ネオジム磁石は代替できるのか?レアアース依存を低減する注目技術を解説

現代の私たちの生活は、目に見えないところで多くの技術によって支えられています。その中でも、電気エネルギーを動力に変換するモーターや、機械的な動力を電気エネルギーに変換する発電機は、社会インフラから身の回りの家電製品に至るまで、欠かすことのできない重要なデバイスです。そして、多くのモーターや発電機で性能を左右する中核部品の一つが「永久磁石」です。
実用化されている永久磁石の中で“最強”と呼ばれるのが「ネオジム磁石」であり、ハイブリッド自動車や電気自動車(EV)、風力発電機など、脱炭素社会の実現に向けたキーテクノロジーに不可欠な存在となっています。しかし、その圧倒的な性能の裏で、原料となるレアアース(希土類元素)の偏在や価格高騰など、持続可能な供給に向けて様々な懸念が顕在化しつつあります。
本記事では、ネオジム磁石が抱える現状の課題を整理するとともに、次世代の持続可能な社会を支える「ネオジム代替技術の現状と展望」について詳しく解説します。
目次
1.ネオジム磁石とは
「ネオジム磁石」は、1982年に日本の研究者である佐川眞人博士らによって発明された、現在実用化されている中で最も強力な永久磁石です。主成分はネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)であり、化学式ではNd2Fe14Bと表されます。この磁石の最大の特徴は、小さな体積で非常に強力な磁場を生み出すことができる点にあります。
磁石の性能を示す重要な指標として、「飽和磁化」と「保磁力」があります。飽和磁化とは、外部から強力な磁界をかけたときに磁石が持つことができる磁力の最大値(どれだけ強い磁力を持てるか)を指し、保磁力とは、外部から逆向きの磁界をかけられたり、熱などの影響を受けたりしても、磁力を維持し続ける能力(どれだけ磁力を手放さないか)を指します(図1)。
ネオジム磁石は、鉄を主成分とすることで極めて高い飽和磁化を実現しつつ、ネオジムの4f電子に由来する強い結晶磁気異方性によって、磁化の向きが特定の結晶軸方向に保たれやすくなり、高い保磁力も兼ね備えることに成功しました(表1)。

【図1 ヒステリシス曲線(磁化曲線)】
| 種類 | 磁束密度の目安(T) | 保磁力(kA/m) |
| ネオジム磁石 | 1.30 | 1500 |
| フェライト磁石 | 0.40 | 250 |
【表1 ネオジム磁石とフェライト磁石の比較】
この圧倒的な磁気特性により、モーターの小型化、軽量化、高効率化が飛躍的に進みました。かつては大きく重かったモーターが、指先に乗るほどのサイズで強力なパワーを生み出せるようになったのは、ネオジム磁石の恩恵です。
現在では、スマートフォンのバイブレーション機能、ハードディスクドライブの駆動部、エアコンのコンプレッサーから、最先端のEVの駆動用モーターに至るまで、多岐にわたる分野で利用されており、現代社会を根底から支える縁の下の力持ちと言えるでしょう。
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2.ネオジム磁石の課題
現代社会に不可欠なネオジム磁石ですが、その利用拡大に伴い、いくつかの深刻な課題が浮き彫りになってきています。最大の課題は、主原料であるレアアースの調達に関する問題です。
(1)レアアースの供給リスク
ネオジム磁石の主成分であるネオジムは、「軽希土類」と呼ばれる比較的産出量の多いレアアースに分類されます。しかし、問題はその採掘、分離・精製、磁石製造などが特定の国、特に中国に極端に集中している点にあります。
中国は世界のレアアース生産において大きな割合を占めているだけでなく、分離・精製や磁石製造の工程でも強い影響力を持っています。そのため、地政学的な変動や輸出規制などによって、安定的な調達が脅かされる「供給リスク」が常に付きまといます。過去にも、外交上の摩擦からレアアースの輸出制限が実施され、世界中の産業界に大きな影響を与えた事例があり、特定の国に依存するサプライチェーンの脆弱性が強く認識されています。
[※関連記事:3分でわかる 希土類金属(レアアース)の基礎知識・要点解説 ]
(2)高温環境での性能低下
ネオジム磁石の弱点の一つに、高温環境で磁力が低下しやすいという点があります。ネオジム磁石は常温付近では非常に高い磁気特性を示しますが、温度が上がると保磁力が低下し、使用条件によっては不可逆減磁を起こすことがあります。不可逆減磁とは、冷却しても元の磁力に戻らない磁力低下のことです。
EVの駆動モーターなど、激しく発熱する環境下でネオジム磁石を使用するためには、この高温減磁を抑える必要があります。そのため、高温用途のネオジム磁石では、ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重希土類を添加し、保磁力を高める方法が用いられてきました。これらを加えることで、高温でも磁力を維持しやすくなります。
(3)重希土類への依存とコスト上昇
しかし、これらの重希土類は軽希土類であるネオジム以上に地殻中の存在量が少なく、採掘可能な鉱床もさらに限られた地域に偏在しています。そのため、供給リスクが極めて高く、価格の乱高下も激しいのが現状です。
EV市場の急拡大に伴い、高性能な永久磁石の需要は今後さらに増加すると予想されています。特に高温環境で使用されるモーターでは、重希土類によって保磁力を高めたネオジム磁石が必要とされる場面も多く、このまま重希土類への依存度が高い状態が続けば、モーターの製造コストが上昇し、EVや再生可能エネルギー関連機器の普及の足かせになりかねません。
[※関連記事;EVモータを支える省Nd磁石とは?ネオジム使用量の低減と次世代磁石開発の動向 ]
このように、ネオジム磁石は非常に優れた性能を持つ一方で、レアアースの供給リスク、高温環境での性能低下、重希土類への依存といった複数の課題を抱えています。
3.主なネオジム代替技術
前述した深刻な供給リスクやコスト高騰の懸念を背景に、世界中の研究機関や企業において、レアアースの使用量を減らす、あるいは全く使用しない「ネオジム代替」技術の開発が急ピッチで進められています。
ここでは、現在注目を集めている主要な代替磁石技術について、その特徴や開発状況を解説します。
(1)鉄ニッケル(Fe-Ni)超格子磁石
近年、次世代の革新的なネオジム代替磁石候補として大きな期待を集めているのが、鉄ニッケル(Fe-Ni)超格子磁石です。これは、宇宙から飛来する隕石の中にわずかに含まれる「テトラタナイト(tetrataenite)」と呼ばれる鉱物と構造を人工的に再現しようとする磁石材料です。鉄とニッケルという、地球上に極めて豊富に存在する比較的入手しやすい元素を主成分として構成されているため、レアアースを全く必要とせず、究極のレアアースフリー磁石候補と言えます。
テトラタナイトは、鉄原子とニッケル原子が規則正しく交互に並んだ「超格子構造」をとることで、優れた磁気特性を発揮します(図2)。しかし、自然界においてこの規則的な構造が形成されるには、宇宙空間で数百万年から数億年という途方もない時間をかけて金属が徐々に冷却される必要があります。そのため、人工的に短い時間でこの構造を作り出すことは長らく不可能とされてきました。
しかし近年、日本の研究チームなどが特殊なプロセスを用いることで、人工的にテトラタナイト構造を短時間で形成する合成手法が報告され、大きなブレイクスルーをもたらしました。まだ量産化には至っていませんが、もし実用化されれば、磁石産業の勢力図を根本から塗り替えるポテンシャルを秘めています。

