ダイオードを基礎から学ぶ|整流/定電圧/発光/受光の用途別にわかりやすく解説
今回からは、いよいよデバイスの話です。
デバイスを理解するためには、前回のコラム「pn接合、金属-半導体接合に流れる電流をバンド図で解説!」で説明した接合に流れる電流を、その状態でのバンド図を頭に浮かべながら考えられることが必要です。「ちょっと難しいな」と思ったら、前回のコラムを読み返してみて下さい。
目次
1.ダイオードとは?[ダイオードの意味]
前回のコラムの最後に示したpn接合の両側にオーミック接触をつけたデバイスのように、外部に繋ぐ部分が二つある物を「ダイオード」と言います。
「ダイ」(di)はギリシャ語の”2”の意味であり、「オード」は”電極”の意味の英語(electrode)の語尾から取ったものです。”二つの電極を持つ素子“という意味になりますが、ダイオードには様々なタイプがあり、使用方法も多岐にわたっています。
今回のコラムでは基本的な使い方である、整流、定電圧、発光、受光の各用途について説明します。
2.整流回路とダイオード
図1のように交流電源とダイオード、抵抗を直列に繋いだ回路を考えます。
ダイオードの回路図はこの図のように、電流の順方向を矢印で示したものを基本にしますが、用途、構造等によって様々なバリエーションがあります。
【図1 整流回路】
このダイオードの電圧、電流曲線は図2のようなものだとします。
そこに交流電圧がかかると、ダイオードの逆方向に電圧かかっている間は電流は流れず、抵抗には一方向の電流、すなわち直流電流が流れることになります。図のように、電流は一方向にしか流れませんが、流れたり流れなかったりを時間的に繰り返しているので「脈流」と呼びます。
【図2 ダイオードの電圧、電流曲線と交流を印加した時の電流】
脈流を改善するには、図3のように「平滑回路」というものをつけるのが一般的な方法です。順方向に電流が流れている間にコンデンサに充電し、逆方向で電流が流れない間にコンデンサが放電することで、電流を平準化しています。
【図3 平滑回路(左)と、その時の平準化された電流(右)】
[※関連記事:ダイオードの整流作用と電気特性 はこちら]
3.定電圧回路(ツェナーダイオード)
pn接合、あるいはショットキ接合ダイオードで、逆方向の電圧を高くしていくと降伏現象が起こって急激に電流が流れることを前回のコラムで説明しました。これは、逆に考えると、いくらダイオードに逆方向電流を流しても、ダイオードにかかる電圧はほとんど変化しないということを意味します。
そこで、ダイオードのドーピング濃度を制御して、ツェナーブレークダウンが起こる電圧を設計したのが「ツェナーダイオード」、あるいは「定電圧ダイオード」と呼ばれるダイオードです。
図4の右側のような降伏電圧VZを持つダイオードを、図4の左側のような回路に繋ぎます。
【図4 定電圧回路(左)と、ダイオードの電圧、電流曲線(右)】
定電圧にしたいのは図4左側の端子CとDの間です。
端子AとBの間に、ツェナーダイオードが逆バイアスされる方向に電圧(VAB>VZ)をかけておけば、図5に示すように、端子AとBの間の電圧(VAB)が変動しても、端子CとDの間(VCD)は、ツェナーダイオードの降伏電圧(VZ)に保たれ、残りの電圧VAB–VZが抵抗にかかります。
【図5 定電圧回路の端子間にかかる電圧】
[※関連記事:ツェナーダイオードとは?原理と特性、使い方など はこちら]
4.発光ダイオード
前回のコラムでは「pn接合に流れる電流」として、pn接合に順方向電圧をかけると、電子と正孔が注入され再結合することを、図6を使って説明しました。
この時、電子はエネルギーが高い状態(伝導帯)から低い状態(価電子帯)に移るので、このエネルギー差を光、あるいは結晶を構成する原子の振動(格子振動と称する)の形で放出します。再結合において、光でエネルギーを放出するか格子振動で放出するかは、半導体の種類によって異なります。
詳しい説明は省きますが、光を放出して再結合する半導体を「直接遷移型」、光を出さずに再結合する半導体を「間接遷移型」と言います。代表的な直接遷移型半導体はGaAs、InPであり、代表的な間接遷移型半導体はSi、Geなどです。
伝導帯底の電子と価電子帯頂上の正孔が再結合するので、発光する場合の波長はほぼバンドギャップエネルギーに相当します。
AlXGa1-XAs(0≦X≦1)などの混晶を作ることで波長を変えることができます。
【図6 pn接合に順方向電圧をかけた場合のバンド図】
