pn接合、金属-半導体接合に流れる電流をバンド図で解説!降伏現象、オーミック接触などの用語も整理
目次
1.pn接合に流れる電流
図1は、当連載の第6回「pn接合の仕組みを概念図・バンド図でわかりやすく解説」で示したpn接合の外部に回路をつないでいない状態のバンド図です。
【図1 接合後、電荷の移動が止まった状態のp型、n型半導体接合のバンド図】
(1)順方向電圧
n型にマイナスの電圧をかけると、電子にとってエネルギーが高くなるので、図2のようになります。
印可電圧(VD)分、p型の伝導帯底とn型の伝導帯底の電位差が縮まり、接合部の空乏層幅は縮まります。
すると、n型の伝導帯から電子がp型の伝導帯に流れ込み、p型の価電子帯からはn型の価電子帯に正孔が流れ込みます。p型の伝導帯に流れ込んだ電子はp型では少数キャリアであり、n型の価電子帯に流れ込んだ正孔はn型では少数キャリアであるため、このような現象を「少数キャリアの注入」と言います。
注入された少数キャリアは拡散して行って、多数キャリアと再結合して消滅します。この方向に電圧をかけると電流が流れやすいので、「順方向電圧」と言います。
【図2 pn接合のn型にマイナスの電圧をかけた場合のバンド図】
(2)逆方向電圧
今度はn型にプラスの電圧をかけると、電子にとってエネルギーが低くなるので、図3のようになります。
印可電圧(VD)分、p型の伝導帯底とn型の伝導帯底の電位差が広がり、接合部の空乏層幅は広がります。
p型の伝導帯から電子がn型の伝導帯に流れ込み、n型の価電子帯からはp型の価電子帯に正孔が流れ込みますが、p型の伝導帯の電子、n型の価電子帯の正孔は少数キャリアであり、多数キャリアに比べて濃度が非常に低いため、非常に小さい電流が流れることになります。この電圧方向を「逆方向電圧」と言います。
【図3 pn接合のn型にプラスの電圧をかけた場合のバンド図】
(3)降伏現象(ブレークダウン)とは
pn接合の電流の式の導出は、ここでは行いませんが、下のようになります。
ここで、
となるので、Jd=-JsとなることからJsを「逆方向飽和電流」と呼びます。
この電流の式をグラフに描いてみると図4のようになり、順方向電圧では電流が急激に立ち上がりますが、逆方向電圧では非常に小さい電流しか流れません。
しかし、逆方向にさらに高電圧をかけると、ある電圧で急激に大電流が流れ出します。これを「降伏現象」(ブレークダウン)と言い、この時の電圧を「降伏電圧」と言います。
【図4 pn接合の電圧電流特性】
ブレークダウンには、二つのメカニズムがあります。
① アバランシェブレークダウン
「アバランシェブレークダウン」は、空乏層を作っている不純物濃度が低い時に発生します。
p型からn型に向かって流れる電子は空乏層内で大きな電界によって加速され、結晶原子と衝突して価電子をたたき出します。これによって、伝導帯の電子と価電子帯の正孔の対を生成し、生成された電子も大きな電界で加速されて同じように電子正孔対を作るため、ネズミ算式に電子正孔対が増加して大電流が流れます。
このメカニズムを、「電子雪崩」(アバランシェ)と言います。
【図5 アバランシェブレークダウンが発生している時のバンド図】
② ツェナーブレークダウン
「ツェナーブレークダウン」は、空乏層を作っている不純物濃度が高い時に発生します。
アクセプター濃度、ドナー濃度が高いほど、電位差を打ち消すのに必要な空乏層幅は狭くなります。
すると、価電子帯の電子が直接伝導帯に通り抜ける現象(トンネル効果)が起こり、大きな電流が流れます。
【図6 ツェナーブレークダウンが発生している時のバンド図】
2.金属-半導体接合に流れる電流
図7は、当連載の第7回「金属-半導体の接合、金属-絶縁体-半導体の接合で何が起きるのか?」で示した金属とn型半導体の外部に回路をつないでいない状態のバンド図です。この節での説明はn型で行いますが、p型でも電子と正孔の役割を反対にすれば、同様に考えることができます。
