EV駆動用の誘導モータ(IM)とは?原理・特徴・PMSMとの違いを解説

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脱レアアースの旗手?EV駆動用誘導モータ再考

EV駆動用モータといえば、現在は高出力・高効率な「永久磁石同期モータ」(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)が主流です。しかし、テスラが初期モデルで積極的に採用し、現在も一部のAWD車の補助駆動用などで用いられる「誘導モータ」(IM:Induction Motor)には、永久磁石モータとは異なる技術的合理性があります。

本記事ではこの「誘導モータ」の真価について解説します。

1.PMSM全盛の中で誘導モータが再評価される理由

PMSMは、強力なネオジム磁石によってローター側に磁束を保持することで、励磁電流を不要とし、低中速域で高い効率を実現しました。

[※関連記事:PMSM(永久磁石同期モータ)とは?原理・構造・特徴、EVに採用される理由を解説

しかし、その卓越した性能の裏には、設計者を悩ませる2つの大きな制約が存在します。

 

(1)レアアースに依存するアキレス腱

PMSMの心臓部であるネオジム(Nd)や、保磁力(耐熱性)を高めるための重レアアースDy:ディスプロシウムTb:テルビウム)は、採掘・精錬プロセスにおける環境負荷が問題になりやすく、地政学的な供給リスクと隣り合わせです。

「1台あたりの効率」を追求するあまり、供給網の寸断という「事業継続のリスク」を冒すことは、OEM(自動車メーカー)にとって許容しがたいトレードオフとなりつつあります。

[※関連記事:3分でわかる 希土類金属(レアアース)の基礎知識・要点解説

 

(2)高速回転域での「磁束」という足かせ

PMSMにおける磁石の磁束は、一度組み込めば消すことができない「不揮発性」です。
これが高速回転域では以下のようなデメリットになります。

  • 誘起電力の増大: 回転数に比例して逆起電力が上昇し、インバータの電圧制限に近づきます。
  • 弱め界磁制御の代償: 誘起電力を抑えるために、トルクに寄与しない「打ち消し用の電流」を流し続けなければならず、高速巡航時の電費悪化を招きます。

これに対してIMは、永久磁石を持たないため、励磁電流を絞れば磁束を大きく弱めることが可能です。そのため、高速回転時でもPMSMのような永久磁石由来の逆起電力や引きずり損失を抑えやすく、補助駆動用モータを空転させる用途に適するという特徴があります。

 

2.誘導モータの原理

誘導モータの基本原理は、「アラゴの円盤」の原理、すなわち変化する磁界によって導体内に電流が誘導され、その電流と磁界の相互作用によって力が生じる現象を、三相交流による回転磁界で実現したモータです。

  • 回転磁界の発生: ステータ(固定子)に三相交流を流すと、内部に回転磁界が発生します。
  • 誘導電流の発生: この磁界がローター(回転子)の導体を横切る際、電磁誘導によってローター内に二次電流が発生します。
  • トルクの発生: この電流と回転磁界の相互作用(フレミングの左手の法則)により、ローターに回転トルクが生まれます。

ここで重要なのは「滑り(Slip)」の存在です。
ローターは磁界の回転速度(同期速度)よりわずかに遅れて回る必要があり、この同期速度に対する速度差の割合を「滑り」と呼び、これがトルクの源泉となります。

  s = (Ns – N)/Ns

  • s: 滑り
  • Ns: 同期速度(磁界の回転速度)
  • N: ローターの回転速度

 

誘導モータの原理図と滑り
【図1 誘導モータの原理と滑りの役割】

 

[※関連記事:誘導電動機の基本原理《三相誘導電動機の基礎②》

 

3.技術的特徴:シンプルさが生む信頼性

EV用誘導モータの最大の特徴は、ローターに「かご形」と呼ばれる、アルミや銅のバーを配置した構造を採用している点です。

  • 堅牢な構造
    磁石の剥離や高温による減磁リスクがなく、物理的に非常に頑丈です。これにより、高回転化や高温環境への対応がしやすくなります。
  • 制御の進化
    かつては制御が難しいとされてきましたが、SiC(炭化ケイ素)等の次世代パワー半導体と高速マイコンの普及により、滑りを精密にコントロールする「ベクトル制御」が進化。高調波損失や励磁損失を抑え、従来の弱点を補いやすくなっています。

 

4.IMとPMSMの特徴比較

エンジニアが設計時に直面する両者の特性差を整理しました。

 

【表1 誘導モータと永久磁石同期モータ比較表】

比較項目 誘導モータ(IM) 永久磁石同期モータ(PMSM)
トルク密度 低め(励磁が必要なため) 高い
低中速効率 PMSMより劣る傾向(二次銅損・励磁電流が必要) 高い(永久磁石により励磁電流が不要)
高速域効率 良好な場合がある(磁束を弱めやすい) 低下しやすい(弱め界磁電流・鉄損の影響)
高速域の安定性 高い(無励磁時の逆起電力を抑えやすい) 注意が必要(誘起電力によるブレーキ現象)
堅牢性・耐熱性 非常に高い(磁石の減磁がない) 磁石の温度管理が必須
コスト 材料コストを抑えやすい 高価(レアアース価格に左右される)
主な用途例 一部EVのAWD補助駆動、初期のテスラ車、産業用ポンプ 多くの国産EV/HEVの主機、ドローン、高精度ロボット

 