「発光ダイオード」(LED)は、一般的に図7のように示します。
上側の2本の矢印は、光が放出されることを表しています。
【図7 発光ダイオードの回路記号】
発光ダイオードを使う場合、図8のような回路で電流制限抵抗を直列に入れるのが一般的です。
これは、発光ダイオードの順方向の電流は少しの過電圧でも急峻に立ち上がるため、過電流によって壊れるのを防ぐためです。
レーザダイオード(半導体レーザ)も、発光の仕組みは発光ダイオードと同じです。しかし、レーザダイオードでは、発光波長と位相を揃えるための構造が作りこまれています。
【図8 発光ダイオードの使い方】
5.受光デバイス(フォトダイオード)
発光ダイオードと逆に、光を受けて電気信号に変えるのが「フォトダイオード」(PD)です。
一般的には「受光デバイス」と呼ばれ、図9のように示します。上側の2本の矢印は、光を受けることを表しています。
発光ダイオードでは、pn接合に順方向電圧をかけることで発光させていましたが、最も基本的な受光デバイスであるpn接合型フォトダイオードでは、この逆をやることになります。
【図9 フォトダイオードの回路記号】
図10のように電圧をかけない状態のpn接合空乏層に光を当てると、電子、正孔対が発生し、空乏層内の電界によって、電子はn型側に、正孔はp型側に移動します。従ってフォトダイオードの外部に回路をつなぐと、n型からp型の方向に電子が流れ、これはダイオードにとっては逆方向電流です。
【図10 フォトダイオードの動作原理】
つまり、ダイオードの電圧電流曲線が、光の照射によって図11の茶色の線のように移動することになり、この電流の変化を検出すれば、光が当たったかどうか、光の強さはどれくらいかを検出できるわけです。通常逆バイアスで使われます。
検出感度を上げるためには空乏層の幅を広げることが有効で、そのためにはp型、n型ともにドーパント濃度を下げれば良いのですが、そうすると抵抗が上がってしまい電流が取れません。
そこで、空乏層の幅だけを広げられるように、p型とn型の間に真性半導体(intrinsic)を挟んだ構造(pin構造)の「PIN型フォトダイオード」も良く使われます。
【図11 フォトダイオードの電圧、電流曲線】
(青色:光照射なし、茶色:光照射あり)
アバランシェフォトダイオードとは
前回のコラムでpn接合のブレークダウンの一つとしてアバランシェブレークダウンがあると説明しましたが、図12のように pn接合をブレークダウンを起こす寸前まで逆方向にバイアスしておくと、光が入射した時発生する電子によって雪崩が起こされて大きな電流が流れ、微弱な光でも検出することができます。
これを「アバランシェフォトダイオード」(APD)と言い、最も高感度です。
【図12 アバランシェフォトダイオードの原理図】
発光デバイスでは、発光波長はほぼバンドギャップエネルギーに相当していましたが、受光デバイスの場合、電子は価電子帯の低いところからでも伝導帯の高いところにでも飛び移ることができるので、バンドギャップに相当する波長より短い波長(エネルギーが高い)をもつ光は原理的にはすべて検出することができます。
ただし、光が空乏層まで届かないと電気信号にならないのに対し、波長が短いほどより吸収されるので空乏層に光が到達できるような構造上の工夫が必要になり、検出したい光の波長に合わせて半導体材料を選ぶことが基本です。
[※関連記事:PINフォトダイオードとアバランシェフォトダイオード はこちら]
6.ダイオードの構造
ここまで、具体的なデバイスの構造を示さずに、バンド図だけで説明してきましたが、PINフォトダイオードのイメージ図は図13のようなもので、断面構造は図14のようになっています。
【図13 PINフォトダイオード】
【図14 PINフォトダイオードの断面】
p型とn型を接触させる、接合するとは、具体的にはこのような構造を作ることです。
p+層が厚いと、前の頁で述べたように波長の短い(エネルギーの高い)光は吸収されてしまってn–層まで届かず、空乏層内での電子、正孔対発生が十分に起こりません。
用途に応じて(検出したい光の波長に応じて)デバイス設計の最適化が必要になります。
今回のコラムの最初に説明した整流用のダイオードも、光を取り入れる窓がないだけで、拡散によって部分的にp層をつくるような構造は同様です。
次回の説明では、デバイスの構造を図15のような断面図で示していきます。
【図15 PINフォトダイオード断面のみで表示】
(アイアール技術者教育研究所 H・N)