インホイールモータの構造・仕組み、メリットと技術課題をわかりやすく解説

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EVの既成概念を覆す「インホイールモータ」の真価

自動車の電動化が加速する中、モータ、インバータ、減速機を一体化した「eAxle」は、現在の電動車両における主要な駆動システムの一つとなっています。
その一方で、車両レイアウトの自由度をさらに高め、車両運動制御の高度化を実現する技術として注目されているのが「インホイールモータIWM)」です。インホイールモータは、車体側に集中していた駆動機能を各車輪側へ分散配置し、ホイール内部またはその近傍で駆動力を発生させる方式です。

ドライブシャフトやディファレンシャルギアを不要または簡素化できるため、車両パッケージングの自由度向上や、各輪独立トルク制御による運動性能の向上が期待されています。一方で、バネ下重量の増加、耐環境性、冷却、コスト、機能安全など、量産車への本格普及には解決すべき課題も少なくありません。

本記事では、インホイールモータの基本構造、技術的特徴、メリット・デメリット、安全設計上の論点、今後の展望について解説します。

1.インホイールモータの動作原理と構造

インホイールモータは、限られたホイール内の空間にモータを配置し、必要に応じて減速機、ブレーキ機構、冷却機構などと組み合わせる駆動ユニットです。
従来の電動駆動方式では、車体側に搭載したモータの駆動力を減速機やディファレンシャル、ドライブシャフトを介して車輪へ伝達します。
これに対して「インホイールモータ」は、モータの出力軸が直接、あるいは内蔵の減速機を介してホイールを駆動するタイプです。

 

(1)基本構造

インホイールモータは、主に「アウターロータ型」と「インナーロータ型」および「アキシャルギャップ型」の3つに大別されます。

  • アウターロータ型
    ステータの外側にロータを配置する構造です。大径化しやすく、同じ電磁力でも大きなトルクを得やすいため、低速・高トルクが求められるインホイールモータと相性がよい方式です。
  • インナーロータ型(減速機併用):
    内側が回転するオーソドックスな構造で、小型の減速機(遊星ギア等)と組み合わせて高回転・高出力を実現します。デメリットとして、ギアボックスを内蔵するため、部品点数が増え、システム全体の重量や摩擦損失(フリクション)が増加する傾向にあります。
  • アキシャルギャップ型
    磁束が回転軸に対して平行(Axial)に流れる構造です(一般的なモータは軸に対して放射(半径)方向に流れるラジアルギャップ型)。モータの軸方向寸法を抑えやすい扁平構造が強みです。薄型化しやすく、適切な冷却構造を組み合わせれば高い出力密度を狙えるため、IWMのような軸方向スペースが限られる用途で有望です。しかし、磁気吸引力が軸方向に強く働くため、軸受(ベアリング)の耐久性と精度の高い組み立てが求められます。

 

(2)駆動方式

駆動方式としては、高トルク密度・高効率を得やすい「永久磁石同期モータPMSM)」が有力です。

[※関連記事:PMSM(永久磁石同期モータ)とは?原理・構造・特徴、EVに採用される理由を解説

一方で、レアアース磁石のコストや供給リスクを抑える観点から、磁石を用いない「スイッチドリラクタンスモータSRM)」などの研究開発も進められています。

 

インホイールモータの基本構造と駆動方式
【図1 インホイールモータの基本構造と駆動方式】

 

2.インホイールモータの技術的特徴

技術者視点で見た大きな利点の一つが、「4輪独立トルク制御」による車両運動性能の向上です。
その一方で、普及を阻む要因は、主に信頼性、コスト、そして「バネ下重量」に集約されます。

 

(1)インホイールモータのメリット

  • トルクベクタリング
    各車輪の駆動トルクを電気的に高速制御できるため、左右輪のトルク差を利用したトルクベクタリングにより、旋回性能や車両安定性の向上が期待できます。
  • パッケージングの自由度
    ドライブシャフトやディファレンシャルギアを不要または簡素化できるため、フロア設計の自由度が高まり、超小型車両や特殊形状車両の設計にも有利になります。
  • 動力伝達損失の低減
    動力伝達経路を最短化することで機械損失を低減し、電費性能の向上が期待できます。

 