【図2 テトラタナイトの超格子構造】
(2)サマリウムコバルト(SmCo)磁石
サマリウムコバルト磁石は、ネオジム磁石が発明される以前の1970年代から実用化されていた、レアアース磁石の先駆けとも言える存在です。サマリウム(Sm)とコバルト(Co)を主成分とします。
図3に示す通り、サマリウムコバルト磁石は、六方晶系の構造を持っています。紫色の大きな球がサマリウム(Sm)、青色の小さな球がコバルト(Co)です。1つのSm原子に対して5つのCo原子が規則正しく配列(SmCo5)することで、美しい層状構造を作ります。この構造の縦方向の軸を「C軸」と呼びます。
レアアースであるサマリウムの働きにより、内部の磁気(矢印)はこのC軸方向に向きを極めて強く固定される性質を持っていて、この性質により磁性を発現します。これを「結晶磁気異方性」と呼びます。

【図3 サマリウムコバルト磁石の結晶構造】
サマリウムコバルト磁石は、最大エネルギー積(磁石の強さの総合的な指標)ではネオジム磁石に一歩譲りますが、ネオジム磁石を大きく凌駕する優れた高温耐性を有しているのが最大の特徴です。そのため、ジェットエンジンの周辺や宇宙航空分野、あるいは特殊な産業用モーターなど、極端な高温環境下では現在でも不可欠な素材として使われています。
[※関連記事:主な希土類磁石と合金磁石の特性・用途を比較解説 (サマコバ/ネオジム/アルニコ)]
近年、ネオジム磁石における重希土類の供給リスクが高まる中、高温での用途においてネオジム磁石の代替としてサマリウムコバルト磁石の価値が再評価されており、より磁力を高めるための改良研究も進められています。ただし、主成分であるコバルトもまたレアメタルであり、価格変動リスクや供給リスクがある点には留意が必要です。
(3)Sm-Fe-N磁石
Sm-Fe-N(サマリウム・鉄・窒素)磁石は、第3のレアアース磁石として1990年代に日本の研究者によって発明されました。サマリウムと鉄の合金に窒素を侵入させることで作られます。この磁石は、潜在的な性能としてはネオジム磁石に匹敵するか、あるいはそれを超える可能性を秘めており、特に耐食性(錆びにくさ)においてはネオジム磁石よりも優れています。
この磁石はサマリウム(Sm)と鉄(Fe)で作られた格子の隙間に、窒素原子(N)が入り込んだ結晶構造を持っています(図4)。窒素が入り込むことで結晶全体が押し広げられ(格子膨張)、これによりFe同士の距離が広がり、磁石としての力が大きく向上します。

