【早わかりポンプ】グランドパッキン,メカニカルシールなど “軸封”の種類/用途/使い分けを総整理!

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ポンプに関する本連載の「ポンプの要素部品「軸3兄弟」を解説(軸受/軸封/軸継手)」の回で、軸に関連する3つの要素部品について概説しました。
今回は、このうちの「軸封」部品について、より詳しく具体的に解説します。

《前提知識》ポンプの軸封方式

軸封部品は、ポンプ回転軸がケーシングを貫通する箇所から、圧力を持ったポンプの内部液が外へ漏れ出さないようにするための部品です。

ポンプの軸封方式には次のものがあります。

  1. グランドパッキン
  2. メカニカルシール(メカシール)
  3. スロットルブッシュ
  4. フローティングリングシール

このうち3と4は漏れを前提として軸封からの漏れを系外へ出さないように回収する方式の非接触シールであり、ボイラ給水ポンプ、デスケーリングポンプなど限られた用途に使用されます。

 

1.グランドパッキン

グランドパッキン」とは、グラファイトなどの繊維を編み込んだものをリング状に形成し、パッキン押えという部品を締め込むことで回転軸に装着した軸スリーブに密着させて、漏れを抑制するものです。

完全に漏れをなくすと摩擦発熱によりスリーブとパッキンが焼き付いてしまうため、適度な締め加減で一定量の水を漏洩させながら使用します。すなわち、ある程度の漏れを許容できることが前提条件です。したがって、一般の水ポンプに使用され、毒性、発火性など有害な液には使用できません

グランドパッキンの機能を適正に発揮させるためにはグランド押えの締め具合が重要で、保守管理する人の経験、力量に頼る部分が大きな比率を占めます

 

グランドパッキンの種類

グランドパッキンには、基本形、ランタンリング形、スロートブッシュ形、の3種類があります。

図1に各種類の構造を、表1に使い分けを示します。
 

グランドパッキンの形式

 

グランドパッキンの使い分け

 
表1に記載のある「スタフィンボックス」とは、グランドパッキンやメカニカルシールなどの軸封部品が装着される部位のことを指し、通常はポンプ吸込み圧力が作用します。
ボックス圧力が大気圧以下の場合は、外から空気を吸い込んでしまうため、ランタンリングから水を注入することで大気と遮断して、空気吸込みを防止します。

 

2.メカニカルシール

メカニカルシール」とは、軸とともに回転する回転環と回転しない固定環とが、互いに摺動しながらスプリング(またはベローズ)によって押し付けられて密封性を高めて、漏れを最小化する構造の軸封装置です。

例えば”API682″というメカニカルシールに関する規格では、許容漏れ量は5.6g/hと規定されています。規定許容量の微細漏れの場合、摺動面を冷却潤滑した後、蒸発して目視ではほとんど漏れがないように見えます。しかし、完全に無漏洩ではないことは理解しておいてください。
回転環と固定環の隙間を数μmに保って、隙間にフラッシング液と呼ばれる液体を供給して摺動面を潤滑冷却して、隙間からの漏れが最小限に保たれるように設計製造されます。

 

(1)フラッシング方式

油など自己潤滑性のある液体を扱う場合に、「デッドエンド」と呼ばれるフラッシングを行わない方式もありますが、フラッシングには大きく分けて次の2つがあります。
液質、圧力、などの条件に応じて適正な方法を選択します。

 

① セルフフラッシング

セルフフラッシングでは、図2のようにポンプ揚液を吐き出し側から分岐して、オリフィスで減圧した後 メカシールへ供給します。
液温が高い場合はフラッシング配管の途中にクーラを置く、液中に細かい異物(スケール)が含まれる場合はフラッシング配管の途中に異物分離用のサイクロンセパレータを置く、などのオプションがあります。

 

セルフフラッシング

 

② 外部(エキスターナル)フラッシング

外部フラッシングでは、図3のように揚液とは別の液体を外部からメカシールへ供給します。
異物が多い、あるいは毒性や発火性を有する危険液である場合など、ポンプの揚液がセルフフラッシングに適さない場合に適用します。
図中のFiは流量計、Pfは圧力計で、フラッシング状態の監視用です。

 

外部フラッシング

 

(2)配置によるメカニカルシールの分類

① シングルシール

図4のように、軸封1ケ所に1組のシールを配置したもので水など危険性の低い液体やボックス圧力が低い用途に使用します。フラッシングは、セルフ・外部いずれも適用可能です。

 

シングルシール

 

