【分析化学を学ぶ】紫外可視近赤外分光法(UV-Vis-NIR)とは?

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紫外可視近赤外

今回は、「紫外可視近赤外分光法」(UV-Vis-NIR分光法)を紹介します。

1.紫外可視近赤外分光法とは?

紫外可視近赤外UV-Vis-NIR分光法とは、試料に紫外 (UV, UltraViolet)、可視 (Vis, Visible)、及び近赤外 (NIR, Near InfraRed) 領域の光を照射して吸収を測定する分光法です。

通常、
紫外可視領域の測定は200-800nm程度の波長範囲
近赤外線領域までの測定は200–1500nm程度の波長範囲
となっています。

操作が簡単で、結果が直観的に分かりやすいので、広く使われている分光法です。

 

2.紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定理論

具体的な紫外可視近赤外吸収スペクトルの測定理論を図1に示します。
分光器から出た単色光は二つに分かれ、それぞれ試料を含むセルと溶媒だけのセルを透過します。

透過後の二つの光強度を II0 とすると、式1によって算出される吸光度Aを波長に対してプロットしたものを「紫外可視吸収スペクトル」と呼びます。

セル中の溶液による光吸収
[図1.セル中の溶液による光吸収]

 A=log10I0/I  ・・・式1
 ε=A/cl  ・・・式2

c は濃度、I0I はそれぞれセル内を通過する前と後の光の強度、ε はモル吸光係数、l はセル長です。

紫外可視近赤外範囲の光吸収

前回の連載コラム「分光分析の種類と赤外分光法の原理」の中でも触れましたが、紫外可視近赤外範囲の光吸収は分子内の電子遷移を引き起こします

遷移過程としては、σ→σ*遷移、π-π* 遷移、n-π* 遷移、d-d 遷移、金属-配位子間電荷移動(MLCT)、原子価間電荷移動(IVCT)などがあります。

吸収スペクトルに関して、有機物、特に芳香環化合物は紫外領域を吸収する性質を有しており、π-π* 遷移、n-π* 遷移に由来する吸収に当たります。
金属(遷移金属)錯体は様々な色を呈しており、殆どが特徴的な可視領域を吸収する性質を有しています。

また、金属は配位子との相互作用により、d-d 遷移と共に金属-配位子間電荷移動(MLCT/LMCT)、原子価間電荷移動(IVCT)に由来する吸収が顕著に観測できます。

 

3.ラマン分光法について

ここで、可視領域の光を用いた「ラマン分光法」(Raman分光法)についても簡単に説明します。

紫外線や可視光線の散乱を利用するラマン分光法により、散乱スペクトルが得られます。
紫外可視分光法と比べると、入射光は同じですが、原理的には分子の振動エネルギーを調べるという点が異なります。

なお、光は金属の中に入り込めないため、ラマン分光法は金属錯体にはあまり使われません。

 

4.紫外可視近赤外分光法の注意点

紫外可視近赤外吸収スペクトルを測定する際は、以下の点について注意する必要があります。

(1)試料の濃度

吸光度は溶液の濃度に大きく依存するため、正確なモル吸光係数を求める場合は、測定する波長の吸光度が1以下になるように溶液の濃度を調整します。
 

(2)セル

測定する波長に対するセル自身の吸収を避ける必要があります。
また、錯体は不安定種が多いため、溶液サンプルを作る際は、特製のせルを用いて、窒素雰囲気下での脱気脱水サンプルを作成することが必要となります。
例えば、筆者はセルと同じ材質の枝状の管が付いたセルを使ったことがあります。

 

5.紫外可視近赤外吸収スペクトルの解析方法

直接測定した結果は、吸光度Aを波長に対してプロットしたデータです。
チャートの形は変わらないですが、式2による吸光度から測定物のモル吸光係数を計算して、波長に対するプロットを出すのが通常です(図2)。

吸収スペクトルの解析
[図2.吸収スペクトルの解析]

 
以上、今回は紫外可視近赤外分光法(UV-Vis-NIR分光法)の基本的な知識を解説しました。
 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・L)

 

 

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