PMSM(永久磁石同期モータ)とは?原理・構造・特徴、EVに採用される理由を解説

EVの走行性能を左右する重要な要素として、「モータ」の存在感が高まっています。力強い加速や高い静粛性を実現するには、高効率化と高出力密度化が欠かせません。限られたバッテリー電力を効率よく使いながら、小型・軽量で高出力な駆動システムを実現することは、EV開発における重要な課題です。この要求に応える方式として、多くのEVで採用されているのが「PMSM」(永久磁石同期モータ)です。
本記事では、PMSMについて押さえておきたい基礎知識をわかりやすく解説します。
目次
1.PMSMとは
「PMSM」(Permanent Magnet Synchronous Motor:永久磁石同期モータ)とは、ロータに永久磁石を用いた同期モータのことです。日本語では「永久磁石同期モータ」と呼ばれます。
永久磁石とは、外部から電流を流し続けなくても磁力を保持する磁石のことです。PMSMでは、この永久磁石をロータに配置し、ステータ側のコイルに三相交流電流を流すことで回転磁界を発生させます。そして、ステータが作る回転磁界とロータの磁極が同期して回転することで、トルクを発生させます。
PMSMは、高効率、高出力密度、応答性の高さに優れているため、EVやハイブリッド車、産業機械、サーボモータなど、幅広い分野で利用されています。
2.PMSMの基本原理
PMSMの基本原理を理解するうえで重要なのが、ステータが作る「回転磁界」と、ロータの永久磁石が同期して回転する仕組みです。
ステータのコイルに三相交流電流を流すと、時間とともに磁極の向きが変化し、空間的に回転する磁界、すなわち「回転磁界」が発生します。ロータに配置された永久磁石は、この回転磁界に引き寄せられるように回転します。ステータ側の回転磁界の速度と、ロータの回転速度が同期して回るため、「同期モータ」と呼ばれます。
ただし、実際のEVでは、単に電流を流すだけで最適な回転が得られるわけではありません。インバータによって電流の大きさや位相を精密に制御し、ロータ位置センサやセンサレス制御によってロータの位置を把握しながら、効率よくトルクを発生させています。

【図1 PMSMの同期の原理】
PMSMを効率よく制御するためには、ロータが現在どの角度にあるのかを把握することが重要です。EVでは、ロータ位置センサやセンサレス制御を用いてロータ位置を検出・推定し、それに合わせてインバータが電流の大きさや位相を調整します。これにより、トルクを滑らかに制御し、力強い加速や高効率な走行を実現しています。
3.なぜPMSMなのか?3つのメリット
PMSMは、永久磁石を用いることで高い効率を得やすいだけでなく、小型化や高出力化、応答性の高い制御にも向いています。
ここでは、EV用モータとしてPMSMが選ばれる主な理由を、3つの観点から整理します。
(1)高効率
PMSMの大きな特長は、ロータに永久磁石を用いることで、ロータ側に励磁電流を流す必要がない点です。
誘導モータなどでは、ロータに磁界を発生させるために電気的な損失が生じますが、PMSMでは永久磁石の磁力を利用できるため、その分の損失を抑えやすくなります。
もちろん、ステータの巻線には電気抵抗による銅損が発生します。しかし、適切な磁気設計やインバータ制御を組み合わせることで、PMSMは高いエネルギー変換効率を実現できます。この高効率性は、EVの航続距離向上や発熱低減に大きく貢献します。
(2)小型・軽量化
PMSMは高い出力密度を得やすく、同じ出力を得る場合でも比較的コンパクトな設計が可能です。
EVでは、モータ、インバータ、減速機などを一体化した「eアクスル」として搭載される例も増えており、車両設計の自由度向上に貢献しています。
[※関連記事:eAxleとは何か?電動パワートレインの中核を担う革新技術を解説! ]
また、EVではバッテリーを床下に配置する「スケートボード型プラットフォーム」が広く採用されています。モータを小型化できれば、前後アクスル周辺のスペースを有効に使いやすくなり、車内空間や衝突安全設計、冷却設計にもメリットがあります。
(3)応答性の高いトルク制御
EV特有の力強い加速感は、モータが低回転域から大きなトルクを発生しやすいことに由来します。なかでもPMSMは、ロータに永久磁石を用いることで安定した磁束を得られるため、発進直後から効率よくトルクを発生させやすいという特長があります。
また、PMSMではロータの磁極位置に合わせてステータ電流の大きさや位相を精密に制御します。これにより、アクセル操作に応じたトルク制御を行いやすく、滑らかで応答性の高い加速を実現できます。
多くのEVでは多段変速機を用いず、モータの回転を減速機を介してタイヤへ伝える構成が採用されています。そのため、PMSMの高い制御性とEV駆動系のシンプルな構成が組み合わさることで、ダイレクトな加速感が得られやすくなります。
4.SPMとIPMの違い
PMSMは、永久磁石の配置方法によって大きくSPMとIPMに分けられます。
(1)SPMとは
「SPM」(Surface Permanent Magnet:表面磁石型)は、ロータ表面に永久磁石を配置する方式です。構造が比較的シンプルで制御しやすい一方、高速回転時には磁石に大きな遠心力が作用します。そのため、高速回転用途では磁石の保持構造や補強部材が必要となる場合があります。
(2)IPMとは
これに対して、「IPM」(Interior Permanent Magnet:埋込磁石型)は、ロータ内部に永久磁石を埋め込む方式です。磁石がロータ鉄心内部に保持されるため、高速回転時の機械的強度を確保しやすいという利点があります。また、磁石トルクに加えてリラクタンストルクも利用できるため、EV用モータで広く採用されています。