② タンデムシール

図5のように2組のシールを同一方向に配列したもので、2組のシールの間をボックス圧と大気圧の中間圧とすることで1シールが受け持つ密封圧力を半減させることができます。ボックス圧力が高い場合に適用します。
内部側メカシールは、通常はセルフフラッシングとします。外部(大気)側メカシールは外部フラッシングとし、バリアとよばれる液を循環させます。

 

タンデムシール

 

③ ダブルシール

図6のように軸封1ケ所に2組のシールを背面合わせに配置して中間室にボックス圧より高い圧力のフラッシング液を供給するもので、外部への漏れを許容しない場合に適用します。
中間室圧力を常にポンプ内部圧力より高く保ちます。シールが漏れても、圧力差によりフラッシング液がポンプ内部へ入り、ポンプ内部液が外部へ漏洩することはありません。

フラッシング液を循環させるための配管系統と機器類(リザーバもしくはアキュムレータ、シール水ポンプ、など)、監視計器が必要です。(シールユニット)フラッシング液圧力が常にポンプ内部圧力より高く保たれていることを計器で監視します。

 

ダブルシール

 

(3)構造によるメカシールの分類

① バランスシール、アンバランスシール

図7に示すように、メカシールにはポンプ内部圧力と大気圧の差による面圧が押付力として作用します。この面圧が作用する面積をApとします。

一方、シール摺動面にはポンプ内部圧力から大気圧まで減圧する圧力分布をもつ、シール面を開く方向の面圧が作用します。こちらの面圧が作用する面積をAsとします。

押付面圧作用面積Apと開き面圧作用面積Asの比を「バランス比」といいます。バランス比Ap/Asが1.0より小さいものを「バランスシール」といいます。

バランスシールでは、シール内径Dsを内側のシール軸径Dbより小さくする必要があるので、シール部の軸が段付き形状となります。
バランス比が小さいほど、シール面に作用する開き方向の圧力分布面積が大きくなるので、シール押付力が緩和されます。ポンプ内部圧力(シール圧)が高い場合に適用します。

 

アンバランスシールとバランスシール

 

② 回転型シール、静止型シール

図8をご参照ください。スプリング要素が回転環に取付けられているものを「回転型」、静止環に取付けられているものを「静止型」といいます。
高速回転の場合、あるいは液中にスラリーを含有する場合は、静止型を適用します。

 

回転型シールと静止型シール

 

③ スプリング要素

図9(1)のように小径のコイルスプリングを多数円周方向に配列したものを「マルチスプリング型」、図9(2)のようにポンプ軸の外周を廻る大径のコイルスプリングが一本配置されたものを「モノコイル型」といいます。

揚液が高粘度であったり、スラリーを多量に含有したりする場合はモノコイル型を適用します。
この他に、高温液を扱う場合に、スプリングの代わりにベローズを用いる場合もあります。

 

マルチスプリングとモノコイル

 

3.スロットルブッシュとフローティングリング

回転軸と円筒状の固定ブッシュ(リング)の間を狭い隙間に保ち、ブッシュ(リング)前後の圧力差により漏洩する水をシール水戻り配管を通して回収しつつ、ブラケットカバーという部品より外部へは漏洩しないようにするシール機構です。

一定量の漏洩量回収を前提としますので、危険性の低い水を使用する用途に専ら適用されます。漏洩量をなるべく少なくするため、回転側と固定側両方の摺動表面に溝(平行溝あるいはらせん溝)を設けてラビリンス効果による漏洩量減少を図ります。

接触部分が無いので、グランドパッキンやメカシールと異なり摩耗は極めて少なく、長期間の連続運転を要求されるボイラ給水ポンプ(BFP)に多く適用されます。

固定側を一つの円筒部品としたものが「スロットルブッシュ」分割型で径方向に動き得るリングとしたものが「フローティングリング」です。

BFPは内部液温が100℃以上ですので、そのまま外部(大気圧)に漏洩すると蒸気化するため、ブッシュまたはリング中間部から低温のシール水を注入して50~60℃程度の温水として回収します。
ブラケットカバーから外部へ漏洩することが無いようにシール水戻りの一部をバイパスする、ポンプ内部圧力が高い場合には、シール水手前に低圧部へ連絡する配管を設けて必要な注入圧力を低下させる(中間抽出)、などの工夫を行います。

 

スロットルブッシュの例

 

ということで今回は、ポンプの軸封に関する基礎知識を解説しました。
用途・目的に応じて適切な軸封部品を使い分けられることを目指しましょう。

 
(日本アイアール株式会社 特許調査部 S・Y)

 

 

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