化合物半導体とは?種類/用途/特性など基礎知識を解説
当連載「これならわかる半導体超入門」では、ここまで代表的な半導体であるシリコンを例に、電子デバイスの材料としての半導体の説明をしてきました。
第5回では、連載コラムの前半(材料編)の締めくくりとして、発光ダイオードや高周波電子デバイス、高電圧電子デバイス等の用途に欠くことのできない「化合物半導体」について説明します。
1.化合物半導体とは
まず、表1の周期表を見てください。
【表1 周期表(部分)】
周期表上のIV族元素であるシリコンのドーパントとして、V族のP(リン)、III族のB(ホウ素)を説明しましたが、それぞれ5個と3個の最外殻電子を持っており、またいずれもsp3混成軌道を形成しています。
ということは、III族元素とV族元素の組み合わせでIV族元素を置き換えれば安定した化合物ができることになり、これはII属元素とVI族元素の組み合わせについても言えます。これらは、「III-V族半導体」「II-VI族半導体」と呼ばれます。
このような化合物半導体に対して、シリコンのような単元素の半導体を「元素半導体」と呼びます。
化合物半導体の結晶構造
これらの元素の組み合わせの中から、作りやすさや化合物の性質などから既に実用化されているのが、GaAs、InP、GaN等のIII-V族半導体や、ZnTe、CdS等のII-VI族半導体です。
結晶構造は、例えばGaAsの場合、図1のようにAsがGaの作る正四面体に取り囲まれた様な形( Gaも同様にAsが作る正四面体に囲まれる)になり、全体として閃亜鉛鉱型と呼ばれるものになります。
【図1 GaAsの結晶構造】
化合物半導体の電子状態
GaAs中の電子の状態は、図2のようになっています。
シリコンの場合と同様にGa電子のsp3混成軌道とAs電子のsp3混成軌道から新たに、結合軌道と反結合軌道が形成され、結合軌道は価電子帯に、反結合軌道は伝導帯になります。
【図2 GaAs中の電子の状態】
バンドギャップはシリコンより大きく、約1.42eVです。
ドナー不純物としては、VI族のS、Se、Teなどが使われ、アクセプター不純物としてはII属のZn、Cdなどが使われます。IV属のSiは、Gaの位置に入ればドナーに、Asの位置に入ればアクセプターになります。結晶を作る条件で制御することができます。
2.混晶半導体とその応用(LED, LD)
化合物半導体では、例えばGaxAl1-xAs(0≦x≦1)のように、GaAsとAlAsの中間的な性質をもった半導体を作ることが可能です。これを「混晶半導体」と言い、InxGa1-xAsyP1-y(0≦x≦1、0≦y≦1 )のように、4元からなる混晶半導体も実用化されています。
III-V族半導体の重要な応用分野(用途)として発光ダイオード(LED)やレーザーダイオード(LD)があります。
発光の仕組みは、何らかの方法で伝導帯に大量の電子を入れてやるとこれらの電子が価電子帯に落ちる時にバンドギャップに相当するエネルギーを持つ光を出すというもので、発光波長はバンドギャップの大きさで決まります。
従って、混晶の比を変えることでバンドギャップの大きさを変え、発光波長を変えることができるわけです。
下は、代表的なレーザーダイオードの発光色と混晶の対応です。
- 青:GaInN
- 赤:AlGaAs
- 赤外:GaInAsP
3.SiCとワイドバンドギャップ半導体
III-V族半導体、II-VI族半導体に加えて、IV族同士の組み合わせ、例えばSiCも作ることが可能です。
IV族同士ですから、sp3混成軌道で共有結合し安定な結晶を形成します。
SiCの結晶構造は、GaAsと同様の閃亜鉛鉱型のほか数十種類の形(「多型」と呼ばれます)を作り、その中で電子デバイス用として注目されているのは「4H-SiC」と呼ばれている構造のものです。
表2は、4H-SiCを含む代表的な半導体の特性を示しています。
【表2 主な半導体の種類と特性】
Si | GaAs | GaN | 4H-SiC | ダイヤモンド | |
バンドギャップ (eV) |
1.12 | 1.43 | 3.39 | 3.26 | 5.47 |
絶縁破壊電圧 (V/cm) |
3.0×105 | 4.0×105 | 3.3×106 | 2.8×106 | 1.0×107 | 熱伝導率 (W/cm・K) |
1.5 | 0.5 | 1.3 | 4.9 | 20 |
当連載コラムの第3回(バンド構造とフェルミ準位の基礎知識)で、半導体と絶縁体は程度の差と説明しましたが、一般的には絶縁体に分類される物質、すなわちバンドギャップが大きい物質でも適当なドナー、アクセプターがあれば、第4回(n型半導体、p型半導体って何?これで不純物半導体がわかる)での説明のように不純物半導体になります。
バンドギャップの大きい物質は、絶縁破壊電界強度が大きく、高温動作特性も優れているため、電気自動車のような高温環境下で高耐圧を求められるような応用に向けて注目されています。
表2に示すように、集積回路等に大量に使われ半導体の王様であるSi、高周波デバイス、光デバイスで確固たる地位を築いているGaAsの特性と比較して、4H-SiCは、絶縁破壊電圧が高く、熱伝導率も大きいことから、高温、高電圧で動作する電子デバイスの材料として注目され、既に一部で実用化が進んでいます。
GaNも、日本人がノーベル賞を受賞した青色発光ダイオードで光デバイス用材料として有名になりましたが、やはり絶縁破壊電圧が高く、熱伝導率も大きいことから、高温、高電圧で動作する電子デバイスの材料として注目され、こちらも一部で実用化されています。
また、化合物半導体ではありませんが、ダイヤモンドは熱伝導率の大きさから、さらに過酷な環境での使用にも耐えうるものとして期待されています。
これらの半導体を、「ワイドバンドギャップ半導体」と呼んでいます。
[※関連記事:【パワー半導体の基礎】ワイドバンドギャップ半導体の特徴/メリット/課題 はこちら]
4.半導体デバイスとは
ここまで5回にわたるコラムで、真性半導体、n型半導体、p型半導体を、それぞれ別の物質として説明してきましたが、実はこれらを一つの固体(ウェハと称する円盤)の中に領域を分けて作りこんだものが「半導体デバイス」です。
半導体デバイスの代表格であるLSIは、直径300mmのシリコンウェハ上に数mm角のデバイスチップとして作られ、この中には数十nm程度の大きさのCMOSが多数作りこまれています。
図3は典型的なCMOSの断面構造模式図で、この構造が右側の図のオレンジ色の線の部分に対応します。
【図3 CMOSの断面構造とシリコンウェハとの大きさの比較】
トランジスタ層の中のn型、p型と書かれた領域はシリコンにドナーあるいはアクセプターをドープした領域で、このような構造を作った場合に領域の境目、つまりn型とp型が接触した部分や、半導体と金属あるいは絶縁体が接触した部分(接合と言う)で何が起こるのかを理解することが、半導体の動作を学ぶためには必要になります。
5.まとめ(おさらい)
- III-V族、II-VI族、またIV-IV属同士でも化合物半導体を作ることができる。
- 化合物半導体では、混晶の比率によってバンドギャップの大きさを、即ち発光波長を変えることができる。
- IV-IV属半導体の中で、SiCはワイドギャップ半導体として注目されている。
次回以降のコラムでは、接合部における電子の挙動から始めて、ダイオード、トランジスタなどの個別デバイスの動作について説明します。
(アイアール技術者教育研究所 H・N)