【図2 SPMとIPMの説明図】
(3)リラクタンストルクの活用
IPMの大きな特長は、永久磁石による「磁石トルク」に加えて、「リラクタンストルク」を活用できる点です。
「リラクタンストルク」とは、磁束が通りやすい方向にロータが向こうとすることで発生するトルクです。鉄心の形状や磁石の埋め込み方によって、ロータ内には磁束が通りやすい方向と通りにくい方向が生まれます。この磁気的な異方性を利用することで、永久磁石の力だけに頼らず、追加のトルクを得ることができます。
そのため、IPMでは「磁石トルク」と「リラクタンストルク」を組み合わせることで、高効率かつ高出力な駆動が可能になります。
5.これからの課題と未来のモータ
PMSMは高効率・高出力なモータとしてEVに広く採用されていますが、普及が進むほど材料調達や熱管理といった課題も重要になります。
ここでは、PMSMの今後を考えるうえで特に重要な、レアアース問題と熱管理について整理します。
(1)レアアース問題
PMSMの課題の一つが、永久磁石に使用されるレアアースへの依存です。
EV用の高性能モータでは、強力なネオジム磁石が多く使われます。また、高温環境での耐減磁性を高めるために、ディスプロシウムやテルビウムなどの重希土類元素が使われる場合もあります。
しかし、レアアースは供給地域が偏っており、価格変動や調達リスクが課題となります。そのため、重希土類の使用量を減らす磁石技術や、フェライト磁石を活用したモータ設計、さらには永久磁石を使わない巻線界磁形同期モータなどの開発が進められています。
巻線界磁形同期モータは、ロータに永久磁石ではなく電磁石を用いる方式です。永久磁石への依存を減らせる一方で、ロータ側に電流を供給する構造や損失、制御の複雑さなどが課題になります。
(2)熱管理(サーマルマネジメント)
もう一つの重要な課題が、熱管理です。PMSMでは、コイルの銅損や鉄心の鉄損、インバータ損失などによって熱が発生します。温度が上昇すると、巻線抵抗が増加して損失が大きくなるほか、絶縁材料の劣化や永久磁石の減磁リスクも高まります。
特にネオジム磁石は、高温になると磁力が低下します。一定以上の温度で保磁力が不足すると、冷却しても元の磁力に戻らない「不可逆減磁」が起こる可能性があります。さらに高温になると、磁性を失うキュリー温度に近づき、モータ性能に深刻な影響を及ぼします。
[※関連記事:EVモータを支える省Nd磁石とは?ネオジム使用量の低減と次世代磁石開発の動向 ]
こうした課題に対応するため、EV用モータでは冷却技術の高度化が進んでいます。従来の水冷ジャケットに加え、絶縁性の高いオイルをステータやロータ周辺に供給する直接冷却方式も検討・採用されています。また、モータ単体ではなく、バッテリーやインバータと連携した統合熱マネジメントが重要になっています。
6.まとめ:モータの進化がEVの未来を変える
PMSMは、EVの高効率化、高出力化、小型化を支える重要なモータ方式です。永久磁石による高い効率、IPM構造による高出力化、インバータ制御による高い応答性などにより、EVの性能向上に大きく貢献しています。
一方で、レアアース資源への依存、発熱への対応、高速回転時の機械的強度、コストなど、今後も解決すべき課題は残されています。そのため、今後はPMSMのさらなる高性能化に加え、巻線界磁形同期モータ、誘導モータ、リラクタンスモータなど、用途に応じたモータ方式の使い分けも進むと考えられます。
また、SiCやGaNなどのパワー半導体の進化により、インバータの高効率化や高周波駆動が進めば、モータ制御や熱設計の自由度もさらに高まります。PMSMは完成された技術ではなく、EVの進化とともに今も改良が続く重要な基盤技術だといえるでしょう。
(日本アイアール株式会社 特許調査部 T・T)


