(2)インホイールモータのデメリット

  • バネ下重量の増加
    モータを車輪側に配置するとバネ下重量が増加し、路面入力に対するサスペンションの追従性が低下しやすくなります。その結果、乗り心地、接地性、操縦安定性に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対して、軽量モータ、サスペンション設計の最適化、アクティブ制御などによる対策が検討されています。
  • 過酷な動作環境
    常に路面からの大きな衝撃・振動、水、泥、塩害、ブレーキ熱に曝されるため、高度なシーリング技術、防振設計、耐熱設計が必須です。
  • 信頼性と冗長性
    1輪のみで駆動力喪失、意図しない駆動トルク、回生制動異常などが発生した場合、車両姿勢に大きな影響を与える可能性があります。そのため、故障検出、トルク制限、冗長制御、フェイルセーフ設計が重要になります。
  • コスト増
    各駆動輪にモータを配置するため、モータ、パワーエレクトロニクス、センサ、配線、防水・防塵構造などの部品点数が増えやすく、量産効果を得るまではコスト面で不利になりやすいです。

 

バネ下重量増加とその対策
【図2 バネ下重量増加とその対策】

 

3.安全設計と関連する国際規格

インホイールモータを量産車に適用する場合、単にモータ性能を高めるだけでなく、車両全体としての安全性を確保する設計が求められます。特に重要となるのが、機能安全、電気安全、SOTIF、EMC、耐環境性への対応です。

機能安全については、道路車両のE/Eシステムに関する機能安全規格であるISO 26262の考え方が重要になります。インホイールモータでは、各輪の駆動トルクを独立して制御できる一方、1輪のみで駆動力喪失、意図しない駆動トルク、回生制動異常などが発生した場合、車両姿勢に大きな影響を与える可能性があります。そのため、故障検出、トルク制限、冗長制御、フェイルセーフ設計が重要です。

また、高電圧系を扱う電動車両として、ISO 6469シリーズに代表される電気安全への配慮も必要です。感電保護、絶縁、蓄電システム、安全遮断など、車両全体の高電圧安全設計と整合させる必要があります。

さらに、IWMによるトルクベクタリングや車両運動制御がADAS・自動運転機能と連携する場合、ISO 21448、いわゆる「SOTIF」の観点も重要になります。故障がない状態でも、制御仕様の不足、想定外の走行環境、システム間の協調不足によって危険な挙動が生じる可能性があるため、シナリオベースでの安全性検証が求められます。

加えて、ホイール近傍に高電圧・大電流の駆動系を配置するため、ABS、車輪速センサ、ブレーキ制御系、通信線などへのノイズ干渉を抑えるEMC設計も重要です。泥水、塩害、飛石、振動、ブレーキ熱に対する耐環境設計も、インホイールモータ特有の重要課題となります。

 

4.将来展望: 特定用途からのパラダイムシフト

IWMは、全ての乗用車を置き換えるものではなく、まずはその特徴が活きる分野から普及が始まると予想されます。具体的には、駆動系の小型化、各輪独立制御、低床化といったIWMの利点が直接価値につながる用途で、先行的な採用が進むと考えられます。

  1. ラストワンマイル・モビリティ: 超小型EVや自動配送ロボットにおける空間効率の最大化。
  2. 特装車・建設機械: 独立駆動が必要な極地用車両や、低床化が必須なバス・福祉車両。
  3. ハイパフォーマンス・スポーツ: トルクベクタリングによる「曲がる」性能を追求した高性能車市場。

今後の自動運転やMaaS向け車両においても、IWMは有力な選択肢の一つになる可能性があります。特に、床下にバッテリーや制御系を集約するスケートボード型プラットフォームでは、IWMを採用することで駆動系レイアウトの自由度をさらに高められる可能性があります。
また、将来的には、電力供給・通信・冷却・制御系のさらなる統合により、より独立性の高い駆動ユニットへ発展する可能性もあります。ただし、大電力伝送や信頼性確保には多くの技術課題が残されています。

 

5.おわりに

インホイールモータは、単なる「駆動源の移動」ではなく、「クルマのカタチと動きを再定義する」技術であり、「車両運動制御のデジタル化」をさらに進化させる技術です。
バネ下重量や信頼性といった物理的な壁は依然として高いものの、パワー半導体の進化や新材料の開発、制御技術の高度化により、実用化に向けた技術的蓄積は着実に進んでいます。
電動化と車両制御技術が進化する中で、インホイールモータは次世代モビリティの設計自由度と運動性能を高める有力な技術として、今後も開発動向が注目されます。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)
 

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