EVモータを支える省Nd磁石とは?ネオジム使用量の低減と次世代磁石開発の動向

1.EVモータの高性能化と省Nd磁石への期待
地球規模でカーボンニュートラルへの取り組みが進む中、自動車産業は「100年に一度」ともいわれる大きな変革期を迎えています。その中核を担う電気自動車(EV)では、航続距離の延長とエネルギー効率の向上が重要な課題となっています。この課題解決の鍵を握る部品の一つが、電気エネルギーを機械的な回転力へと変換するモータです。そして、EV用駆動モータの小型化・高出力化に大きく貢献している材料が、ネオジム磁石です。
ネオジム磁石は、実用化されている永久磁石の中でも最大エネルギー積が極めて高く、小型・軽量で高出力なモータの実現に大きく貢献しています。しかし、ネオジム(Nd)を含む希土類(レアアース)は、埋蔵地域が偏在していることによる地政学的な調達リスクや、価格変動の激しさといった課題を抱えています。
こうした背景から、自動車メーカーや材料メーカーでは、ネオジムの使用量を抑えながら高い磁気特性を維持する「省Nd磁石」や、それを用いたモータの開発が進められています。
本稿では、省Nd磁石モータの基礎知識、技術動向、今後の展望について解説します。

【図1 レアアースの種類】
2.EVモータにおけるネオジム磁石の役割
(1)EVモータの必要特性とモータ磁石特性
EVモータの必要特性と、それに対して求められるモータ磁石特性について図2にまとめました。

【図2 EVとモータ磁石特性】
- 高残留磁束密度: モータのトルクは磁石が生み出す磁束の大きさに大きく影響されるため、小型で高いトルクを得るには高い残留磁束密度をもつ磁石が有利です。
- 高保磁力: モータは作動時に高温になり、強い逆磁界も発生します。これらにさらされても磁力が低下しにくい、すなわち減磁しにくい特性が必要です。
これらに加え、車両において広い温度領域で性能を発揮することと、熱・振動に対して高い機械的強度・耐久信頼性をもつことが求められます。
(2)EV用モータへのネオジム磁石の適用
「ネオジム磁石」(Nd-Fe-B磁石)とは、1982年に日本の佐川眞人博士らによって発明された、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)を主成分とする希土類磁石です。
その最大の特徴は、極めて高い磁束密度と保磁力を両立している点にあります。最大エネルギー積はフェライト磁石を大きく上回り、モータを大幅に小型化することを可能にしました。
[※関連記事:なぜネオジム磁石は最強なのか?原理と用途をわかりやすく解説 ]
現在、多くのEVおよびハイブリッド車(HEV)の駆動用モータには、ネオジム磁石を用いた永久磁石同期モータ(PMSM、Permanent Magnet Synchronous Motor)が採用されているとされています。
特に、ローターの内部に磁石を埋め込むIPMモータ(IPM:Interior Permanent Magnet)は、磁石の吸引力(マグネットトルク)と、鉄心の磁気抵抗差を利用したリラクタンストルクの両方を活用できるため、EVに求められる高効率化や高回転域での運用に適した方式として広く用いられています。(図3,4)

【図3 同期モータの種類】

【図4 IPM交流同期モータの構造】
EVにおいて、ネオジム磁石のように高い磁気特性をもつ磁石を用いると、同じ出力を得るために必要な電流を抑えやすくなります。その結果、銅損などの損失を低減でき、システム全体の効率向上、すなわち電費の改善につながります。
(3)ジスプロシウムとの組み合わせ
ネオジム磁石は高い磁力を持つ一方、車両に適用するには弱点があります。
それは、高温環境下で磁気特性が低下しやすく、特に保磁力が不足すると逆磁界によって不可逆減磁を起こすおそれがある点です。EVの駆動モータでは、高負荷運転時に磁石周辺が高温環境にさらされるため、150℃級、場合によってはそれ以上の耐熱性が求められることがあります。
この耐熱性を補うために添加されるのが、重希土類元素であるジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)です。これらを微量添加することで、高温下でも高い保磁力を維持できるようになりますが、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)もネオジム(Nd)と同様にレアアースです(図1)。
これらはネオジムよりも供給量が限られ、特定地域への依存度も高いため、資源安定調達の観点から大きな課題となっています。そのため、添加量をさらに低減する技術開発が求められています。
3.他のEVモータ用磁石との比較
EVモータには、ネオジム磁石以外にもフェライト磁石やサマリウムコバルト磁石(サマコバ磁石、SmCo磁石)などが検討されることがありますが、性能面で一長一短があります。
(1)磁石としての特性
三種類の磁石について、磁石としての特性を比較したものを表1に示します。
【表1 ネオジム磁石/フェライト磁石/サマリウムコバルト磁石の特性比較】
| 特性項目 | ネオジム磁石(Nd-Fe-B) | フェライト磁石 | サマリウムコバルト磁石 |
| 磁束密度 | ・極めて高い ・小型で強大なトルクを発生可能 |
・低い ・ネオジムの1/3~1/4程度 |
・高い |
| キュリー温度 | ・低い(約310℃) ・高温では磁気特性が低下しやすい |
・高い(約450℃) ・温度変化に強い |
・非常に高い(約700~800℃) ・高温耐性が抜群 |
| 機械的 強度 |
・抗折強度(曲げ)250~400 MPa | ・抗折強度(曲げ)50~90 MPa | ・抗折強度(曲げ)120~180 MPa ・非常に脆く、チッピング(角欠け)が起きやすく、加工時や組込時の取り扱いに注意を要する |
| その他 | ・酸化しやすく、防錆コーティング(ニッケルメッキ等)が必須 | ・錆びに強い ・安価 |
・耐食性が高い ・高価なコバルトを使用 |
「キュリー温度」とは、強磁性体(磁石)がその磁性を完全に失い、常磁性体へと変化する境界の温度のことです。
EVモータ用磁石では、キュリー温度だけでなく、実使用温度域における残留磁束密度や保磁力の温度特性、逆磁界に対する不可逆減磁耐性が重要です。高温環境で磁気特性が低下しやすい場合、冷却設計や磁石グレードの選定が厳しくなり、コストや重量に影響することがあります。
ネオジム磁石では、耐熱性、特に高温での保磁力を高めるために、ジスプロシウムやテルビウムが添加されることがあります。
(2)コスト/調達安定性
EVではモータコストをはじめコスト低減が重要な課題ですが、ネオジム磁石の最大の問題は、コストが不安定で変動しやすいことです。主原料のネオジムは、軽希土類に分類されるものの、精製過程での環境負荷や供給過多・不足のバランスが崩れやすく、価格が数年で数倍に跳ね上がるリスクがあります。さらに、耐熱性を付与するジスプロシウム(重希土類)は戦略物資としての側面が強く、経済安全保障上の大きなリスクとなっています。
これに対して、フェライト磁石は安価で安定していますが、EVの駆動用モータで同等の出力密度を得ようとすると、モータが大型化しやすく、車両レイアウト上の制約が大きくなります。また、重量増加は車両の電費悪化にもつながります。
図5は、特性の違いのイメージを得やすくするため、フェライト磁石を基準として、サマリウムコバルト磁石、ネオジム磁石の三種類の磁石を比較して模式的に示したものです。

