スナップフィットの例で学ぶ 強度計算・応力設計のポイント|設計者のための材料力学
1.スナップフィットと応力設計
樹脂部品では「スナップフィット」と呼ばれる簡易な組付け固定方法が多用されています。
スナップフィット組付けを行う場合は、大きなひずみ変形を起こさせる場合が多く、単純な応力計算では成立しないことがあります。樹脂材料は比較的伸びやすいものを使い、破壊しないよう考慮しますが、この場合のStress-Strainカーブを考えることがポイントになります。
以下、例を追って考えていきましょう。
スナップフィットの設計例
よく見るスナップフィットの設計例を示します。
図1の寸法でスナップフィットは1.3mmたわみ、相手部材と勘合します。このときに破壊しないか計算します。
材質は伸びの良いPOMを使用します。限界応力は50MPa。ヤング率 E=2700MPa とします。
【図1 スナップフィットの設計例】
強度計算の事例
たわみ量 より荷重
を代入し W=7.4 [N] を得る。
曲げモーメントMは付け根部で最大になり
そのときの応力σは
限界応力50MPaを超えているので、設計不成立(破壊する)ということになってしまいます。
しかし、よく検討し直すと成立するのです。
2.樹脂のS-Sカーブ
樹脂のS-Sカーブ(Stress-Strain)は鉄鋼とは異なり、低いひずみから直線ではなくなってきています。つまり塑性変形が始まっていることを表しています。
【図3 POMのS-S特性】
ところが上述の計算事例はフックの法則つまり σ=εE をベースに計算しているので青破線上をたどることになります。
先ほどのスナップフィットの応力σからひずみεを計算すると
ε ≈ σ/ = 0.029
ひずみ=2.9% のところにあたる応力は、樹脂のS-Sカーブから読み取ると42MPaであり、問題ないことがわかります。
このことは手計算だけではなく、一般のFEM解析も同様であり注意が必要です。
高価ではありますが、個々のS-Sカーブを記憶させ、弾塑性変形の解析ができるツールもあります。
FEM解析と材料力学的な注意点
図4は、上記の条件をそのままFEM解析(有限要素法)した結果です。
応力は85MPaと手計算よりやや大きくなっています。
【図4 FEMの解析結果】
FEM解析は実際のRや形状変化について計算できるので、活用が望ましいです。
解析結果は条件設定により大きく変わるので、応力分布やベクトル方向などが理論と一致しているか、材料力学的な視点をもって結果の是非を検討する必要があります。
特に注意が必要な項目を以下に示しておきます。手計算でも同様な項目となります。
- メッシュ分割
単調な変化が続く部位は大きめのメッシュで計算時間を短縮し、応力変化が激しいところや形状が変わるとところは細かくします。特に形状が激しく変わるところは応力集中に注意します。 - 荷重点、拘束条件
特に実際の条件と異なる拘束は過剰な応力を発生させることがあります。 - 粘弾性を伴う大変形の場合はS-Sカーブを考慮
3.材料強度を学ぶには
強度計算は機械設計の基本です。
なんとなく設計をし、強度試験をパスしたからといっても設計保証できたことにはなりません。設計保証と認められるためには、理論的な計算が成立したうえで、強度試験で確認をするという作法となるでしょう。
アイアール技術者教育研究所では、これらの具体的な進め方について学べる講座やコンテンツをご用意しています。
できる機械設計者となるためには、強度設計の基礎となる材料力学をマスタすることが望まれますが、複雑な計算式に嫌気がさし、つい挫折してしまうことが多いのではないでしょうか?丁寧な解説付きのセミナーなども上手に活用し、効果的な知識習得を図りましょう。
(※この記事は岩瀬技術士事務所 代表 岩瀬 栄一郎 講師からのご寄稿です。)