結合角の変化です。
[図1.分子振動の種類]
(2)IRスペクトルの解析方法
赤外光吸収スペクトルは周波数(cm-1)をX軸、強度をY軸にして、赤外線の吸収状態を記録します。
4000-400cm-1の間に生じる振動吸収帯には多くの情報が含まれており、特に1300-650cm-1の領域(指紋領域)には細かい吸収が多数みられ、そのパターンは物質に固有のものです。そのため、この領域の吸収をデータベースと比較して、物質を同定することが可能です。
例えばヒドロキシ基 (O-H)、カルボニル基 (C=O) 或いはニトロ基 (NO2) などは、特徴的な強い吸収を示すため、関連官能基が配位できたかどうかが判断できます。
(3)IRスペクトルの表記方法
ピークの強度を表すときに、vs(very strong)、s(strong)、m(mediam)、w(weak)、v(variable)、br(broad) の記号を利用します。
もっとも使われるKBr錠剤法による測定結果を表記方法の例として挙げます。
- 分析手法(cm-1/KBr):測定値(ν所属官能基)
- 例:FT-IR(cm-1/KBr):測定値(νco)
ということで今回は、分光分析法の種類と、赤外分光法IRについて簡単に説明しました。
次回のコラムでは、分光分析法の続きとして、紫外可視近赤外分光法(UV-Vis-NIR 分光法)についてご紹介します。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)