【図4 Sm-Fe-N磁石の結晶構造】
しかし、Sm-Fe-N磁石には大きな弱点があります。それは「焼結性」が極めて悪いという点です。
強力な磁石を作るためには、微細な磁石の粉末を高温で焼き固める「焼結」というプロセスが一般的ですが、Sm-Fe-N磁石は高温に加熱すると、せっかく入り込んだ窒素が抜け出してしまい、構造が崩壊して磁力が失われてしまいます。
そのため、現状では粉末をプラスチックなどの樹脂で固めた「ボンド磁石」として主に実用化されています。ボンド磁石は樹脂の分だけ磁石成分の密度が下がるため、ネオジム焼結磁石ほどの強力な磁力を引き出すことができていません。
[※関連記事:ボンド磁石とは何か?特徴・種類・用途、成形方法等の基礎知識をやさしく解説 ]
現在、特殊な製法を用いてSm-Fe-Nを完全な焼結磁石化する技術開発が精力的に行われており、これが実現すれば極めて強力なネオジム代替磁石となることが期待されています。
(4)高性能フェライト磁石
フェライト磁石は、酸化鉄を主成分とする昔ながらの黒い磁石です。私たちが日常的に最もよく目にする磁石であり、安価で大量生産が可能、錆びにくいといった特徴を持っています。
[※関連記事:磁性材料「フェライト」とは?種類と特徴・用途、製造方法等を解説!]
フェライト磁石の磁力そのものはネオジム磁石に比べて圧倒的に弱いことから、通常は強力なモーターの代替にはなり得ないと考えられてきました。
ところが近年、フェライト磁石そのものの性能(保磁力や飽和磁化)を微量元素の添加などによって極限まで高める材料開発が進むとともに、モーターの「設計」側からのアプローチによって、フェライト磁石をネオジム代替として活用する動きが広がっています。
具体的には、磁石の力だけでなく、モーターの鉄芯の形状を工夫することで発生する「リラクタンストルク」(鉄が磁石に引き寄せられる力)を最大限に利用するモーター設計技術の進歩です。これにより、磁石単体の力が弱くても、モーター全体としての出力を確保することが可能になります。
実際に、一部のエアコン用コンプレッサーモーターなどでは、ネオジム磁石から高性能フェライト磁石への置き換えが既に実用化されています。これは、材料技術だけでなく、応用技術との組み合わせによる見事な代替アプローチと言えます。
4.ネオジム代替技術の課題と将来展望
ここまで様々なネオジム代替技術を見てきましたが、いずれの技術も現時点ではネオジム磁石を完全に置き換える「万能の解決策」には至っていません。ネオジム磁石はその優れたコストパフォーマンスと圧倒的な性能バランスにおいて、依然として最強の地位を保っています。
今後の代替技術の展望としては、材料科学におけるさらなるブレイクスルーが不可欠です。例えば、Fe-Ni超格子磁石のような新素材においては、実験室レベルでの成功をいかに低コストで大規模な量産プロセスに落とし込むかが最大の壁となります。また、Sm-Fe-N磁石の高密度化・低温固化技術の確立など、既存素材のポテンシャルを最大限に引き出すプロセス革新も求められます。
材料単体からシステム全体での最適化へ
さらに、磁石材料単体の研究だけでなく、モーターやシステム全体の設計との協調(すり合わせ)がますます重要になっていくでしょう。高性能フェライト磁石の例に見られるように、新しく開発された代替磁石の特性(例えば、磁力はやや劣るが高温に強い、あるいは安価であるなど)に合わせてモーターの構造や制御アルゴリズムを最適化することで、システム全体としてネオジム磁石と同等以上の性能を引き出すアプローチです。
加えて、供給リスクを低減するもう一つの重要な手段として、使用済み製品からのレアアースの「リサイクル」技術の確立も忘れてはなりません。都市鉱山に眠るネオジム磁石を効率的に回収し、再資源化する技術と社会システムの構築は、代替技術の開発と両輪で進めていく必要があります。
持続可能なエネルギー社会へ移行するためには、高性能なモーターや発電機が不可欠です。特定の資源に過度に依存する現状のサプライチェーンから脱却し、多様な磁石材料を適材適所で使い分けることができる柔軟で強靭な産業構造を築くこと。それが、次世代のテクノロジーと私たちの豊かな生活を守るための大きな鍵となるでしょう。
ネオジム代替技術の研究開発は、単なる材料置換の枠を超え、国家の経済安全保障や地球環境の未来に直結する極めて重要な挑戦として、今後もますます加速していくことが予想されます。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 K・T)

