【図7 接合後、電荷の移動が止まった状態の金属-n型半導体接合のバンド図】
n型半導体にマイナスの電圧をかけると、電子にとってエネルギーが高くなるので、図8のようになります。
印可電圧(VD)分、ショットキ障壁高さ(Φb)とn型の伝導帯底の電位差が縮まり、接合部の空乏層幅は縮まります。
すると、n型の伝導帯から電子が金属に流れ込みます。この方向に電圧をかけると電流が流れやすいので、金属-半導体接合の場合の順方向電圧はこちらの方向です。
【図8 金属-n型半導体接合のn型にマイナスの電圧をかけた場合のバンド図】
今度はn型半導体にプラスの電圧をかけると、電子にとってエネルギーが低くなるので、図9のようになります。印可電圧(VD)分、ショットキ障壁高さ(Φb)とn型の伝導帯底の電位差が広がり接合部の空乏層幅は広がります。
金属から電子がn型の伝導帯に流れ込みますが、熱による励起によってショットキ障壁を越える必要があるため、非常に小さい電流が流れることになります。この電圧方向が、金属-半導体接合の場合の逆方向電圧です。
pn接合では、電流が流れるためには電子と正孔の両方が拡散、再結合する必要がありますが、金属n型半導体接合の場合、電流に寄与しているのは電子だけ、金属-p型半導体接合の場合には、正孔だけです。
このようなデバイスを「ユニポーラデバイス」と言い、拡散、再結合の時間がかからないため、pn接合を用いたバイポーラデバイスに比べ、高速動作、高周波特性に優れます。
【図9 金属-n型半導体接合のn型にプラスの電圧をかけた場合のバンド図】
金属-半導体接合の電流は、逆方向飽和電流Jsを用いて、下のようにpn接合の場合と同様の式で表されます。
この電流の式をグラフに描いてみると図10のようになり、順方向電圧では電流が急激に立ち上がり、逆方向電圧では非常に小さい電流しか流れませんが、さらに高電圧をかけると、ある電圧で急激に大電流が流れ出す(降伏現象:ブレークダウン)こともpn接合の場合と同様です。
アバランシェブレークダウン、ツェナーブレークダウンの両方のメカニズムがあります。
【図10 金属半導体接合の電圧電流特性】
Jsは、接合部の内蔵電位(ビルトインポテンシャル:Vbi)に依存し、pn接合の場合半導体の物性で決まっていますが、金属-半導体接合の場合、組み合わせる金属を変えることで調整することが可能です。
例えばVbiの小さい金属との接合では、Jsを大きくすることができ、順方向の立ち上がりを良くすることができますが(図の黄色の線)、逆方向飽和電流は大きくなりますので、用途によって適当な金属を選びます。
3.オーミック接触とは
不純物濃度を高くすることで、金属-半導体接合のツェナーブレークダウンを非常に低い電圧で起こすことができ、ブレークダウン電圧を限りなくゼロに近づけることができます。
この状態では、順方向、逆方向が事実上なくなります。このような接触を「オーミック接触」(オーミックコンタクト)と言います。
ここまで、接合に外から電圧をかけて電流を流すという説明をしてきましたが、外の回路(配線などの金属)と半導体をつなぐ部分にはオーミック接触が必要で、しかもp型n型の両方に必要であることは言うまでもありません。
そこで、実際のデバイスでは、金属と接する部分のみドーピング濃度を上げています。
図11は、pn接合の両側にオーミック接触をつけた場合のバンド図です。このようにすることで、外の回路とpn接合部をスムーズに接続でき、pn接合の性質を利用することができるのです。
【図11 オーミック接合部を設けたpn接合のバンド図】
次回は具体的なデバイスの話として、ダイオードの基礎知識を解説します。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)