【品質保証塾・中級編】QMSとは?品質保証体制の本質をISO9000シリーズから考える
製造業にお勤めの方であれば、誰しもQMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)という言葉を聞いたことがあるかと思います。
品質マネジメントシステムとは、製品やサービスの品質を管理するためのシステムであり、品質マネジメントシステムの標準としてはISO9000シリーズという国際規格が有名です。
今回はISO9000シリーズを軸として、品質マネジメントシステムとは何かを解説することで、品質保証体制の本質に迫っていきます。
目次
1.ISO9000シリーズとは?
ISOという言葉は、何度も耳にしたことがあるかと思います。
「ISO」とは”International Organization for Standardization“(国際標準化機構)という非政府機関の略称で、この機関が制定した規格をISO規格といいます。
彼らの主なミッションは、全世界に通用する国際規格を確立することです。
その中でもISO9000シリーズは、品質管理に特化した国際規格になります。
”シリーズ” と呼ばれる理由は、9000番台をひとまとめにしているためです。認証を取得している企業の方の中には、ISO9001しか見たことがないという方もいらっしゃるかもしれません。ISO9000シリーズの詳細は以下のようになります。
- ISO9000: 当該シリーズで用いられる用語の説明や、基礎的な考えがまとめられた規格
- ISO9001: 当該シリーズが求める要求事項がまとめられた規格
- ISO9002: 製造を軸とした品質マネジメントシステムの要求事項がまとめられた規格であるが、2000年度の改定で廃止されISO9001に統合された
- ISO9003: 最終検査・試験にを軸とした品質マネジメントシステムの要求事項がまとめられた規格であるが、2000年度の改定で廃止されISO9001に統合された
- ISO9004: 組織の持続性成功のための品質マネジメントアプローチとして発行された規格
- ISO19011:マネジメントシステムの監査の指針を制定した規格
2.ISO9000シリーズを導入するメリットは?
ISO9000を導入することで得られるメリットは以下の通りです。
企業への信頼度や安心感が向上する
ISO9000シリーズは、前述の通り品質を管理するための国際規格になります。ISO認証を取得するためには、外部の認証機関による審査を受けて合格する必要があるため、認証を持っている企業は「ある程度の品質管理体制は整っている」と見なすことができます。
そのため、お客様や外部の利害関係者から信頼度や安心感が得られ、新規ビジネスの受注に貢献したり、同業他社との差別化を図ることができます。
また、取引先によってはISO認証の取得を必須条件にする企業もあるため、この認証を受けていないと、そもそも取引が始められないというケースも出てきます。
ISO9000シリーズを導入することで、企業の信頼度を高め、新規ビジネスへの拡大が見込まれます。
業務の属人化を防ぎ組織の持続性が向上する
ISO9001認証を受けるには、品質マネジメントシステムを構築する必要があります。
このマネジメントシステムは、組織としての決まりや手順を確立することで、品質を管理するための仕組みを構築することになります。
そのため、従業員の退職や新規雇用が発生しても、組織としての仕組みが確立されているため「誰でも同じ仕事ができるようになる」効果が見込まれます。
ISO認証を受けることは、業務の属人化を防ぎ組織の持続性に寄与できるのです。
品質マネジメントシステムの確立によって生産性が向上する
マネジメントシステムを構築することで、決まりや作業が明確になります。そのため、今まで「阿吽の呼吸」で行っていた業務が、誰が何をいつしなくてはならないのか明確になり、業務の効率性が向上する効果が見込まれます。
この効率性の向上により、無駄な作業や手順が見直され削減されたり、今まで曖昧だった基準を見直すことで不良率が低減したり、組織の生産性が向上し、利益率やコスト削減に貢献できます。
継続的改善に寄与できる
品質マネジメントシステムはPDCAサイクルに基づき継続的な改善が行われます。
PDCAとは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価・確認)」「Action(改善)」の頭文字を取った言葉で、これらを継続的に繰り返すことで、より良い組織体制へ向上します。
マネジメントシステムを構築することで、組織の課題や問題(利益率UP、品質不具合など)が継続的に改善され、より強固な組織へとなります。
3.QMS(品質マネジメントシステム)とは?
QMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)とは、品質を管理するための仕組み(マネジメントシステム)です。よい品質の製品やサービスを継続的に生み出し、顧客満足度を向上させたり、組織の効率性向上を目指すために、QMSは重要な役割を担っています。
前述のISO9000シリーズの規格での要求事項に沿って、PDCAサイクルを構築します。
ISO9001に準じたQMSの全体像は下図の通りです。
ISO9001では「トップマネジメント」が品質マネジメントシステムに関してリーダーシップを発揮し、目標へのコミットメントが求められてます。リーダーシップとは、方針や目標の方向性を一致させ、組織に関わる人々が目標達成に向けて積極的に参加する状態を創り出すことを言います。
要するに経営者や本部長を巻き込み、トップマネジメントが品質マネジメントシステムにコミットすることが求められています。これはマネジメントシステムの形骸化を防いだり、従業員全体が積極的に取り組むようになる効果が見込まれます。
QMSの全体構成として、トップに品質方針があり、この品質方針がトップマネジメントの決意であり、組織全体の方向づけとされます。
この方針を成し遂げるために、各部門が目標値を定め、それを達成するための計画と具体的なアクションを決定し、PDCAサイクルを回しながら活動をしていくのです。その活動も人によって差が出てしまったり、そもそも活動が形骸化しないために、組織としての規定や標準、手順書等を作成し、組織全体の「仕組み(マネジメントシステム)」に沿って業務を行います。
品質方針には、一般的に「顧客満足度を高める」「社会貢献をする」といった、大まかなことしか書かれていないですが、経営層が品質に関する重大な判断を行う際に、品質方針が掲げられたりすることもあるので、重要なドキュメントになります。
4.ISO9001要求事項の全体像
ISO9000シリーズの中で、具体的な要求事項が記載されているのが「ISO9001」規格になりますが、要求事項の大きな構成は下表の通りです。
章 | 内容 |
4 | 組織の状況 |
5 | リーダーシップ |
6 | 計画 |
7 | 支援 |
8 | 運用 |
9 | パフォーマンス評価 |
10 | 継続的改善 |
ここではそれぞれの章の概要を説明していきます。
第4章:組織の状況
マネジメントシステムを構築し、継続的改善を行っていくうえで、組織がどのような問題をかかえ課題を持っているのかを明確にしたうえで、それらを考慮した仕組みを作り、改善しなくてはなりません。「組織の状況」とは、組織が置かれている状況、利害関係者、方針・ビジョンなどを明確にすることで、組織に見合ったマネジメントシステムを構築し、顧客満足の獲得に貢献することができます。
組織の状況を理解せずにマネジメントシステムを構築したとしても、それは組織の自己満足に終わり、お客様からすると「あってもなくてもどっちでも良い」マネジメントシステムになりかねませんね。
組織の信頼度を上げるためにも「組織の状況」を正しく把握することが重要となります。
第5章:リーダーシップ
従業員の積極的参画を促し、仕組みの形骸化を防ぐためには、組織の指導者(トップマネジメント)がリーダーシップを発揮することが不可欠になります。
ISO9001におけるトップマネジメントの役割は大きく分けて3つあります。
- コミットメント(品質マネジメントシステムの有効性の説明責任、人々の積極的参加の指揮および支援、品質マネジメントシステム要求事項へ適合する重要性の伝達等)
- マネジメントレビュー(品質方針の確立とレビューおよび維持、組織の目的および状況に対して適切なレビュー等)
- 組織内での権限の割り当てと伝達(各部門への権限及び責任の割り当て、権限及び責任の伝達等)
第6章:計画
品質目標を達成するための具体的な計画を策定する必要があります。機能、階層、プロセスにおける品質目標を確立し、組織全体のPDCAサイクルのP(計画)の構築が求められています。
実際に、誰が何をいつ、どのように実施し、必要な資源や計画に対する評価方法を定義します。
第7章:支援
計画を実行するうえで必要な資源(リソース、力量、知識など)を明確にします。
これらの支援のもと、品質マネジメントシステムの運用が可能となります。
必要な資源の例は、
- 人々(従業員や関係各位等)
- インフラストラクチャー(ネットワーク、パソコン、オフィス等)
- プロセスの運用に関する環境(心理的要因:ストレス等、物理的要因:気温、衛生状態等、社会的要因:差別、対立性等)
- 監視用および測定用の資源(装置、測定器等)
が挙げられます。
第8章:運用
実際に品質マネジメントシステムを運用していくうえでの具体的な要求事項が書かれています。
第9章:パフォーマンス評価
実際に品質マネジメントシステムを構築したら、計画に基づき運用され、そして結果がどうだったのか評価される必要があります。その評価に関する要求事項が書かれています。
評価軸は、大きく下記の3つに分けられます。
- 自己による評価
- 他社による評価(監査)
- 上司による評価(マネジメントレビュー)
第10章:継続的改善
PDCAサイクルを回す最後の部分になります。評価に基づき、より良くするための改善を行います。この継続的改善を通して、顧客満足度の向上や、組織の効率性の向上を、永久的に目指すことができるのです。
5.まとめ
今回は、品質マネジメントシステムについて規格の視点から、実際にどのような仕組みを構築していくべきかを解説しました。
- ISO9000シリーズが有名な品質に関わるマネジメントシステムの規格
- ISO9000シリーズを導入するメリットは「企業への信頼度や安心感が向上する」「業務の属人化を防ぎ組織の持続性が向上する」「品質マネジメントシステムの確立によって生産性が向上する」「継続的改善に寄与できる」
- 品質マネジメントシステムとはトップマネジメントによるコミットメントを中心に、組織全体のPDCAサイクルを仕組化したもの
- ISO9001規格は全10章から成る
次回は、5S活動とその重要性について解説します。
(アイアール技術者教育研究所 Y・S)