【図5 フェライト磁石との比較】
EV用としての視点では、フェライト磁石はコストが安いため、低価格帯車両用のモータや補機類用に使用されます。機械的強度が低いため、高速回転する主機モータに使用する場合は、磁石が飛散しないよう構造体による強固な保持設計が求められます。
サマリウムコバルト磁石は耐熱性が極めて高いため、高温環境での使用が想定される高性能車(スポーツカーなど)向けモータなどでされることがあります。
[※関連記事:主な希土類磁石と合金磁石の特性・用途を比較解説 (サマコバ/ネオジム/アルニコ)]
4.省Nd磁石に向けた技術開発の方向性
ネオジム使用量低減と重希土類元素削減の技術開発アプローチは、大きく分けて、以下図6に示す3つのアプローチに集約されます。

【図6 省Nd化と重希土類元素削減の技術開発アプローチ】
- ① 粒界拡散技術(GBD: Grain Boundary Diffusion)
これは、磁石全体にジスプロシウムを混ぜるのではなく、磁石の結晶粒の境界(粒界)にのみ効率的に拡散させる技術です。これにより、ジスプロシウムの使用量を大幅に削減しつつ、同等レベルの耐熱保磁力を確保することが可能になります。 - ② 微細結晶組織制御
結晶粒を微細化し、粒界相や結晶配向を制御することで、磁化反転の発生や進展を抑え、保磁力を高める研究開発が進められています。熱間加工磁石は、その代表的なアプローチの一つです。 - ③ 元素置換技術(セリウム、ランタンの活用)
希少なネオジムの一部を、レアアースの中でも比較的豊富で安価なセリウム(Ce)やランタン(La)で置き換える技術です。単純に置き換えると磁力が低下しますが、結晶構造を工夫することで、性能低下を最小限に抑えながら、ネオジムや重希土類元素の使用量を削減した磁石の実現が期待されています。
5.省Nd磁石の開発・実用化に向けた各社の取り組み
省Nd磁石や重希土類低減磁石の開発は、一部で実用化が進むとともに、各社で次世代技術の開発が活発化しています。
- トヨタ自動車:
2018年に「新型耐熱ネオジム磁石」を開発したと発表しました。これはネオジムの一部を比較的豊富なランタンとセリウムに置き換え、さらに独自の粒界拡散技術を組み合わせることで、ネオジムの使用量を削減しつつ、高温下での性能を維持するものです。 - ホンダ・大同特殊鋼:
重希土類を全く使用しない(重希土類フリー)熱間加工ネオジム磁石を開発し、ハイブリッド車「フリード」などに採用しました。これは熱間加工による結晶配向技術を駆使した画期的な事例です。 - プロテリアル(旧:日立金属):
高性能ネオジム磁石ブランド「NEOMAX」を展開しており、重希土類元素の使用量低減や高耐熱化に関する技術開発を進めています。 - テスラ:
テスラは2023年の「Investor Day」において、次世代駆動ユニットで希土類元素を使用しない永久磁石モータを目指す方針を示し、業界に大きなインパクトを与えました。これは、省Ndの延長線上にある「脱レアアース」への挑戦といえます。
6.まとめ
省Nd磁石モータの開発は、単なる材料コストの削減にとどまらず、EVの普及を支えるサプライチェーン強靭化、資源リスク低減、そして高効率化に関わる重要な技術テーマです。
ネオジム磁石が持つ高い磁気エネルギー密度を活かしながら、ジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類元素の使用量を削減し、さらにセリウムやランタンなど比較的豊富な元素を活用することで、より安定した磁石供給体制の構築が期待されます。
今後は、磁石材料そのものの開発に加えて、モータの磁気回路設計、冷却技術、制御技術を含めたシステム全体での最適化が重要になります。資源制約という課題に対しては、ネオジム使用量を抑える「省Nd磁石」だけでなく、ネオジム磁石に依存しない「ポストネオジム磁石」の開発も重要な選択肢として検討されています。
省Nd磁石とポストネオジム磁石の両面から技術動向を捉えることは、今後のEVモータや高効率駆動システムの方向性を理解するうえで重要です。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 H・N)


































