3分でわかる技術の超キホン テラヘルツ波とは?特徴/課題/用途などを解説

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テラヘルツ波の基礎と用途展開

第6世代移動通信システム、所謂6Gの実装に向け、大手携帯通信キャリアはテラヘルツ波で展開するなどと漏れ伝わってくる昨今、テラヘルツ波という言葉を聞いたことがある方も増えてきているかと思います。
それでも、テラヘルツ波って具体的に何?本当に役に立つの?という疑問をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか?

今回は、テラヘルツ波の基礎知識と6Gの実装より先に実用化が進んでいる用途展開などを簡単に解説します。

1.テラヘルツ波とは?

テラヘルツ波」は、携帯電話や電子レンジに使用される電波、我々が目に感じる可視光、TVリモコンに使われる赤外線、レントゲンに使われるX線などと同じ電磁波の一種です。

図1には各電磁波の名称と周波数、波長の関係を示しています。
電波も光も同じ電磁波ですが、電波は周波数で区分され、光は波長で区分されるのが一般的です。
 

各電磁波の周波数帯と主な用途
【図1 各電磁波の周波数帯と主な用途】

 

我々が目にする可視光線は、およそ380nmから700nm程度の極めて短い波長範囲の電磁波に相当します。
テラヘルツ波の周波数帯は明確に定義されていませんが、図1に示す通りおよそ0.1 THz(=100 GHz、1THzは1012 Hz)から10 THzの範囲とされる場合が多いようです。

一般に、電波を扱う技術領域と光を扱う技術領域では技術的な接点が少ないことから、互いの技術分野の開発者からテラヘルツ波は扱いにくい周波数帯(波長帯)として敬遠され、長らく未開拓な領域となっていました。

 

2.テラヘルツの特徴

テラヘルツ波の周波数帯は、図1からも分かる通り電波の周波数帯と光の周波数帯の境界付近であることから、テラヘルツ波は電波と光の特徴を兼ね備えた電磁波と言われています。

テラヘルツ派の長所(メリット)は主な以下の通りです。

  • 透過性: 表面で散乱しにくいため、電波のように、紙、プラスチック、セラミック、木材、繊維などを透過しやすい。
  • 直進性: レーダー光線のような直進性を持ち、ミラー反射、レンズ集光などの従来の光学技術を適応可能。
  • 吸収性: 分子間結合や共有結合などとの特定周波数での共鳴により電磁波エネルギーが吸収される。
  • 安全性: X線、γ線などの放射線に比べて極めて低エネルギー(X線の100万分の1程度)であるため、人体への被爆の心配なし。

これに対して、テラヘルツ波の短所(デメリット)としては、次のような点を挙げることができます。

  • 低空間分解能: 光よりも長波長のため空間分解能が低い。ただし、電波よりは高分解能。
  • 検出感度: 光としては低エネルギーなので従来の光検出技術では低感度。電波としては高周波なので従来の電波検出技術でも低感度。

 

3.6G活用への課題

移動体通信の次世代規格6Gの社会実装は2030年ごろと想定され1)、テラヘルツ波を利用するシステムの開発も大手キャリアやNICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)などを中心に進められているようです。2)
ただし、情報通信に関するルールを定める国連の専門機関として国際電気通信連合(ITU)がその役を担っていますが、ITUで6Gの周波数の分配や情報通信の標準化まとめるまでには今しばらく時間がかかりそうです。

従って、6Gにテラヘルツ波が実装されるかどうかは定かでないことから、ここではテラヘルツ波技術が6Gに活用される上で解決すべき大きな課題を挙げるだけに留めておきます。

いずれも、光と電波の性質を兼ね備える電磁波であるテラヘルツ波の本質的な性質に基づく課題なので、実用化のためには避けて通れないと考えられます。

  • (1) 増幅器: テラヘルツ波を増幅できる半導体増幅器の実装が必要。
  • (2) 低損失回路基板: 既存の回路基板や導波路ではエネルギー損失が大きい。
  • (3) アンテナ: 既存のビームフォーミング技術ではアンテナが高コストで大型になる。
  • (4) 発信機: 一般的な水晶発振器でテラヘルツ波発生困難。