5.誘導モータの効率を左右する損失・制御・材料技術

(1)IM vs PMSM:損失内訳の決定的違い

エンジニアが高速巡航や補助駆動用途で誘導モータに注目する理由は、回転数ごとの損失の「中身」にあります。

PMSMの損失構造

  • 低中速域: 永久磁石が磁束を担うため、励磁電流を必要とせず、同等トルク条件で「銅損(巻線に流す電流による熱)」を抑えやすいのが特徴です。
  • 高速域: 回転数が上がるほど、永久磁石の磁束に起因する逆起電力が増大します。これを抑え込むために、トルクを生まない「負の電流(弱め界磁電流)」を流し続ける必要があり、高速域では銅損や鉄損が増えやすくなります。

 

IMの損失構造

  • 低中速域: 磁束を作るための励磁電流が必要となるため、ステータ巻線の一次銅損が増えます。また、トルクを発生させるには滑りが必要であり、その結果としてローター導体に二次銅損が発生します。この点が、永久磁石によって磁束を得られるPMSMに対する効率面のハンディとなります。
  • 高速域: 磁束をインバータ制御で自由に弱められるため、無理な打ち消し電流が不要です。結果として、補助駆動用モータを無励磁に近い状態で空転させる用途や、高速巡航が多い条件では、システム全体の損失を抑えやすくなる場合があります。

 

(2)SiCパワー半導体による駆動システムの進化

誘導モータの性能は、モータ単体だけでなく、インバータと制御技術によって大きく左右されます。近年のSiC-MOSFETの普及は、その弱点を補う重要な要素です。

[※関連記事:【パワー半導体の基礎】ワイドバンドギャップ半導体の特徴/メリット/課題

SiC(炭化ケイ素)デバイスは高速スイッチングや低損失化に適しており、電流波形の高精度制御、高電圧化、冷却負荷の低減に貢献します。これにより、誘導モータで問題となりやすい高調波損失や低負荷時の励磁損失を抑えやすくなり、運転領域全体で効率を最適化しやすくなります。

ただし、スイッチング周波数を上げれば常に損失が下がるわけではありません。実際の効率は、素子特性、ゲート駆動、変調方式、冷却設計、EMI対策を含めたシステム設計によって決まります。

  • 高周波駆動による波形整形
    SiCデバイスは高速スイッチングに適しているため、適切な変調方式やフィルタ設計と組み合わせることで、電流波形をより正弦波に近づけやすくなります。これにより、高調波に起因する鉄損やトルクリップルの低減が期待できます。
  • インバータ損失の低減
    SiC-MOSFETは低オン抵抗・高速スイッチングといった特長を持ち、インバータの導通損失やスイッチング損失の低減に寄与します。ただし、実際の効果は電圧・電流条件、冷却設計、ゲート駆動、EMI対策などを含めたシステム設計に左右されます。
  • 高速域での精密な「滑り」制御
    高速演算と高精度な電流制御により、運転条件に応じて励磁電流とトルク電流を最適化しやすくなります。これにより、低負荷巡航時の余分な励磁損失を抑え、誘導モータの効率改善につなげることができます。

[※関連記事:《初心者必見!》EV用パワーエレクトロニクスの基礎知識をわかりやすく解説

 

(3)エンジニアの次なる一手:素材の進化

誘導モータの効率や出力密度をさらに高めるため、ローター材料や鉄心材料の改良も進められています。

  • 銅ローター(カッパーローター)
    従来のアルミ導体に代えて、導電率の高い銅をローター導体バーに採用することで、二次銅損の低減を狙う技術です。製造難度やコストの課題はありますが、誘導モータの効率改善に有効なアプローチです。
  • 極数切り替え技術
    低速では多極構成によってトルクを重視し、高速では少極構成によって効率や回転数範囲を重視するなど、運転条件に応じてモータ特性を切り替える研究も行われています。

 

6.将来展望:マルチモータ時代における誘導モータの役割

現在のEV市場は高効率なPMSMが主流ですが、誘導モータが消えることはありません。むしろ、「適材適所」の考え方が強まっています。

  • AWD(全輪駆動)の補助駆動用
    高速巡航時には主駆動側のモータだけで走行し、補助駆動側の誘導モータを無励磁に近い状態で空転させることで、永久磁石由来の逆起電力や引きずり損失を抑えやすくなります。この特性は、必要なときだけ大きな駆動力を加えるAWD用モータとして有利に働きます。
  • 脱レアアースの世界的潮流
    レアアース供給リスクや環境負荷への懸念から、欧州メーカーを中心に「脱レアアース」「脱永久磁石」の動きが強まっています。その解は誘導モータに限らず、巻線界磁型同期モータなども含まれますが、永久磁石を使わない誘導モータも、有力な選択肢の一つとして再評価されています。

 

 

7.おわりに

誘導モータは、100年以上の歴史を持つ成熟した技術です。しかし、永久磁石を使わないシンプルで堅牢な構造、レアアースに依存しない材料構成、高速域で磁束を弱めやすい特性は、EV駆動用モータとして今なお大きな価値を持っています。

さらに、冷却技術、SiCインバータ、ベクトル制御、材料技術の進化により、誘導モータの効率や出力密度は着実に改善されつつあります。PMSMと競合するだけでなく、用途に応じて使い分けられる選択肢として、誘導モータは今後のEV駆動システムにおいて重要な役割を担っていくでしょう。

 

(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)
 

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