【半導体製造プロセス入門】乾燥技術・乾燥装置の基礎知識
当連載では、半導体製造において使用される各製造装置の概要について解説しています。
前回・前々回と「洗浄装置」を中心にご紹介してきましたが、今回はその「洗浄」の後のプロセスで用いる「乾燥装置」について解説します。
目次
1.半導体乾燥技術と乾燥装置(乾燥方法)
半導体製造における各プロセスでの処理前後には必ず洗浄が行われますが、ウエハーは半導体製造装置に乾いた状態で入力され、乾いた状態で出力されるのが原則です(「ドライイン・ドライアウト」の原則)。
なぜかというと、ウエハー上に水分が残っていると、その水分と反応してウエハーの表面が酸化してしまい、シミ(ウオーターマーク)が発生してしまうからです。
そのため、乾燥装置は洗浄プロセスの最後の段階ともいえるため、洗浄装置に組み込まれた形で実現されるのが普通です。
[※洗浄装置の解説は、当連載の半導体洗浄装置・洗浄プロセスの基礎知識のページをご覧ください。]
洗浄後の乾燥は極めて重要なプロセスです。
それでは、主要な乾燥方法についてご紹介します。
(1)スピンドライヤー
もっとも多く使われるのは、ウエハーを高速回転させ遠心力で飛ばす方法で、「スピンドライヤー」と呼ばれます。バッチ式ではバッチごと、枚様式では、一枚ずつ回転させます。
バッチ式では、スピンドライヤーはスループットが高くドライヤーの構造が簡単です。
枚葉式では、薬液を吹き付けない状態でウエハーを高速回転させればスピンドライとなります。
欠点として、回転機械のため、どうしても機構部からの発塵があります。
また、空気との摩擦で静電気が発生してしまい、ウエハーが帯電するとパーティクルを引き寄せてしまいます。そのため。静電気を抑制する装置(イオナイザー)が装備されていることが普通です。
(2)有機溶剤(IPA:イソプロピルアルコール)を使う方法
スピンドライヤーの次に使われる方法が有機溶剤(IPA:イソプロピルアルコール)を使う方法です。
IPAの蒸気で満たされた空間にウエハーを入れ、ウエハー表面の水分をIPAで置換します。
構造が簡単で、スピンドライヤーのように静電気の発生や、塵が発生することがありません。
一方、有機溶剤を使うことから有機物汚染の心配があります。またIPAは引火性があり、加熱の温度調節が微妙です。さらに、環境に対する配慮の観点から、近年有機溶剤の使用の規制が厳しくなってきていることもデメリットです。
2.洗浄・乾燥技術の動向
乾燥については、どの方法も一長一短があり、決定版と呼べる乾燥法はないといえるかもしれません。
最後に洗浄・乾燥装置の新しい流れについて簡単にご紹介します。
(1)極低温エアロゾル洗浄
近年では環境への影響を低減することが望まれており、薬液を使用しない「ドライ洗浄法」が研究されています。代表的なものに、「極低温エアロゾル洗浄」と呼ばれるものがあります。
これは、アルゴンガスを極めて低い温度に冷却し、微小な氷の状態(アルゴン氷粒子)にして、これをウエハー表面に吹き付けてパーティクルを弾き飛ばす洗浄法です。
アルゴンは希ガスと呼ばれ、他の物質と反応しづらい性質があり化学的に極めて安定しています。
したがって、ウエハー表面にアルゴンを吹き付けてもウエハー表面では化学反応を起こしません。
ウエハーを少し加熱しておけば、アルゴン氷粒子は直ちに蒸発・気化するので、回収も容易に行うことができます。
(2)マランゴニ乾燥
乾燥方式では、IPAを使用した乾燥方法とスピンドライの長所だけを取り入れる考え方が生まれています。
IPAの使用量を減らすものとして、「マランゴニ乾燥」と呼ばれるものがあります。
リンス槽からウエハーを引き上げる際にIPAの蒸気と窒素ガスを吹き付けて、ウエハー表面と純水との間に発生する「マランゴニ力」と呼ばれる力で水分を除去するものです。
マランゴニ乾燥は、主にバッチ式で効果的です。
(4)ロタゴニ乾燥
マランゴニ乾燥とスピンドライヤーを組み合わせた乾燥法も考えられています。
「ロタゴニ乾燥」は、スピンドライヤーで使用する純水とともにIPAの蒸気を吹き付けるものです。
このようにするとウエハーの外周方向にマランゴニ力が発生し、中心部から外側に向かって水分が取り除かれていきます。
遠心力にマランゴニ力が加わり、水分除去の能力がマランゴニ乾燥よりも向上するので、IPAの使用量がより低減されるということになります。また、乾燥時間も早くなることで静電気の発生する可能性も低減されます。
ロタゴニ乾燥は、主に枚葉式で使用されます。
3.多彩なノウハウが集結した洗浄・乾燥装置
これまでに当連載でご紹介してきた洗浄・乾燥装置は、主にウエハーに対しての洗浄・乾燥です。
しかし、半導体製造工場ではその他にも、配管の洗浄やフープ、ウエハーキャリア、製造装置の部品の洗浄などの目的で様々な洗浄・乾燥装置が用いられます。
それぞれの洗浄装置にも多彩かつ独特のノウハウがあり、専門の洗浄・乾燥装置メーカーが活躍しています。
次回は、イオン注入装置について解説します。
(アイアール技術者教育研究所 F・S)