 

4.6G以外での用途展開

テラヘルツ波は前述の特徴である、透過性、直進性、吸収性、安全性を活かし、情報通信以外の分野でも様々な展開が期待されています。
一部はすでに実用化されていますが、テラヘルツ波技術の応用分野の例を図2に示しています。

 

テラヘルツ波技術の応用分野
【図2 テラヘルツ波技術の応用分野】

 

テラヘルツ波の透過性を活かして内部の非破壊検査、テラヘルツ波の直進性つまりレンズ集光可能な特性を活かしてトモグラフィ、テラヘルツ波の特性周波数吸収を活かしての成分分析など、分析・検査領域への応用展開が進んでいます。

特に、テラヘルツ波分光あるいは分光イメージングとして用途展開が進んでいますが、生体を構成している有機分子を始め、多くの分子がテラヘルツ帯で特有の共鳴吸収を有していることが大きな理由の一つです。

図3にはこの手法で用いることができる分子運動のおおよその共鳴周波数帯を示しています。

 

テラヘルツ波の周波数帯域と分子運動の共鳴周波数の関係
【図3 テラヘルツ波の周波数帯域と分子運動の共鳴周波数の関係】

 

5.テラヘルツ時間領域分光

最も広く普及しているテラヘルツ波分光は、テラヘルツ時間領域分光THz-TDS ; Terahertz Time Domain Spectroscopy)です。
テラヘルツ波が測定サンプルを透過した時のテラヘルツ波の時間波形と、リファレンスでのテラヘルツ波の時間波形とを検出し、それぞれの検出信号をフーリエ変換することによってテラヘルツ波の振幅と位相の情報を得ることができます。得られたスペクトルを解析することによって、測定サンプルの物性を特定することができます。

テラヘルツ時間領域分光の測定イメージを図4に簡単に示しています。

 

テラヘルツ時間領域分光の光学系模式図
【図4 テラヘルツ時間領域分光の光学系模式図】

テラヘルツ分光イメージングでは、XYステージなどを用いて図4の中のサンプルを走査したり、テラヘルツ波をサンプルに対して走査したりするなどして、THz-TDSの測定を2次元的に行います。得られたデータの解析結果を2次元的に出力することによって分光イメージングを得ることができます。
テラヘルツ時間領域分光についてのさらに詳しい原理や測定結果については、文献などを参考にすると良いでしょう。3)

 

6.今後のテラヘルツ波に関する技術動向に注目

以上、簡単ですがテラヘルツ波の特性と用途展開について説明しました。

また、今回のコラムでは触れていませんが、テラヘルツ波発生デバイスである共鳴トンネルダイオードを1個の半導体チップに36個集積してアレイ化に成功したと日本のメーカーから発表がありました。4)
従来比約1000分の1のサイズに小型化したにも拘らず、従来比10倍の出力を達成し、従来比20倍の指向性も実現したとされています。

テラヘルツ波は次世代のセキュリティシステムや情報通信技術などへの応用展開の期待がますます高まっています。テラヘルツ波技術の今後の進展に更に注目していきたいところです。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 F・F)
 


《引用文献・参考文献》

  • 1)総務省「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」の公表
    https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000364.html
  • 2)例えば、ソフトバンク株式会社「Beyond 5G/6Gに向けて、テラヘルツ波を活用した屋外での通信エリア構築の検証に成功」(プレスリリース)
    https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2022/20221025_03/
    国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)「Beyond 5G/6Gに向けたテラヘルツ無線通信用のアンテナの開発に成功」 など
    https://www.nict.go.jp/press/2020/06/18-1.html
  • 3)例えば、深澤亮一, 精密工学会誌, 82, 213-216, 2016、など
  • 4)Koyama, Y., Kitazawa, Y., Yukimasa, K., Uchida, T., Yoshioka, T., Fujimoto, K., Sato, T., Iba, J., Sakurai, K., Ichikawa, T. IEEE Trans. Terahertz Sci. Technol., 12, 510-519, 2022

 

 

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